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『シン・ゴジラ』立川までのルートを再現して歩き、緊急時の政府バックアップ問題を見る

首都東京が壊滅したら?

考えたくない事態ですが、首都壊滅は創作ではよく見られるテーマです。第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した映画『シン・ゴジラ』でも、ゴジラによって都心が壊滅的被害を受け、政府中枢が立川の災害対策本部予備施設に移る展開があります。これは実際に、都心に壊滅的な被害が出た場合、政府の災害対策本部が移る代替拠点として定められています。

しかし、実際に東京が壊滅的な事態になる事はあるのでしょうか? 例えば、最も可能性が高い首都直下地震として政府が想定するマグニチュード7級の地震では、都心は震度6強の揺れに見舞われるとしています。主要な政府庁舎はこれに耐えられるよう建設・改修されているので、機能喪失の可能性は低いと考えられています。

しかし、最近は首都圏が壊滅的な被害を受ける、様々な事象の想定を求める声が高まっています。震度7の強烈な地震の発生や、富士山・浅間山の噴火による降灰が発生した場合、首都圏の広い地域で大きな被害が想定されます。災害以外にも、最近は北朝鮮の核ミサイルの脅威が取り沙汰されていますし、国外事例では2011年のノルウェーのテロでは政府庁舎に被害が及び、中央省庁が別施設に移り執務を行っています。どれも高い可能性ではなくとも、都心が大きな被害を受ける事象は多く存在するのです。

テロ攻撃直後のノルウェー首都オスロ中心部遠景
テロ攻撃直後のノルウェー首都オスロ中心部遠景

政府が動くと職員も動く

都心が壊滅的な被害を受ける災害となりますと、東日本大震災の時と同じように緊急災害対策本部(緊対本部)が設置されているでしょう。緊対本部は首相が本部長に就き、内閣の全大臣が本部員となるため、災害対策本部の移管は内閣がそのまま移管されるに等しい事になります。

移管で避けられないのが職員の移動です。少数の政府要人は自衛隊ヘリを使って空輸できます。しかし、何千人もいる職員は、陸路移動する他ありません。車が使えるのがベストですが、道路事情や車の手配で出来ない可能性もあります。そうなると、歩く他ありません。実際に内閣府(防災担当)では車、車が使えない場合は徒歩で、立川まで移動するシミュレーションを行っています。

『シン・ゴジラ』でも、主人公の矢口官房副長官は、都心から徒歩で立川まで行った描写がなされています。内閣府によるシミュレーションや、公開されている設定資料を参考にして、矢口が通ったルートを推定すると33.2kmの行程となりました。映画や内閣府の想定通りに、実際に都心から立川まで歩いて行けるか興味を持ったこと、その場合の問題点はなんだろうと気になり、実際に歩いてみることにしました。

赤坂から立川までの行程。赤が内閣府想定。青がシン・ゴジラ劇中ルート(予想)
赤坂から立川までの行程。赤が内閣府想定。青がシン・ゴジラ劇中ルート(予想)

起点は『シン・ゴジラ』でも起点になったと思われる赤坂5丁目交番前交差点。ここから甲州街道を経由して、立川市の災害対策本部予備施設をゴールとします。起点を朝8時に出発し、33.2kmを歩きます。

歩いて実感する地震火災と休憩場所問題

出発地点となる赤坂五丁目交番前交差点
出発地点となる赤坂五丁目交番前交差点

赤坂を出発してしばらくは比較的新しい建物が続きますが、新宿区と渋谷区の間のあたりになると、古めの木造建築も増えてきました。木造建築の密集地域は、震災時は火災が発生する可能性が高いと考えられており、東京都の「地震に関する地域危険度測定調査」では、荒川沿いの地域、環状7号線沿いの地域、品川区南西部から大田区中央部といった地域が火災の可能性が高いと推定しています。都心から立川に向かうには、環状7号線をどうしても渡る事になりますので、出発する日時によっては火災がまだ収まっていない可能性もあり、その場合は大幅な遠回りとなることもあるかもしれません。

