- 2017年04月24日 20:03
失業時代から労働力不足時代へ、頭の切り替えが必要 - 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
2/2モノの需給逼迫によるインフレ圧力も強まる見込み
今ひとつ、モノの供給が労働力不足で制約されて、需給関係が引き締まり、価格に上昇圧力がかかる可能性もあります。昨今の日本経済の状況からすると、需要がそれほど強くないので、需給関係の逼迫からインフレになるとしても、たいしたことはなさそうですが、賃金上昇との相乗効果でインフレが進むとすると、安心はできません。
労働力が不足すると、輸入できる財は別として、サービスなどは需給ギャップが逆転し、需要超過による値上がり圧力がかかるようになります。現在のインフレ率が低いからと安心していると、今後の推移を見誤るかも知れません。現在のインフレ率が低いのは、景気回復初期に特有の要因も影響しているからです。
不況期には、設備も人も低稼働ですから、景気が回復を始めても、需要の回復に応じて速やかに供給を増やすことができます。しかも、稼働率を上げるだけですから、追加的なコストが不要です。材料費だけで製品が作れるのです。しかし、ある時から労働力が不足するようになり、残業が発生するようになります。そうなると、残業代が必要になりますし、生産量も大幅には増やせないので、需要超過となり、値上がり圧力が生じるのです。
氷に熱を加えていくと、最初は氷が溶けるだけで温度は変化しませんが、氷が溶け終わると突然温度は上がりはじめ、水が沸騰すると突然温度の上昇が止まります。経済活動も、似たような所がありますので、過去のデータだけに頼っていると危険です。
資産運用方針の大転換が必要
これまで、長期にわたるデフレの時代、資産は銀行に預けておけば良かったので、資産運用について真剣に学ぶインセンティブは決して大きくありませんでした。しかし、これからは違います。老後資金を黙って銀行に預けておくだけでは、老後の生活が守れない可能性が高まりつつあるのです。
株や外貨はインフレには強いが、値下がりリスクがあるので持ちたくない、という人は多いと思います。しかし、これからは現金もインフレによる目減りリスクがありますから、同様に危険なのです。そこで、株や外貨や現金などをバランス良く持つ「分散投資」を検討する必要が出てくるわけです。
企業にとっても、労働力不足は必ずしも災難ではない
企業経営者は、労働力不足と聞くと、困ったことだと考えるかもしれませんが、そうとも限りません。ライバルも同様に労働力不足に悩んでいるということは、たとえばこれまで低賃金を武器に安売り競争をしかけてきたライバルが、安売りをやめるかも知れません。
宅配便の即日配達競争を繰り広げていた業界が、労働力不足を契機として3日に1度の配達になるかも知れません。ライバルも3日に1度の配達なら、客を失うこともなく、単にコストが下がるだけですから、各社の経営はむしろ改善するかも知れません。
また、環境の変化はライバルに打ち勝つチャンスとも言えます。ライバルより早く省力化投資を行えば、競争力が増すかも知れません。社員を大切にして離職率を下げれば、それだけでライバルより優位に立てるかも知れません。
長期的な戦略としては、1日4時間しか働けない高齢者や子育て中の女性を雇ってみることも、有益かもしれません。将来は、そうした人々が貴重な戦力になると思われるので、今のうちから準備をしておく、という意味です。就業規則なども整備しておく必要があるでしょうし、周囲の社員との関係も考えて、様々な対策を今のうちから検討しておくことが、将来きっと役に立つでしょう。
経済対策も、従来型の公共投資ではなく、労働力不足を悪化させずに経済を活性化していく政策が必要になってくるでしょう。筆者としては、保育園の無料化等々の子育て支援を考えていますが、そのあたりの話は別の機会に。
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版



