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幼すぎる組織犯罪対策の国会議論

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条約の元になったリヨンサミットの「組織犯罪対策に関する40の勧告」をG8の当局者で検討した際の事である。休憩タイムにロシアのメンバーが「Believe us,we are from ex-KGB」と囁く言葉に背筋が凍る思いをしたことがある。出張者からそんな率直な言葉が口を突くぐらいロシアで腐敗していないと信頼できるのは、旧KGB(現連邦保安庁)くらいになってしまった。アジア太平洋地域のマネロン対策組織(APG)には中国のほか、台湾や香港も加盟している。全世界に広がる華僑社会の中で組織犯罪の資金の流れを食い止めるためには、台湾や香港の銀行も等しく加わらなければ対策の効果が上がらないことを、政治的には「一つの中国」にこだわる北京の中国政府すら認めざるを得ない。
TOC条約では高級官僚の汚職とマネー・ロンダリングをそれぞれ組織犯罪の柱に取り上げている。意外な感じを持たれる向きもあるだろうが、条約起草の時点で既にそれらが洋の東西を問わず典型的な組織犯罪と認識されていたのである。
 
⒋冷戦構造の終結は、必然的にヒト、モノ、カネ、データの全世界的な移動を容易にし、結果として組織犯罪は一気にグローバル化した。
各国の組織犯罪対策もこれに対応してグローバル化せざるを得なくなった。具体的には、ヒト、モノ、カネ、データに関する各国の法規制と法執行(取締り)体制の両方において、平準化される必然にあった。法規制と法執行のいずれかで世界標準より格段に緩やかな国や地域は、犯罪対策上のループホール(穴)と見られて、ダーティなヒト、モノ、カネ、データの抜け穴になってしまう。
秘密厳守が売りだったスイスの銀行でさえ、犯罪絡みであれば預金者情報を回答するようになった。インド洋の小国は「外国からの国内投資自由化法」がマネロン助長の世界的な疑いを招いたため、結局、数年後に改廃せざるを得なかった。
⒌マネロン対策は、かつてわが国では薬物不正取引の取締りに関連して紹介され、導入されたが、先にも触れたとおり、今ではすべての罪種にかかわらず組織犯罪対策の柱となっている。
「疑わしい取引の届け出」を金融業界に義務付ける際には、銀行業界は「血痕が付いているとか薬物の臭いがある」ようなケースでなければ、「お札に色(善悪の別)は付いてない」と協力に極めて消極的であった。それが今では、金融機関ばかりか弁護士を含め他人のお金を扱う殆どの職種が報告義務の対象になっている。このため報告相手先も、金融庁から国家公安委員会(警察)に変更せざるを得なかった。
TOC条約の世界では、地球上の各国は、政治体制の違いにかかわらず、「合法社会」と「違法社会(組織犯罪)」との対立から成り立っている。この戦いに無関心や「ノンポリ」の態度は許されない。合法の側に立つと自認する人は、疑わしい取引に対しては自ら届け出ることで自分の立ち位置を明らかにするという考え方に立っている。
「パナマ文書」が大騒ぎされた際にも、わが国では脱税疑惑として論じられてマネロンの問題として取り上げる報道は殆どなかった。脱税も組織犯罪となりうるが、潜在的にはマネロンで動く資金の方がはるかに巨大である。
 
⒍世界各国の犯罪対策の平準化と並んで、国際協力のハードルをともに下げることも進んだ。重大犯罪の犯罪人引渡しから広く捜査協力へ、さらには恒常的な国際法執行協力へと協力の範囲が拡大・深化した。相互主義、自国民不引渡し、双罰性などの条件も、この条約を含む二国間及び多数国間の条約や各国国内法によって緩和または廃止される場合が増えている。

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