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「誘拐大国」ナイジェリアと日本の共通点とは:人身取引サプライチェーンの闇の奥

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5月6日、ナイジェリア政府は、イスラーム過激派ボコ・ハラムに誘拐されていた女子学生のうち82人が解放されたと発表しました

2014年4月、ボコ・ハラムはナイジェリア北東部のチボックにある学校から276人の女子学生を誘拐。その解放を求めて、ミシェル・オバマ大統領夫人(当時)をはじめ多くのセレブが参加するキャンペーンが展開され、当時「チボック・ガールズ」は世界的に関心を集めました。今回、解放された82名はこの時の被害者の一部で、その引き換えにナイジェリア政府は勾留中のボコ・ハラムメンバーを釈放したと伝えられています。

テロ組織の活動には、襲撃や爆破だけでなく、誘拐も含まれます。チボック・ガールズの多くはいまだ帰ってきておらず、さらに今回自由になった82名やその家族には今後もトラウマがつきまとうことになりますが、一部とはいえ解放されたことは、ひとまず朗報といえるでしょう。

ただし、その一方で、そもそもボコ・ハラムによる集団誘拐を生んだ社会の闇は、残されたままです。そこにはビジネス化した誘拐と、それと結びついた人身取引や奴隷制があります。そして、日本もこの問題と無縁ではないのです。

ビジネスとしての誘拐

まず、ナイジェリアについて取り上げます。ナイジェリアでは、チボック・ガールズ以外にも日常的に多くの人が誘拐されています。

米国務省の発表によると、ナイジェリアでテロリストに誘拐された被害者は、チボック・ガールズ事件の2014年に1298人でしたが、翌2015年には1341人に増加。2015年の数値で比較すると、イラク(3982人)、シリア(1453人)に次ぎ、ナイジェリアは世界ワースト3位

さらに、この統計はあくまで「テロ組織による」と認定されたもので、それ以外によるものは含まれていません。ナイジェリアでは誘拐が日常的に発生しており、その対象は政府高官や有名スポーツ選手(あるいはその家族)から市井の人々、外国人にまで及びます。最近では、4月9日に南東部エケットでトルコ人技師2人が誘拐され、10日後に救出されましたが、犯行グループがイスラーム過激派と結びついていたという報告はありません。

ナイジェリアはアフリカ一の産油国で、2000年代には資源価格の高騰を背景に、海外からの投資の急増。その結果、2005年には南アフリカを抜き、国内総生産(GDP)でアフリカ第1位となりました。しかし、石油が豊富であるがゆえに、他の産業がほとんど発達していないうえ、高度に機械化された現代の石油産業は、雇用をあまり生みません。

この状況のもと、治安の悪化にともない武器が流入したことも手伝って、ナイジェリアではビジネスとしての誘拐が横行。年間約6億ドルが誘拐犯の手に渡っているとみられ、誘拐された人のうち約10パーセントが殺害されていることから、「ビジネス」の蔓延による損失は、ナイジェリアのGDPの6パーセントにのぼると試算されます

テロ組織にとっての誘拐

これらは、いわゆる「犯罪」であり、テロとは分けて考えるべきという意見もあるかもしれません(テロがそもそも犯罪ではありますが)。しかし、「通常の」誘拐を行う犯罪者、あるいは犯罪集団と、いわゆる「テロ組織」の間にはヒトの行き来があるとみられるため、実際にはその境界線はグレーです。そして、その動機付けにおいても、必ずしも大きな違いがあるとは限りません

シリアやイラクを拠点とする「イスラーム国」(IS)など、政治的・宗教的なイデオロギーを前面に掲げるテロ組織の場合、資金調達は誘拐の目的における優先順位が低いので、被害者を躊躇なく殺害することが珍しくありません。彼らにとって、誘拐の主な目的は、資金調達よりむしろ、支持者に対する活動の宣伝や、自分たちに対する恐怖感を広めることにあります。

これに対して、ボコ・ハラムは、その殺害人数はISやタリバンなどにも劣りませんが、その誘拐には営利目的が鮮明です。実際、チボック・ガールズにスポットライトが当たりがちですが、彼女たちが誘拐された時、学校にいた男子生徒はほとんどが殺害されています。ボコ・ハラムが「商品価値」の高い女子学生だけを生かしたことは、誘拐の主な目的がその販売、つまり人身取引による利益にあることを示しています

つまり、ISなど「プロフェッショナルのテロリスト」と異なり、ボコ・ハラムは誘拐による資金調達そのものを目的にした「生活のためのテロリスト」なのです。イラクやシリアなどと比べても深刻なナイジェリアあるいはアフリカの貧困が、その背景にあります。

人身取引の闇

ナイジェリア、あるいはアフリカで蔓延する誘拐ビジネスは、人身取引や奴隷制とも結びついています

アフリカでは人身取引が横行しており、その主な「供給源」は誘拐ビジネスにあるとみられています。身代金をとらない(とれない)場合、犯罪者は誘拐の被害者を「売る」ことが一般的です。ボコ・ハラムもこれまで「イスラームに改宗させたうえで少女たちを売り飛ばした」と公言していました。

人身取引の被害者の多くは、無給労働などの奴隷状態や、児童労働、強制的な売春に行き着くとみられます。「安い働き手の需要」があるからこそ、人身取引は成立します。Global Slavary Indexによると、2016年段階で世界には4580万人の「奴隷」がおり、このうちアフリカには約623万人(13.6パーセント)がいます。「奴隷」人口が87万5500人と試算されたナイジェリアは、アフリカワースト1位です。

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