東京湾北部地震M7.3、18時、風速15mでの焼失頭数分布(「首都直下地震の被害想定」より)
東京湾北部地震M7.3、18時、風速15mでの焼失頭数分布(「首都直下地震の被害想定」より)

行程のほぼ中間に位置する吉祥寺駅近辺にお昼過ぎに着きましたが、食事休憩場所に少々困りました。井の頭公園に寄ると遠回りになるので、ルートに近い吉祥寺西公園で休憩しましたが、ルート上に都合よく休憩場所があるのは全行程通じて稀でした。内閣府の想定でも1時間に10分の休憩を取ることを想定していますが、休憩場所候補となる政府・自治体施設がルート上から離れた場所になっているのも多く、確保は難しい問題のようです。

内閣府の想定では職員2,000名を複数のグループに分け、時間を追いて出発させますが、グループとなると休憩するにもそれなりの広さが必要なのも問題です。また、大人数の移動となりますと、トイレの問題があります。地震でインフラに被害が出ている可能性もあり、内閣府のシミュレーションでは事前に仮設トイレ設置を想定しています。

帰宅困難者の徒歩移動問題

ここまでで被災地を長距離歩くことの難しさの一端がお分かりいただけたと思います。徒歩と言えば、10年ほど前、災害時に徒歩で帰宅するための地図が流行ったことをご記憶の方もいるのではないでしょうか。本屋のレジ横に置かれていたことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

ところが現在、災害時に長距離歩いて帰宅するのを抑制しよう、と行政は働きかけています。これまで述べた徒歩移動の問題の他に、都心から帰宅困難者が一斉に徒歩で帰宅すると道路に人が溢れるため、消火や救急、輸送の車が通れなくなる事が懸念されているためです。今は発災後しばらくは都心の会社や施設に留まる体制を整えることで、徒歩による一斉帰宅を避けようという方向性で進んでいます。

また、内閣府の帰宅困難者についての想定では、出発地(勤務先)から自宅まで10km以内の人は徒歩帰宅可能、10km以上20km以下の場合、個人によって変わってくるとしており、20km以上は帰宅困難と見ています。実際に歩いてみると、10kmまでは比較的楽に歩けましたが、15kmを超えると体力的にキツくなり、20kmを超えると精神的にも弱ってきました。緊急の事情が無い限り、長距離の徒歩帰宅は控え、都心で様子を見た方がよさそうです。

立川に到着

朝8時に出発し、ゴールの立川防災基地内の災害対策本部予備施設に到着したのは17時25分。休憩時間込みで9時間25分で到着となりました。都心壊滅という最悪クラスの想定とはいえ、これだけの距離を歩いて移動した後、執務に移るのはちょっと考えたくありません。なお、『シン・ゴジラ』で一晩、恐らく不眠で歩いて立川に着いた矢口は、すぐに執務を始めています。政治家は体も資本なんでしょうか……。

ゴールの災害対策本部予備施設
ゴールの災害対策本部予備施設

このような最悪の事態、都心での執務不能となった事を想定したバックアップ拠点を定める動きは多くの官庁でも進んでおり、ほとんどの官庁が業務継続計画に、本庁舎が使用できない際に用いる施設を定めるようになっています。さらには、都心周辺だけでなく、広範な地域に及ぶ災害に備えて、地方都市での業務についても、候補となる都市の検討が行われています。

「徒歩移動」もあくまで最悪の事態に備えた一環でしかありませんが、徒歩一つを軸にするだけでも、災害について様々なことが見えてきます。皆さんも勤務や学校で家を離れている際に被災した場合、どうやって帰るか、あるいはしばらく都心で過ごすのか、といった事を考えられてみてはいかがでしょうか。

※Yahoo!ニュースからの転載

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