記事

「息子介護」に問題が多い理由 『介護する息子たち』 平山亮氏インタビュー - 本多カツヒロ (ライター)

「介護殺人」という言葉が聞かれるほど、介護問題は深刻化している。中でも、息子による被介護者への虐待は顕著な現象だ。夫婦間や、親と娘よりも息子が介護者となる場合に、問題が起きるのはなぜなのか。
『介護する息子たち』(勁草書房)を上梓した平山亮・東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム研究員に、息子としての男性、息子介護の実態、そして男性学への違和感などについて話を聞いた。

――息子介護についての本ですが、序章で「男性が息子としての経験を語らない」ことを指摘されています。これは親の介護とどう関係しているのでしょうか?

リンク先を見る
『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』 (平山亮、勁草書房)

平山:母娘関係が話題に上っているように、多くの女性は、娘としての経験を率直に語れるのに対し、多くの男性は、息子としての自分については、口ごもる、もしくは美談しか語りません。父親や、夫として男がどうあるべきかについては、饒舌に語ることがあるにもかかわらず、です。

家族介護は、担い手と受け手の続柄によって内実が大きく異なります。同じ男性介護でも、夫が要介護の妻に向き合う場合と、息子が要介護の親に向き合う場合とでは、相違点が多いことがわかっています。

当たり前ですが、男性は「息子として」しか親の介護をすることはできませんから、息子が親の主たる介護者になった場合、それまで避けてきた「息子としての自分」に直面せざるを得ません。だからこそ、息子介護を通して、息子としての男性について描ければと考えました。

――なぜ男性は、息子としての自分を語らないのでしょうか?

平山:男性は、自分のことは自分ででき、人に寄りかからずに生きていけるのが一人前だという「自律と自立」の規範に縛られています。だから、未熟や依存と結びついた「子どもであること」から逃れようと、男性は「息子としての自分」になるべく触れないようにしてきたのでしょう。

しかしこれは、見方を変えれば男性は、親との関係のもとでは自分が依存的になってしまいがちなことを暗に認めているとも言えます。「子どもであること」と「依存的であること」が自分のなかできちんと切り離されていれば、息子としての自分をさらけ出したところで「自律と自立」に抵触するおそれはないはずですから。

――息子としての男性が、親の介護を受け持つ場合、特徴的な問題はありますか?

平山:厚生労働省の要介護高齢者に対する虐待加害者のうち、息子が40.3%、夫が19.6%、娘が17.1%を占め、息子による虐待が突出して多いことがわかります。これは息子介護のネガティブな側面です。

――息子介護者が増えているのには、独身者や非正規雇用などが影響しているのでしょうか?

平山:まず既婚か、独身かについてですが、必ずしも息子介護者が独身男性に偏っているわけではありません。たとえば、全国国民健康保険診療施設協議会の12年の調査によると、親世代を介護する男性の半数は既婚者です。
また、同協議会の11年の調査を見ると、息子介護者の介護以前の就労状況は正規雇用が42.9%、非正規雇用が9.6%、無職が14.7%と、必ずしも就労状況が不安定な男性ばかりが息子介護者になったわけでもありません。

つまり、特定の男性だけが息子介護者になるわけではないのです。そして、他の続柄に比べて、息子が介護虐待の加害者になりやすいのだとすれば、男性は息子介護者になった場合、誰でも知らず知らずのうちに虐待加害者になる可能性があるともいえます。しかし、大抵の男性は「自分は親にそんなことをするはずがない」と考えがちです。

――では、息子としての男性が、母親を介護する際に、虐待加害者の中で突出して多いのはなぜでしょうか?

平山:まず、息子による虐待は、必ずしも親が嫌いだったり憎かったりして起こるわけではないことを覚えておいてください。むしろ、親の世話に一生懸命な息子が加害者になることもあります。たとえば、息子は娘よりも、親に自立した状態を維持させよう、という目標を掲げてしまうことが多いことが研究からわかっています。ある程度は、親の身体や認知の機能を維持出来る部分はあるかもしれませんが、そこには限界があります。その時に、男性は、親が機能の維持をあきらめているように見え、「どうしてもっとがんばれないのか」と親を叱咤し、手が出てしまうケースもあります。

また、一般的に男性は家事が不得意である、という言説が彼らの家事能力の自己評価基準を下げていることが背景にあるケースもあります。たとえば、客観的に見れば、親にあげるご飯を上手に作れていなくても、「男の料理なんてこんなものだよね」と思っているところがあれば、改善が必要だという意識も希薄になります。介護者としては不十分な家事能力しかないのに、それに問題意識を感じないまま、知らず知らずにネグレクトのようになってしまうこともあります。

