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中国の戦略核ミサイルの現状

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(出典『米国防総省年次報告書2010』)

本稿では中国の戦略核戦力、とりわけ弾道ミサイルによって運搬される核戦力について取り上げます。なかでも、現在の中国にとって核抑止の主目的は米国であることから、対米という視点で見ていきたいと思います。

2010年の米国防総省報告書によると、中国の核戦力のうちグアムなどを含めた米国領土を攻撃し得るミサイルは、最大で約65発。しかし、米国本土を攻撃可能な射程を持つものとなると、このうち30〜35発(DF-5AとDF-31A)のみとなっています。

地上配備型弾道ミサイル


中国は以下の6種類の地上配備型核弾頭搭載弾道ミサイルを保有しています。

  • 準中距離弾道ミサイル:DF-21
  • 中距離弾道ミサイル:DF-3A
  • 大陸間弾道ミサイル:DF-4、DF-5A、DF-31、DF-31A

これらはすべて単弾頭だと見られますが、中国はすでにMIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle:多弾頭再突入体)技術を実現しており(実用化レベルに到達しているかどうかについては論議があります)、DF-31Aなどは移動発射式でMIRV搭載型だと言われています。

では、各種ミサイルの現状と更新状況をざっと見てみましょう。

■ DF3A → DF-21/21A
DF-3A(CSS-2)は退役が進み、ミサイル16発とランチャー(発射台)を8基装備した1個旅団(大連・96113部隊)のみで運用され、現在DF-21へと更新されているところです。

DF-3Aは、米戦力が以前展開していたフィリピンに届く射程距離(約3,100km)を持っていたのですが、後継のDF-21/21Aの射程距離は約1,750〜2,150kmへと縮小しました。これは、技術的な理由ではなく、中国の安全保障環境の変化が背景にあります。まず、米軍はもうフィリピンにおいて基地を持っていませんから、ここを叩く射程が必要なくなりました。次に、グアムへの攻撃を可能にするために射程を3,500kmほどに延ばしたミサイルを開発することも可能でしょうが、仮にそうしたミサイルを中国西部へ配備すればモスクワを射程に収めることになり、ロシアと無用の摩擦を生むことにもなりかねません。中国は現在、西太平洋でのA2ADやインドへリソースを割くことを課題としており、北方でのいざこざは望まないでしょう。

■ DF-4 → DF-31
現在、DF-4(CSS-3)を運用するのは1個旅団(甘粛省・96363部隊)だけです。12発のミサイルと、同数のランチャーを装備していると見られます。
DF-4は、DF-31へと更新中です。

■ DF-5A → DF-31A?
中国が保有するDF-5A(CSS-4)は約20発。
DF-5AがDF-31Aと切り替わるかどうかは不明で、そのまま維持されるかもしれないとの見方もあります。

■ DF-21
中国の地域核戦略の主力は、DF-21(CSS-5)です。DF-21は2006年には19〜50発だったものが、2011年には75〜100発へと増加していますね。これまでDF-21はすべて核弾頭だったのですが、5年ほど前から通常弾頭型のDF-21Cを配備し、さらには対艦型のDF-21Dも開発中です。

核弾頭型と通常弾頭型が混在したDF-21シリーズは、有事において通常弾頭タイプを核搭載タイプとを誤認する恐れがあるため、エスカレーションを招くものとして問題視されています。

■ DF-31
DF-4の後継ミサイルとして2006年に開始されたDF-31の配備ペースは、ゆっくりとしたものです。
現在10〜20発が配備され、それと同数のランチャーが装備されていると見られています。発射は地下のミサイルサイロと大型車両搭載の移動式発射装置による2種類。射程は7,200+kmですが、米国本土を攻撃するには不十分です。

■ DF-31A
DF-31の射程を延長したミサイルで(7,200+km → 11,200+km)、10〜20発配備されていると見られています。射程・ペイロードともにDF-5Aよりは小さいですが、命中精度が向上しています。

最近の報告によると、DF-31Aが湖南省邵陽市付近に配備された模様ですが、実はこの位置からでは米国本土の主要都市すべてを攻撃することはできません。ワシントンDCやニューヨークは漏れてしまうんです(地図1参照)。
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(地図1:白い部分が湖南省邵陽から発射したDF-31Aの射程範囲)

