- 2017年04月21日 11:03
アメリカの予算教書から危惧する開発援助の緊急事態
4月は「新」という文字が溢れる時節だ。そんな新ラッシュの中で、国家運営の脊柱となる新年度予算(2017年度予算)も執行に向けて動き出した。
わが国の2017年度予算は、過去最大となる前年度比0・8%増の97兆4547億円(一般会計)だ。保育士・介護職の処遇改善など安倍内閣の看板政策「1億総活躍」を後押しする分野に重点配分された予算だが、防衛費も前年度比1・4%増の5兆1251億円に膨らんでいる。昨今の世界の安全保障情勢を考えれば、妥当な増額と言えるだろう。
他方、政府開発援助(ODA)予算は、前年度比0・1%増の5527億3410万円(一般会計)となった。前年度比1・8%増だった2016年度ODA予算に比べると物足りない観もある。だが、1997年度をピークに20年近く削減が続いていた過去のODA予算を考えると、僅かでも2年連続で増額されたことに満足しなければならない。個人的視座から見れば、難民、テロ、それに戦後秩序の変動といった不安定要因が増している現在、国際社会の安定に貢献するODA予算をもう少し増やして欲しかった。
同じ視座から太平洋の向こうに目をやると、これはもっと憂慮すべき事態が起こりそうになっている。2月27日にトランプ政権が発表した2018会計年度(17年10月―18年9月)の予算教書で、国防予算を10%(540億ドル、約6兆円)増やし、過去最大規模の6030億ドル(約68兆円、)としたのに対し、国際開発庁(USAID)を含む国務省予算は約375億ドル(うちUSAID予算は120億ドル)、前年度比28%減の大幅削減となったことだ。
国務省予算は、USAID予算のほかにも国連任意拠出金や気候変動プログラム、文化交流といった分野の予算が削減されたが、アフガニスタン、シリア、イラクなどアメリカの安全保障に繋がる国々で、戦地支援として使われる「海外緊急事態作戦(OCO」費が新たに計上されている。また、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」や、ブッシュ大統領(子)時代に設立された「大統領緊急エイズ救済計画(PEPFAR)」への支出は前年並みだ。
大統領の予算教書は一般教書、大統領経済報告と並ぶ、大統領の3大教書とされるが、アメリカの大統領に予算の編成権はない。予算編成権は議会が握っており、予算教書は、新年度予算に対する大統領の編成方針を議会に提示するものだ。言い換えれば、自分の考えを議会に示してお伺いを立てる原案ともいえる。余談になるが、トランプ大統領が就任直後から連発した大統領令も同じで、予算は議会が持っているため、大統領令がいくら発されても、執行の段階で予算が付かず機能しなくなる可能性もある。
アメリカの2018会計年度予算は、これから議会が大統領提案を勘案して歳入、歳出に関する関連法案を作成して審議、可決されたあと、大統領に送り返されて大統領が署名して初めて成立する。大統領には署名を拒否する権利があり、議会が可決した予算に納得できない場合、署名しないことも可能だ。その場合は議会で再審議、3分の2の賛成で議会原案が復活することになる。今年の予算教書には共和党内にも批判があり、議会審議はもめそうだ。成立までかなりの時間がかかるかもしれない。
とはいえ、過去の例から見て多少の修正はあっても、大統領の予算教書の基本から大きく逸脱した予算が編成されることはない。つまり、今年後半から来年半ばにかけてのアメリカの行政は、概ね予算教書のラインで運営されることになるだろう。トランプ政権最初の予算教書にアメリカのメディアは「トランプ予算のもとで、ペンタゴン(国務総省)は増額、EPA(環境保護局)と国務省は減額。大統領が議会に送る予算は、対外援助、貧困対策、環境政策などが大きくカットされたのに対し、メキシコ国境対策、国防予算に大きな配分がなされた」(3月16日付けニューヨークタイムズ)などと論じている。
トランプ大統領の選挙中の主張から、こうした予算教書が提示されることは予測されていた。就任後、対外援助への理解を深めてくれることを期待していたが、現状においてそれは甘かったようだ。
さて、USAIDの予算が大幅に減った後の、世界のODA環境はどうなるのか。イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉、テロ・難民対策、変動する国内政治情勢などで手いっぱいの英仏独など主要援助国がアメリカの減額分を補う援助予算を組むことは、到底考えられない。日本のODAも予算が0・1%増では焼け石に水だ。
最近のOECD/DAC(開発援助委員会)加盟29か国の援助総額は、年1350億ドル前後で推移しているが、世界の開発問題を十分にカバーするには、さらに1000億ドル程度の資金の上積みが必要とされる。アメリカはUSAID予算以外の援助も含め、近年連続して300億ドル以上(DAC資料)の対外援助を続けてきた。しかし、仮に今年後半からアメリカの対外援助が激減すると、援助の手が届かない人の数はさらに増えることになる。
もうひとつ気になるのは、主要援助国のODAがトランプ予算にあるように紛争地の緊急支援・復興、さらに感染症対策などに使われる傾向が強まることだ。対症療法的援助とも呼べる事業が世界の援助の主流になると、地味だが持続的な開発には欠かせないBHN(基礎生活分野)への援助が疎かになる恐れがある。それは、世界を予算不足以上に深刻な事態に追い込むだろう。
「トランプ予算で軍隊は勝利、環境と援助は負け」(3月16日、ロイター)という評価はあまりに虚しい。



