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「中国の傀儡」となった香港の行政長官選挙 - 武田信晃

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政治ショーにイライラする香港市民

 ジョン・ツァン氏が出馬表明したことで、中央政府は推薦候補の支持のタイミングなどで微妙なさじ加減を求められた。だが、表面上、民主的な選挙が香港で行われるかのように市民に思わせられたことは幸いだったと言える。

 今回で5回目の行政長官選挙となったが、香港の選挙システムを知らない人が香港のテレビを見たり新聞を読んだりすれば、まさに普通選挙が行われているかのように感じるのではないかと思われる。投票権を持たない一般市民を相手に候補者が握手をしたり、演説をしたりするし、アメリカの大統領選挙のようにテレビ討論会が複数回行われたりするからだ。「各候補者の意見が分かるから、討論会は大事だと思う。でも、私は投票ができないから、イライラする」と、ある香港人は憤る。

 「討論会も、開票作業も公衆の面前でやるので、公平性は担保されていると思うけど、結局投票はできないのだから、ある意味〝選挙ショー〟というか、ただのパフォーマンスに感じてしまう」と、ばっさり切る人もいた。一方で、ある年配の香港人は、「選挙については、予めすべて制度として決まってしまっているのだから、仕方がない」と嘆息を漏らす。実は香港では、年齢が上がれば上がるほど、そう考える人も少なくない。長らく植民地であったため、「政府の見解は絶対」との考えが、ある意味染みついてしまっているのだ。

 この選挙は日本を含め世界各国から報道陣が集結した。メディアセンターで筆者の隣に座ったのは、スペインのラジオ局だった。雨傘運動によって、社会が分断したまま選挙を迎えるということで、開票会場前では、民主派と親中派の両方のデモ隊が集結。一部のデモ隊は、警察と揉める事態になった。選挙前から物々しい雰囲気であったため、メディアパスを取得するまでのセキュリティーは厳しく、パスの受付所にたどり着くまでに、最低3回は警察やガードマンに身分の証明をする必要があった。

 現地メディアの報道も一段と加熱していた。たったの1194票しかないため、即日開票どころか、候補者、投票した人、メディア、開票の様子が、傍聴する権利をもった市民の目の前で開票される。現地メディアは双眼鏡を抱えたスタッフを用意し、担当者の手の動きをカウント。数え終わった時点で、すぐにソーシャルメディアやウェブサイトに開票結果の速報値を流した。筆者は偶然、カウントする人のすぐ傍にいたので、キャリー・ラム氏の得票数が物凄いペースでどんどん積み重なっていくのを聞いていた。ちなみに、公式の投票結果発表前には、選挙管理委員会が無効票だったものを大きな画面に映しだし、なぜ無効票であったのかを説明した。

 開票現場では、メディアと立候補者と投票者のゾーンは腰までの高さの仕切りで区切られているため、会場全体を俯瞰することができた。そこで感じたのは、「人口700万人を超える先進都市のトップが、『この仕切りの中で決められている』という不条理」である。

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仕切られた投票ゾーンに座る人たちだけで香港の行政長官は決められた(左)、「バズーカ砲」だらけ。世界中から集まったメディアが投票結果に注目している(右)。

分断が続く今後5年間とデモ

 03年の7月1日。香港の中国への返還記念日に、香港では50万人にも上るデモがあった。国家安全条例の制定問題や、重症急性呼吸器症候群(SARS)、当時の財政長官であった梁錦松(アントニー・リョン)氏による車の取得疑惑(自動車税が上がる前に高級自動車を取得した)という3点セットが響いたのだ。今年の7月1日は、中国返還20周年という節目の年だ。そして同日には、習近平国家主席が香港を初訪問するのではないかと噂されている。また、不人気であるキャリー・ラム氏が行政長官に就任する。この新たな3点セットに加えて、行政長官選挙の約1カ月前には曽蔭権(ドナルド・ツァン)元行政長官が、香港市民が一番敏感である住宅問題での便宜供与などの不適切行為の罪で、有罪判決を受けるというおまけまでついてきた。このまま、香港社会の閉塞感や見通しにくい将来への不安が強まれば、7月1日に再び大規模なデモが発生する可能性がある。

 当選直後の記者会見で、キャリー・ラム氏はそのことを自覚しているのか、「分断している香港を1つにする」ことを目標の1つに挙げ、「意見の相違が大きい所ではなく、合意ができるところから対処していった方がいいと思っている」と語った。新内閣には、民主党の創設メンバーである羅致光を迎え入れることが噂されており、融和をしようとする努力がうかがえる。しかし「合意できるところから」という意味の本質は、選挙制度改革について後ろ向きであることを示しているとも言える。また、国家安全条例制定は、中央政府からの〝業務命令〟であり、いずれ着手せざるを得ない。4月11日には、キャリー・ラム氏は習近平国家主席と面談。習氏は「中央政府は1国2制度を堅持する」と発言し、暗に香港の独立問題などにしっかり対処するよう求めた。つまり、いくら融和を唱えても香港を分断する問題として常にくすぶるため、今後5年間は、英国や米国と同様に、社会が分断したままの不安定な状態が続くことになりそうだ。

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