- 2017年04月27日 17:27
トランプ大統領の意思を「忖度」するヘイリー米国連大使 - 鈴木一人
1/2国連安全保障理事会の議長国は月ごとにアルファベット順のローテーションで変わり、今年4月の議長国はアメリカである。これまで「アメリカ第1主義」を掲げ、国連に対する拠出金の大幅削減を主張し、国連や多国間外交を毛嫌いしてきたアメリカのトランプ政権が、どのような国連外交を展開するのか、期待と不安の入り交じる形で4月を迎えることとなった。
安保理は、紛争地帯での情勢変化や、北朝鮮のミサイル発射のような突発的な出来事に対応することが多いため、1カ月ローテーション制の議長国が主導して何かを進めることは容易ではない。その意味では、どの国が議長国を担うのかはあまり大きな問題ではない、と見ることも出来る。しかし、議長国によって安保理を緊急招集するかしないかの判断が分かれたり(たとえばロシアが議長国の場合、シリア問題での緊急招集を避けるなど)、報道向けの声明や記者会見などは安保理を代表して議長国が行うため、国際社会に向けてのメッセージに議長国なりのニュアンスを込めることも出来る。その意味で議長国がどの国であるのかというのは、意外に重要である。
アメリカは、これまでも常に本来の議長国の役割以上の活動を目指してきた。特に元サウスカロライナ州知事で、政治的野心に満ちたニッキー・ヘイリー国連大使は、この議長国の機会をアメリカ外交の晴れ舞台とすべく、議長国になる前から様々な宣伝活動を行ってきた。ティラーソン国務長官が議長を務め、各国の外務大臣を集めた中東問題のハイレベル協議を行うなどのアイディアが次々と出されたが、残念ながらそれらはあまり成功していない。
トランプ外交の唯一の窓口
そのヘイリー国連大使がこの4月、一気に脚光を浴びる存在となった。
シリアのイドリブ県で化学兵器が使用されたとみられるアサド政府軍による空爆が行われたのが、4月4日。それに対して国連安保理が議題として取り上げている最中、しかも米中首脳会談が行われている4月6日に、トランプ政権は地中海に停泊している艦船から60発(うち1発は不具合で海中に落下)のトマホーク巡航ミサイルを撃ち込み、シリアの空軍施設を破壊した。
また、米中首脳会談の前にインタビューに応じたトランプ大統領は、北朝鮮に対し、中国が行動しないのであれば米国が単独で行動するとも述べ、北朝鮮に対しても軍事力を前面に出した対応を進めていく姿勢を明らかにした。
これまで「アメリカ第1主義」を掲げていたトランプ政権が突如として紛争地帯に軍事的に介入し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長とは「ハンバーガーを食べながら」対話するといった発言をしてきたのに、これまた突如として軍事的な圧力をかけ始めたことに多くの人が驚きを隠せなかった。
しかし、アメリカ外交のメッセージを発信すべきティラーソン国務長官は、メディアに対して極めてネガティブな姿勢を貫いている。通常は外国訪問の際にメディアを同行させ、そこで記者懇談会などを行うのだが、ティラーソン国務長官は同行記者の数を極端に制限し、しかも代表取材のような形ではなく、メジャーとは言えないメディアの経験の浅い記者を同行させるといった形で、メディアを遠ざけている。
そのため、オープンな場で積極的に発言し、メリハリのあるコメントで知られ、また州知事としての行政経験やメディアとのコミュニケーションにも慣れているヘイリー国連大使の発言から、トランプ政権の外交を理解しようと注目が集まるのである。
ホワイトハウスの力学の変化
こうしたアメリカの対外政策の変化の背景には、ホワイトハウスにおける政策決定の力学の変化があると思われる。その大きな変化を引き起こしたのは、バノン大統領首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)中核メンバーから外れたことと、代わってトランプ大統領の娘婿のクシュナー大統領上級顧問とマクマスター国家安全保障担当大統領補佐官が、政策決定の実権を握ったことに起因すると考えている。
この力学の変化により、トランプ政権の対外政策は軍事的対応の方に優先順位がつき、外交交渉による問題解決の役割が小さくなったように見える。その大きな要因として、国務省の高官ポストが(これは国務省に限らないが)ほとんど埋まっていない上、各国の大使もオバマ政権で任命された大使は一斉に辞任させられたにもかかわらず、新たな大使がほとんど任命されていないなど、国務省が機能不全に陥っているという状況がある。また、国務省は意思決定過程から外され、職員の士気は下がっており、具体的な仕事もないため、食堂でコーヒーばかり飲んでいると『アトランティック』紙の記事でも報じられている。
