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■「品乳ブラ」をなぜつくったのか
【田原】 ハヤカワさんは胸の小さい人向けのブラジャーや細い人向けのワンピースのブランドを立ち上げた。きっかけは何ですか。
【ハヤカワ】 高校生のころ、自分が着たいと思えるようなデザインのタイツがなかったんです。それなら自分で好きな柄を入れようと思って、カラースプレーを吹きつけてオリジナルのタイツをつくりました。それを予備校にはいていったら、友達から「いいね、私も欲しい」とお願いされてつくるように。それがブランドをつくった最初のきっかけです。
【田原】 欲しい人には販売してた?
【ハヤカワ】 はい。リアルな友達だけじゃなく、ブログの読者も「欲しい」と言ってくださって、ネットを通して通販も始めました。
【田原】 どのくらい売れたのですか。
【ハヤカワ】 最初のうちは10~20足でした。でも、どんどん増えていって。自分でつくったものを販売するイベントがあるのですが、高校3年生のときはそのイベントで一日に200足がすごい勢いではけちゃいました。
【田原】 一足一足、手づくり?
【ハヤカワ】 最初は自分でつくってました。でも、受験勉強を頑張ってたので、高2のころにはもう時間を割けなくなって、工場にお願いするようになりました。ネットで探すと、「何足いくらでやります」というところがありまして。
【田原】 工場に発注して売るとなると、立派なビジネスだ。タイツはどれくらい儲かったのですか。
【ハヤカワ】 タイツは1足5000円。高校の3年間で、300万~400万円くらい売り上げがありました。原価が高かったので、自分の手元に残ったのは30万~40万円でしたが。
【田原】 タイツはいまも売ってるの?
【ハヤカワ】 高校卒業を機にやめてしまいました。高2の終わりごろからオリジナルプリントのタイツをつくられる方が増えてきて、競争率が高くなってきたんです。このままやっていても市場的に厳しいことはわかっていたので、いったん切りました。
【田原】 デザイナーというより、経営者視点ですね。
【ハヤカワ】 タイツをつくる前から、ネットオークションで買ったものを転売してお小遣い稼ぎをしていました。たとえばハロウィンでかぶるような色のついたカツラをオークションで買って、自分で写真を撮ってネットに載せると、けっこうな値段で売れたりして。一番多いときで月10万円くらいになってたかな。経営という感覚はなかったですが、そういうのはおもしろいと思ってました。
【田原】 でも、ハヤカワさんは美大に進学される。ということは、やっぱりデザイナー志望だった?
【ハヤカワ】 はい。ただ、デザイナーといっても、グラフィックやポスターのほうです。服飾のデザインもやってみたかったのですが、そちらは専門的な知識が必要。それよりも広告のデザインでかかわりたいなと。
画像を見るウツワ社長 ハヤカワ五味氏
【田原】 どうして? 洋服がお好きなら、そのデザインをやればいいのに。
【ハヤカワ】 中学生や高校生のころ、せっかくいいものをつくっているのに、なかなか売れていない人たちが大勢いたんです。価値あるものを人に届けるためには、伝え方をしっかり考えないといけない。そう考えて、広告の勉強ができるグラフィックデザイン科に進みました。
【田原】 大学入学後、ランジェリーブランド「feast」(http://feast.tokyo/)をおつくりになる。
【ハヤカワ】 もともと、自分のブランドを立ち上げたいという漠然とした夢を持っていました。たまたまタイツの売り上げで手元にお金もあった。それでまずワンピースをつくって展示会に出しました。そのあと、自分の体形のコンプレックスを解消できる商品をつくろうと、大学1年生の6月に立ち上げました。
【田原】 体形にコンプレックスがあったのですか?
【ハヤカワ】 体が細くて小さいと、人に対して強く出られず、いじめの標的にされやすいんです。実際、私は小学生のころにいじめられた経験があって、細身であることや胸が小さいことがコンプレックスになっていました。
【田原】 そのコンプレックスをむしろ強みにするために、胸の小さい人向けのブラジャーをつくろうとしたわけね。よく知らないけど、市販でそういうブラジャーは売ってないの?
【ハヤカワ】 売ってないです。たとえばショッピングモールに下着屋さんが3店舗入っているとします。ぜんぶ回っても、私の体に合うサイズは2着あればいいほう。しかも、なんとか見つけた2着もデザインがかわいくない。これは自分で何とかするしかないなと。
画像を見るfeastの商品ページ。「シンデレラバストの女の子へ送る、ランジェリーブランド。あなただから似合うランジェリーを。」がコンセプト
【田原】 ハヤカワさんのような悩みを抱えている女性はほかにもいるんでしょう? どうしてメーカーは小さい人用をつくらないのかな?
【ハヤカワ】 数が少なくて、コストに見合わないからだと思います。ブラジャーって、サイズが変わっても価格は基本的に同じ。胸の小さい人用は生産数が少ないのでコストがかかるのに、よく出るサイズと同じ価格でしか売れないとなれば、そもそもつくるのをやめようという話になる。
【田原】 たまに小さい人用のものがあっても、デザインがかわいくないと。それはどうしてだろう。
【ハヤカワ】 特徴的なデザインだと売れ残る可能性があるから、シンプルで無難なデザインにせざるをえないのでしょうね。私から見たら、大きい人のほうがかわいいやつがたくさんあってうらやましいなと。
■胸が小さい人はどうしてるの?
【田原】 素朴な疑問ですが、胸の小さい人用のブラジャーがないとしたら、胸の小さい人はどうしてるんですか。
【ハヤカワ】 靴と同じです。足のサイズの小さい人は、「ワンサイズ大きいのを買って中敷きを入れてください」と言われますが、下着もショップに行くと、「一番小さいサイズを買って、あとは詰め物で調整して」と言われてしまいます。
【田原】 それは大変だ。
【ハヤカワ】 女性にも見栄があるので、「ワンサイズ大きいやつでもいい」と言われたら、つい買っちゃうんですよね。でも、これは問題。メーカーは、サイズをしっかり測って自分に合ったものをつけましょうというキャンペーンをよくやっています。でも一方で、「小さい人は詰め物で調整を」ということを公式に言っています。胸の小さい人からすると、「いったい何なの?」っていうのが本音です。