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(地図2:北京から発射した各種弾道ミサイルの射程範囲 出典『米国防総省年次報告書2011』)

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(地図3:北京から発射した各種弾道ミサイルの射程範囲 出典『米国防総省年次報告書2007』)

米国防総省年次報告書などでは、DF-31Aが米国全土を射程に収めた地図を掲載していますが(地図2、3参照)、これは北京を発射点とした場合のものです。邵陽のような中国南部へ配備した場合には必ずしも適切なものではありません。地下サイロがあるとされる秦嶺山脈西部もワシントンを攻撃するための発射点としてはギリギリで、北京かそれ以北へ配備しなければ米本土全域を射程に収めることはできないのです。もちろん、移動式の車両搭載型ランチャーもあるため、DF-31Aによる米全土への攻撃能力そのものを否定するわけではありませんが、地図を見る際には少し注意が必要だな、と感じますね。

潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)


中国のSLBM開発は順調なものではありません。夏級(Xia-class)原子力潜水艦は核抑止を担う戦力とは言えず、中国はJL-2(巨浪2)を晋級(Jin-class)へ搭載しようとしています。しかしながら、JL-2開発の進捗状況ははかばかしくなく、2003年、2004年、2005年、2008年、2009年に行われた水中発射試験のうち、2005年の試験を除いていずれも失敗に終わっています。したがって、現時点で初期作戦能力(Initial Operation Capability:IOC)に達した実用的なSLBMを中国は持っていません。

搭載するSLBMはまだ完成していませんが、発射台である晋級原潜は1番艦がもうすぐ就役するのではないかと見られています。最終的には5隻ほど建造されるものとみられますが、現在3番艦までの建造が確認されています。JL-2が完成された暁には、約60発のSLBM戦力がそろう見込みとなります。

ただ、JL-2が完成し海軍がSSBNの運用経験を積んだとして、米中間で有事が生起した場合、中国はSSBNをどこに展開させるのでしょうか?

2011年の米国防総省年次報告書では、これまで7,200+kmとされていたJL-2の射程距離が7,400kmへとわずかに上方修正されました。それでも、米国本土はかすりもしません(アラスカやグアム、ロシアとインドは中国近海に配備した晋級原潜から射程に収めることは可能ですが)。

JL-2が米国本土を射程に収めるためには、晋級は中国近海を遠く離れ、太平洋を東経160度近くまで進出しなければ西海岸の主要都市にさえ届きません。しかし、途中には米軍が対潜音響バリアーや哨戒網が張り巡らせているチョークポイントがあり(参照)、有事であれば西太平洋に米空母打撃群も複数個展開しているでしょう。その状況下で隠密性と生残性が最重要であるSSBNを太平洋へ展開させるのは容易ではありません。渤海や黄海は中国のSSBNにとって「聖域」とするには水深が浅く、好ましい作戦海域ではありません。また、南シナ海へ配備するとしても、あくまで米本土を狙うのであれば、たとえ10,000kmの射程を持つSLBMが開発されたとしても届きません。いかに「最小限抑止」とはいえ、人口密度の低いアラスカやグアムしか攻撃できないのでは抑止力も十分働かないのではないでしょうか。ソ連にはバレンツ海やオホーツク海という場所がありましたが、中国の地理環境ではそう都合良くもいかないようです。

◇ ◇ ◇


中国の戦略級弾道ミサイルは量産されることなく、数量的にはここ20年ほど抑制的に推移しています。依然として米国の大都市に対する核報復攻撃能力は十分なものとは言えず、本意であるかどうかはともかくとして「最小限抑止」の範囲内にとどまっていますね。

このように、配備ペースや現在の核戦力の規模からみると、中国は引き続き「最小限抑止」を核戦略の基本に据えるつもりなのだと考えられます。しかし、今後中国が弾道ミサイルの命中精度を飛躍的に向上させ、射程距離のさらなる延長を達成すれば、核ドクトリンが変化する可能性もないわけではありません。すなわち、「最小限抑止」→「確証報復」→「限定的抑止」というような流れですね。

中国には米国と世界の覇権を競う意図は現時点ではありませんし、能力的にもまったく不可能です。ただし、本稿では取り上げてはいませんが、短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの増勢は著しいものがあります。そのことからも、中国はまず地域覇権国としての地位を確立しようとしていることがみてとれますね。

【参考資料】

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