その上、エクソン・モービルのCEOであった、外交経験や政治経験の無いティラーソン国務長官は国務省の職員との関係が全くうまくいっておらず、保守的なメディアからの攻撃を受けると簡単に職員の配置転換や辞職を求めるなど、マネージメントが崩壊しているという状況になっている、と『ポリティコ』紙も報じている。
そのため、トランプ政権においては外交交渉よりも軍事的圧力によって問題を解決するという選択肢が優先されるような状況にあるのだ。
「拠出金削減」という大方針
ヘイリー国連大使はこうした状況の中で、トランプ外交の唯一の窓口と見られているわけだが、政治経験のあるヘイリー大使といえども、国務省のサポートや外交政策全体の流れの中で訓令(インストラクション)を受けて調整する必要がある。ところが先に述べたように、国務省が正常に機能していないため、ヘイリー大使は適切なサポートや訓令を受けることが出来ていないとみられる。
その結果、ヘイリー大使は大統領の意向を「忖度」せざるを得ない状況にある。彼女が明示的に受けている訓令は、第1に国連拠出金を削減すること、第2に、イスラエルに対する批判や非難に対しては徹底的に戦い、いくつかの国連のフォーラムからの脱退も含めた強い対応をする、というトランプ政権の大方針しかない。
たとえば、安保理の下にあるコンゴ民主共和国制裁のモニタリングを行う、専門家パネルのメンバーが2名殺害された事件が起こった際、ヘイリー大使は、「国連が展開しているPKOの縮小を進めなければ、米国の拠出金を減らす」と脅迫めいた発言を行った。その根拠として、コンゴ民主共和国のカビラ政権が腐敗しており、PKOを派遣する価値がないことを挙げたが、専門家パネルのメンバーが殺害されたにもかかわらずPKOを縮小するのは、ひとえに拠出金削減という大方針があるからである。そのため、あらゆる機会を捉えて拠出金を減らすための理屈を探しているのだ。
また、イスラエルに対する批判が強く、パレスチナ問題に積極的に介入してくる国連人権理事会に対しては、理事会が「非常に腐敗している」と根拠を示さないまま批判し、このように腐敗した人権理事会には参加する意味はないとして、脱退すると主張している。しかしその本音の部分は、イスラエル批判を繰り返す理事会に批判を控えさせるためであると考えられている。これまでもアメリカと人権理事会の関係は必ずしも良いと言えるものではなかったが、ここまで明白に脅迫めいた発言をするのは、やはりトランプ政権の大方針であるイスラエル擁護のためとみるのが適切であろう。
ホワイトハウスと食い違う大使の発言
しかし、それ以外のイシューについては、おそらく明示的な訓令を受けておらず、相当程度ヘイリー大使が判断をする裁量を持っていると考えられる。
たとえば、シリアのアサド政権が化学兵器を使用する前、ティラーソン国務長官がシリア問題に関して、アサド政権の退陣を最優先課題としないと発言したが(この発言が化学兵器の使用を容認したと受け取られた可能性もある)、ヘイリー大使は当初、ティラーソン長官と平仄を合わせていたのに対し、その後、テレビ出演して、「アサドが政権に就いたままのシリアの将来はない」と発言を修正した。ところがティラーソン国務長官は発言を明示的には変更せず、世界中が呆気にとられている間に化学兵器が使用され、トランプ大統領はアサド政権が支配する空軍施設をミサイル攻撃する判断をした。結果的にはヘイリー大使の発言が大統領の判断と一致した形になったのである。
ヘイリー大使は、シリアに対するミサイル攻撃後、安保理の場で「更なる攻撃の用意がある」と発言し、自身が主張するアサド政権の退陣、すなわちレジームチェンジを実現することがアメリカの目的であると表明していた。だが、マクマスター安保担当大統領補佐官は、「レジームチェンジを望んでいるが、それは米国のシリア政策の目的ではない」と明言し、ここでも議論が食い違っている。
結果的にシリアへのミサイル攻撃以降は、トランプ政権の問題関心は北朝鮮に移り、アサド政権を打倒するための戦闘のエスカレーションも見られない。むしろロシアやアサド政権の更なる攻勢を導き出した点からみれば、アメリカのミサイル攻撃は化学兵器の継続的な使用を抑制したとは言えるかもしれないが、シリア内戦を悪化させた結果になったとも言える。