さらにいえば、問題の要因は必ずしも息子だけにあるとは限りません。こうした状況が親との「共同作業」でできている場合もあります。たとえば、未だにケアは女性の仕事だというジェンダー観が強いが故に、介護を受けている親も不満を漏らしづらい点も影響しています。

親は「本来なら介護なんてさせるべきでない息子にこんなに迷惑を掛けている」「これ以上、息子に要求してはいけない」と考えてしまう。そうなると、不満があったとしても口には出しません。
また、母親の場合、十分な介護をしてもらえなかったり、手を上げられたりしても、子育ての責任は母親である自分の責任というジェンダー規範のために、「こんな子供に育てた自分が悪い」と考えてしまう人もいます。

現状に問題意識を感じない息子と、不満を口にしない親という当事者双方ともに「困っている」と声を上げない場合、外部も問題に気付きにくく、介入の余地も少なくなります。そうするうちに事態が深刻化します。息子介護で問題が起きやすいのはこうした状況のためです。

――ただ、男性の中には親の介護という役割の中で初めて家事をしたのだから仕方がないじゃないか、と考える人もいるかと思います。

平山:親の介護は、男女問わず、その人にとっては初めての経験です。男性はロールモデルがないから大変だと言われることが多いですが、女性だって、たとえば、働きながら親を介護するためにどうすればいいかを考える上で、参考にできるロールモデルが身近にあるとは限りません。息子介護に問題が起こりやすい理由をロールモデルの不在のせいにすることは、適切とは思えません。

――そもそも息子介護者は増えているのでしょうか?

平山:厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2013)によれば、息子の主介護者は、01年では10.7%だったのが、13年では16.3%となり、嫁と娘の割合と僅差になろうとしています。

家族介護の研究では、息子の妻が介護者を務める「伝統」は、実は歴史が浅いと指摘されています。

歴史を紐解くと、江戸時代の武家の社会では、今でいう息子介護者は「ふつう」でした。その頃は、儒教の影響が強く、男子にとって親を自分の手で看取ることは、公務に匹敵する仕事でした。たとえば、現在の介護休業のような制度が各藩にあり、当時の書物には、年老いた親への食事提供のノウハウなどが丸々1章を割いて書かれていたほどです。

戦後、高度経済成長を迎えると、男性は外で働き、女性は専業主婦となる家族が増えるとともに、平均寿命の延びによって高齢者の数も増加し、介護を要する親を抱える家族も増えました。息子の妻が介護する「伝統」が「よくあること」になったのは、それからです。

――本書でもさまざまな息子介護者へインタビュー調査を行っていますが、息子介護を上手く行うにはどういう点が大切なのでしょうか?

平山:多くの男性は、自分ひとりで介護を行うことが責任感の強さだと思い込んでいる傾向があります。少なくともケアに関してはそれは当てはまりません。ケアというのは、一人で生きていけない依存的な存在の生活を支えることです。ケアされる立場からすれば、依存先が多くあったほうが生き残れる可能性は高いわけです。しかし、たった一人がケアを担う状況では、その人がもし倒れたりするとケアを受ける側も直ちに生きていけなくなる可能性が高いのです。

ですから、ケアにおいては、ケアの受け手にとっての依存先を増やすことが一つの目標になります。自分一人でがんばるのではなく、多くの人を巻き込むほうがケアは成り立ちやすいと言えます。だとすれば、他の人にどれだけ助けを求められるかが、男性介護がうまくいくかどうかの分岐点の1つになります。

――本書では息子介護そのもの以外にも、男性学に対しても多くのページを割いていますね。

平山:「息子としての自分を語らない男性」の他に、男性学に対する違和感も本書執筆の動機の1つです。

男性学では、男性はフルタイム労働に従事し家族を養う稼ぎ手としての役割を果たさなくてはならず、そうしたプレッシャーに常に晒されているとよく指摘されます。女性が社会から「女らしさ」を要請されるのと同じく、男性も社会からそうした役割を要請されていると。つまり、男女ともに社会から「男らしさ」「女らしさ」のプレッシャーを受けているという意味では同じ「被害者」である、という主張を男性学のなかによく見かけます。

この主張が欺瞞であることは、これを社会階級の問題に置き換えてみれば明らかです。たとえば、生まれながらにして裕福で、教育機会にも恵まれ、安定した収入源を持っている人と、それらすべてを奪われており、常に生活不安に苛まれている人にわかれた格差社会を考えてみてください。もし前者の人々が「私も『富める者』として生きていくためのプレッシャーを社会から受けている。だから、この格差社会の中では私も被害者なんだ」と主張したら、ほとんどの人は頭に来ますよね。

