- 2017年05月01日 10:20
【読書感想】世界から格差がなくならない本当の理由
1/2Kindle版もあります。
内容紹介
富裕層上位8人と下位36億人の資産が同じ!
世界の富裕層上位62人が保有する資産は、人口の半分にあたる下位36億人の資産とほぼ同じ!?
富める者がますます富み、貧しき者がますます貧しくなる「本当の理由」を、克明な現地取材とともに、池上彰が徹底解説!
お金持ちがますますお金持ちになる狡猾な仕組みは?貧しい人がますます貧しくなる残酷な実態は?触れられなかったタブーに池上彰が斬り込む!
この新書、2016年2月にフジテレビ系で放送された『池上彰緊急スペシャル! 世界から格差がなくならない本当の理由』を書籍化したものです。
番組を観ていれば、あえて本を読む必要はないかな、とも思うのですが、池上さんらしく、具体的な話もまじえながらわかりやすくまとめられているので、「どうしてみんなこんなに『格差』を問題視しているのに、世の中は変わらないのか?」と疑問に感じている人にはオススメです。
かつて、旧ソ連のゴルバチョフ書記長に「世界で最も成功した社会主義国」と評された日本なのですが、「一億総中流」だったのは、もう遠い昔の話。
アメリカ大統領選挙の結果を左右したのも「格差」に対する人々の意識なのです。
「格差」の是正をはかるのであれば、社会保障を重視する民主党が支持されるのでは……と思ってしまうのですが、そうはならないところが人間の感情というもので、あの選挙結果は「このままではどんどん貧しくなっていく一方」であることを危惧した「白人の中流意識を持っている人たち」が、「自分たちに直接利益のない社会保障への反感」から、トランプ候補を支持した、といわれています。
アメリカでは「富裕層が多い街」が、どんどん「独立」し、そこにさらに富裕層が移り住んでくる、という状況だそうです。
そのなかのひとつ、ジョージア州のジョンズクリーク市を取材しているのですが、ここは人口8万3000人、平均世帯所得が1270万円、住みやすい都市:全米4位だそうです。
この街の人たちはなぜ独立を望んだのか。当時、賛成に票を投じた人に話を聞くと、こんな理由を語ってくれました。
「支払った税金は自分たちのために使いたい。そのほうが質の高い生活を送ることができる」「自分の税金が誰か知らない第三者のために使われるのではなく、税金は自分の利益になることが理想だと思ったんだ」
つまり、自分が払う税金は、まず自分のために使ってほしいと思って独立に賛成したというのです。
この独立の背景には、貧しい人がたくさんいる地域で犯罪が多く、警察もそちらへの対応が忙しくて、税金を多く払っているはずの富裕層が住む地域がおろそかにされている、などの「不公平感」があったのです。
「なんでこちらのほうはお金を払っているはずなのに、公共サービスで後回しにされるのか?」
まあ、そう言いたくなるのも、わかりますよね。
独立してからは、独自の渋滞解消システムや警察の留守宅への巡回サービスまでも取り入れられ、住民たちは満足しているようです。
その一方で、ジョンズクリーク市などの富裕地区が独立してしまったフルトン郡の税収は44億円も減ってしまったそうで、取り残された地区では、行政サービスが劣化してしまいました。
独立から取り残された地域では、行政への不満が高まっていました。
住民の声です。
「バスの最終便の時間が早まったの。一番遅いバスが夜の9時まで。たいていのは夜の8時台で終わりよ。とにかく終わるのが早すぎよ。ショッピングモールは夜9時までやってるのに、どうやって帰るのよ」(女性)
「道路の土を盛るのに4ヵ月もかかるなんて、そんな時間があったらビルが建つよ。家だって何軒も建つ」(男性)
生活保護を受けながら6人の子供と暮らす女性は、
「自分より低所得の人を助ける心を持つべきだと思います。彼らは恵まれているのですから。自分勝手だと思います。それに不公平ですよね。今言えるのはそれだけです」
と話してくれました。