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「息をするように嘘をつく」三遊亭円歌の落語界への貢献は計り知れない

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共同通信社


2017年4月23日、落語家・三遊亭円歌、永眠。三遊亭歌奴(うたやっこ)と名乗っていた若き二つ目時代から売れて全国に知られる顔となり、後年は落語協会会長を10年務めるなど落語界への貢献は計り知れない。

三遊亭円歌に感じた「声」の凄み

自分は五年前に都内の寄席で師の高座を聞いたのが最後となった。その日は座席の位置によるものだったのかスピーカーを通して聞こえる演者の声がかすかにこもるようで「この寄席って、こんな(古いタイプの)音質だったっけ?」と、ぼんやり思いながら高座を眺めていた。その中で円歌が登場した。

喋り始めると聞こえる音質が変わったのがわかった。それまでに聞こえていたこもりが影を潜め、やや硬質なフォルムの声がまっすぐ耳に届く。「この人だけ違う」と思った。そのせいかとは言い切れないが、円歌の高座で客席のウケがひときわ大きくなったのを覚えている。その後、別の演者に替わると音質は元に戻り、かすかなこもりが続いた。

この日の出演者には売れっ子と言われる人気真打も数名いた。だが、「声」に限って言えば最も鮮明に耳に届いたのは既に80歳の大台に乗っていた円歌だった。若き日に「浪曲社長」などで得意ののどを売りにした美声の持ち主だが、声帯が細くなっておかしくない高齢になっても、その本質的なものが衰えない凄みを感じた。「やはり特別な人なんだな」とその声質を記憶にとどめた。

円歌の「うそ」は「人生のシークレットブーツ」

三代目・三遊亭円歌――、芸界の仲間内からは「うそつき」と言われた。昨今よく耳にする揶揄表現「息をするように嘘をつく」は、落語界に照らせばまさに三遊亭円歌のことだ。しかしこの「うそつき」は蔑称ではない。愛称だ。自身をどう見せるか、笑わせるためにどう言うか、使えない「ホント」よりも使える「うそ」を芸人としての武具にまとってきた生き様がこの愛称を定着させた。

身長150センチに満たない「小ささ」も同業者からよくいじられた。ゆえに円歌にとっての「うそ」は、自身と笑い、どちらも大きく見せるための「人生のシークレットブーツ」だったとも言えるだろう。

この「うそつき」の才は、代表作「中沢家の人々」に結実している。「中沢家」は円歌が自身の半生記を語る漫談形式の新作落語だ。山あり谷ありの半生記はどこが真実でどこが「うそ」か判然としない。おおむねフェイク版の「ファミリーストーリー」(HNK)という様相だ。その中で両親とのエピソードがひとつの柱となっている。

< 三遊亭円歌「中沢家の人々」より >
「あたし達が落語家になったときはね、落語家なんてのはスターでもなんでもねぇんだから。あたしゃ親父のとこ行って落語家になるって言ったらいきなり『コノヤロウ!』って蹴飛ばされたよ。昔はすごいね。親父なのに子ども蹴飛ばしやがるの。

『コノヤロウ、親って字をよく見ろ!立つ木を見ると書いて、木立ちを見る、コタチ(子達)を見るというから親ってんだこのバカ!その親に逆らいやがって落語家風情に成り下がるとは何事だ。てめえみてェなヤツは親でもなけりゃ子でもねえ』

そいで最後にたったひと言、『出てけー!』。おん出されちゃった。昔の親えらいだろ、子どもおん出したんだから。

『ちょっと待てコノヤロウ、ただおん出すとこのバカ戻って来るといけねェから、戸籍謄本からも抜いといてやる』

親父は小林松次郎ってんですよ。親父が『出てけ―!』って言ったら、たいていおっ母さん止めそうなもんでしょ。おっ母さん止めないよ。タバコ吸ってニヤッと笑って、鼻の穴からケムリ出しやがって、

『あたしゃお前を生んだ覚えがないね~』

このジジイとババアが今、俺のうちにいるんだよ! ※(客席大爆笑)

このあと「中沢家の人々」は、落語家となり功名遂げて千代田区麹町に構えた自宅に、この両親だけでなく、前妻の両親、後妻の両親と計六名もの年寄りが同居した日々を綴る。江戸っ子の円歌にとって面倒見の良さと口の悪さは一体で、中沢家で繰り広げられる「ジジイ、ババア」達の日常を描写しては、舌鋒鋭いツッコミで毒づく。

この向島生まれの荒っぽい伝法な口調で吐き捨てるボヤキがおかしくてたまらない。笑いのゾーンに入ると客は掌上だ。円歌が放つ言葉、一行ごとに笑い転げることになる。無駄を削ぎ落したフレーズ、畳み掛けるリズム、饒舌なモールス信号が進化するといずれこんな話芸に辿り着くのかもしれない。

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