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会社の飲み会拒否で「人生」は詰むのか?

ジャーナリスト 溝上 憲文

上司の誘いを断ると昇進・昇格に影響するのか?


今の時期、何かと職場の飲み会や上司からの飲みの誘いが増える。以前は万難を排して参加する社員がほとんどだったが、今では「ちょっと用事がありますから」とあっさり断るケースも珍しくない。

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飲み会ではないが、バブル期の1991年に新入社員に「デートの約束があった時、残業を命じられたらどうするか」という質問に「断ってデートをする」と回答した人が37%もいたのに驚いたことがある(日本生産性本部調査)。また、2016年度に実施した「仕事中心か、私生活中心か」の質問では、仕事中心より私生活中心が上回っている(同調査)。確実にプライベート重視派が増えているようだ。

だが、気になるのは上司の誘いを断ると人事評価や昇進・昇格に影響することがないのかという点だ。医療機器メーカーの人事部長はこう語る。

「かつては上司に誘われれば忠犬のようにつきあうことで上司の覚えがめでたくなり、“情実人事”で課長になる人もいました。でも今ではライン課長になれるのは3割、しかも仕事の成果を出さなければ無理です。飲みにつきあって心証をよくしても出世できる時代ではない。また、最近は女性社員を含めて子育てなどで終業後の時間が制約される社員も増えていますし、参加する、しないで評価が出世に影響を与えることはなくなっています」

よって現在は飲み会を断っても特に問題はないという雰囲気があるようだが、社風や業種、所属部門などが変われば、飲み会の重要性が増すケースもある。

▼「部下の人事評価は、当然、酒席での観察を含む」

ある大手銀行の人事担当者は、部署での飲み会参加は「鉄則だ」と語る。

「部・課長から誘われたらよほどの事情がない限り、昔も今も参加は必須です。参加しないと部長から『彼はどうしたのかね』と必ず聞かれますし、一種の“おつとめ”みたいなものです。日頃部下と話す機会のない上役にとっては情報収集の場でもあり、酒の席での話題には目を光らせています。部下の発言や態度はけっこうチェックしていますし、人事評価には業績評価以外に行動評価がありますが、酒席での観察も入っているのは間違いないでしょう」

世間では飲み会への参加強要はパワーハラスメントではないかとの意見もあるが、大手銀行では「飲み会=仕事」というのが暗黙の了解のようだ。

そつがなくバランス感覚の優れた人が昇進する銀行では減点評価が主流。ふだんの仕事内容は当然のことながら、酒席も一切気を抜けない。無論、飲み会拒否はマイナス評価でしかないのだ。

上司に付き合うなら、ランチ3回より飲み会1回が得


さらに取材すると、個人的な「ちょっと一杯、どう?」といった誘いを部下に断られたらいい気持ちはしない、という本音を吐く管理職は少なくない。

食品業の人事部長は、いくら酒席が苦手な人でも、まったく参加しないのは問題だと断言する。

「つきあいが悪い人よりもつきあいがいい人が好まれる。上司も人間ですから、誘っても来ない人よりも来る人のほうに愛着がわきます。つきあいの悪い人は声もかからなくなる。上司も心を許し、当然、いろんな情報も入ってきますし、それを使って仕事がやりやすくなる場合もある。酒につきあわない人に比べて、仕事でも有利なことは間違いない。昼間のランチに3回行くよりも1回飲みに行ったほうが効果はあります」

1回の飲み会は3回分のランチ以上の“効果”がある……。食べるだけでなく、互いに酒を何杯か飲み交わせば「仕事が有利」になるのなら、飲み会のコスパは案外高いと思う人もいるかもしれない。

▼なぜ、上司は夜にならないと腹を割って話せないのか

もちろん上司のグチにつきあうのはごめんだろう。しかし、上層部が秘かに推進している事業計画や取引先企業の役員人事、得意先の担当者とのゴルフの誘いなど有形無形の有益な情報が得られるのも日本企業独特の“飲みニケーション”のメリットだろう。

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そもそも社内の“飲みニケーション”はある意味で上司にとって合理的だった。

昼間の仕事がとにかく忙しく、部下との会話に時間を割く余裕もないので「ちょっと君、今晩は空いているかね」と誘って重要な話をした。中には海外赴任の内示を酒席で話す上司もいた。今だったら「そんな重要な話は昼間にしてください」と言いたくなるが、言いにくい話や重要な話は、夜の酒を交えて話すのが企業に限らず、政治の世界でも1つの文化にもなっていた。

だが、今では部下を連れ回す上司も少なくなり、“飲みニケーション”の頻度は明らかに減っている。部下に奢る上司の懐の事情もあるだろうが、残業削減の風潮で部下を早く帰らせて、管理職が遅くまで仕事をしているということもあるだろう。上司も簡単には誘いにくくなっている。

本来なら酒も飲まずに昼間にコミュニケーションを取るべきなのだが、部下と1対1の話す時間をとるのもままならない人もいる。そうなるとじっくり腹を割って話すにはどうしても夜の飲み会ということになる。

上司もうなずく、飲みの誘いの「上手な断り方」


となると、結局、部下は自分の生殺与奪の権利を握る上司の誘いを断ることは事実上難しいと考えざるをえなくなるが、化学メーカーの元役員は上司の飲み会の誘いにどう対応すればいいか、こうアドバイスする。

「出世するには社内のつきあいが大事なのは言うまでもありませんが、かといってべったりもいけない。つかず離れずのつきあいが大事であり、酒に誘われたら、これは自分にとって意味があるなと思えば積極的に誘いに乗る。どうもグチを聞かされそうだと思えば適当な口実を作って断ることも大事。戦略的なつきあい方を自分なりに考えることが大事でしょう」

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今は少ないかもしれないが、上司の中にはしつこく誘ってくる人もいる。用事があると言っても許してくれそうにない上司もいる。IT企業の副社長はこうアドバイスする。

「私も若い頃に実践していましたが、社外の業界人の勉強会や情報交換会などに積極的に参加していました。社内の人よりそうした人たちと飲んで話をするほうがよっぽど勉強になりました。できれば社外にそういうコミュニティを作ることです。おそらく上司がしつこく誘ってくるのは『こいつは俺と同じ種類の人間だ』という思いがある。そうではなく仕事の軸以外に別のコミュニティを持っていれば『今日は勉強会がありますので』と堂々と言えるはずです」

▼社内に敵を作らない「飲み会のお断り」作法

しつこいが、悪い人ではないからと意味もない飲み会にズルズルとつきあうのは自分にとってはデメリットでしかない。きっぱりと断る必要もあるが、その際に大事なのは相手に対する配慮だ。

中堅電機メーカーの元社長はサラリーマン処世術としてこうアドバイスする。

「一番大事なのは上司、同僚、部下への気遣い、配慮です。しかも敵を作らないように差別なく誰にでも配慮すること。酒席を断る場合も相手の気に障らないような言い方をすることです。どんなに嫌な上司でも1回はつきあう。1対1が嫌なら複数の同僚と飲みに行くことです。宴席では上司ではなく同僚と話をしていればよい。私なんか女の子とばかり話をしていましたよ」

部下である以上、上司を選ぶことができない。かといって嫌われるような言動は慎みたい。飲み会の誘いへの対応も含めて、よりしたたかで慎重な態度が求められているということだろう。

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