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「働かざるもの食うべからず」を続けるのか(佐々木実)

社会が閉塞感に覆われている現状を、「財政」という視点から、これほど明快に解き明かしている入門書もめずらしい。『財政から読みとく日本社会』(岩波ジュニア新書)を著したのは、財政社会学を専門とする井手英策慶應義塾大学教授である。3月の民進党大会での熱弁が話題になったが、民進党のブレインとしてではなく、財政学者としての井手氏の学説に触れてみたい。

井手教授の慧眼は、自己責任や自助努力を重んじる日本型福祉国家の本質を「勤労国家」と捉えた点にある。1961年に国民皆保険・皆年金制度の運用が始まるとき、政権を率いたのは大蔵省出身の池田勇人首相で、借金なしで予算を組む際、税の負担率を国民所得の20%以下に抑えることを目指した。高度経済成長の立役者とされる池田首相は「社会保障をぜいたくだと考えていたむき」があった。

とはいえ、政界の保革対立が激しかった70年代前半、田中角栄政権は高齢者医療費の無料化に踏み切るなど社会保障を大幅に拡充した。この時期、日本はヨーローッパ型の福祉国家の道を歩むかどうかの別れ道に立っていた。

70年代後半、石油ショックなどを乗り切るために財政投融資を活用した日本独特の土建国家路線が確立され、結果として、税の負担率を高めて福祉を充実させたヨーロッパとは異なる道を選択した。

高度成長が終焉して土建国家の財政赤字が深刻になると、大平政芳政権は社会保障費を切り詰めるために「家庭基盤の充実」を謳った。家族像にも勤労国家が投影され、専業主婦が福祉サービスの担い手として期待された。

結局、勤労国家の政策は、公共事業(おもに地方での雇用創出)と所得減税(勤労者への褒美)に収斂した。経済成長を前提とするなら整合性をもつ政策だが、バブル崩壊後の90年代に繰り返された所得税の大減税と巨額の公共投資は、政府の借金を雪だるま式に膨らませた。

一方で、90年代には高齢化が進み、共働き世帯が専業主婦世帯を上回った。医療や介護、子育て、教育などのサービスが求められるようになり、財政ニーズの面からも、土建国家、勤労国家の枠組みはもはや完全に時代遅れとなったのである。

ところが2000年以降、財政組み替えの余裕などなく、むしろ勤労国家の仕組みが逆回転して公共投資や社会保障費を削り落とし、地方や低所得者を狙い撃ちする「袋叩きの政治」が社会を分断した。

井手教授によれば、勤労国家とは生存権と勤労の義務を結びつける社会であり、いわば「働かざるもの食うべからず」の社会である。勤労国家という制度的要因を背景に、自分がギリギリのところで「中の下」にとどまっていると信じている多くの日本人は、格差問題を他人事として受けとめている。

井手教授は、ある意味で、70年代の歴史的な選択を問い直している。「人間に共通のニーズをみたすため、社会のメンバー全員を現物給付の受益者にする」という構想には強い反発が予想されるけれども、少なくとも、井手教授が描いた「勤労国家」という自画像はあるべき制度設計を議論する際の出発点となる分析である。

(ささき みのる・ジャーナリスト。4月21日号)

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