男性もまた「被害者」である、という主張には、これに似たところがあります。人口全体で見れば、教育機会でも就労機会でも女性の方が不利益を被っているのは、統計的な事実です。そもそも就労役割と結びついた「男らしさ」は、経済基盤を確立させよ、というプレッシャーなのに対し、家族の世話を最優先にせよ、という「女らしさ」のプレッシャーは、逆に就労を断念させるために働きます。生きるための経済基盤を築くのに安定した就労は不可欠ですから、どちらのプレッシャーが生存を難しくさせるかは明らかでしょう。

最近、女性差別に対して男性差別を訴える声も出てきました。しかし、ここで考えてほしいのは、女性差別の訴えは「男性中心社会」に対する告発であるということです。これに対し、男性差別が「女性中心社会」だから起こっているかといえば、そんなはずはありません。なぜなら、これまで社会で女性が、男性ほどに社会における意思決定権を握ったことはないからです。決定権を有する地位のほとんどをいまだに男性が占めている社会で、男性が不利益を被っているとすれば、それは女性のせいなどではなく、社会の意思決定をしてきた男性たちのせいでしょう。

最近の男性学は、男性と女性の対称性を強調しすぎているように思うんです。その矛盾を本書を通して照射出来ればと思いました。

――ただ、男性学がメディアに出てきたことで、そうした男性としての役割に対し異議申し立てや愚痴をこぼすことが出来るようになったのは良いことなのではないかと思うのですが……。

平山:これまで男性が弱音を吐いてなかったと思いますか? 男同士では言い合えなかったかもしれませんが、たとえば飲み屋で働く女性には散々「男はつらいよ」とばかり弱音を吐いてきた人もいるはずですし、男性本人はほとんど無自覚のまま、妻や母親、女友達に、愚痴や不満の聞き役を務めさせてきたのではないですか。そういう「ケア役割」を女性はあちこちで担わされています。

ただ、男性は「それは弱音を吐いたうちに入らない」と思い込んできただけ。そうして女性のケアに「ただ乗り」してきたのです。男性は「男らしさ」に合うように振る舞ってきたのではなく、自分の振る舞いが「男らしさ」に合っていると確認できるように、事実を曲解したり否認したりしてきたことは、男性の対人関係の研究でも指摘されています。そうやって男たちが都合よく「なかったこと」にしてきたことを認めることなしに、男性が変わることはありえないと思います。

――出版後の反響はどうですか?

平山:ケアに関する本ということで、全体的には女性に多く読んでいただいている印象です。特に、1章でケアには目に見えるタスクと、それが誰かのケアとして成り立つためのマネージメントがあることを説明したことについて、女性の読者から評価していただくことが多いです。

たとえば、家事をする夫や父親は増えていますが、家事の段取りは、妻や母親が決めている場合が多い。男性は、女性が編み出した、その家に適した「作業工程」に乗っかって、タスクとしての家事だけをこなしている場合があるのです。タスクはもちろん、れっきとしたと労働ですが、ランダムに、それこそ休日の趣味のように家事をしても、毎日の生活はまわらない。個々のタスクが家族の生活を支えるケアになるためには、マネージメントが不可欠なのです。

しかし、男性はもちろん、それを担わされていることの多い女性にすら、マネージメントの存在や意義は見えにくい。それを「見える化」するとともに、男性の行うケアが、しばしば女性のマネージメントに依存して成り立っていることを明らかにしたからこそ、イクメン・カジメンの増加に何となくもやもやしていたものを感じていた女性からの評価が高かったのだと思います

あわせて読みたい

「介護」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    テレ朝は宮迫の降板を決断すべき

    渡邉裕二

  2. 2

    橋下氏 戸籍晒し巡り雑誌に怒り

    橋下徹

  3. 3

    年金の仕組み知らない国民に呆れ

    永江一石

  4. 4

    イラン関与に同調せぬ日本を称賛

    木走正水(きばしりまさみず)

  5. 5

    2000万円貯金して個人消費は無理

    毒蝮三太夫

  6. 6

    日韓世論で温度差 相手国の印象

    WEDGE Infinity

  7. 7

    アクセル踏み間違い根絶に有効策

    志村建世

  8. 8

    タピオカブームはヤクザの資金源

    NEWSポストセブン

  9. 9

    年金不安を煽る金融庁は猛省せよ

    深谷隆司

  10. 10

    上田晋也の政権批判番組が終了へ

    女性自身

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。