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優秀すぎることが昇進の妨げになる理由

ロンドンにあるアバナードのオフィス

ロンドンにあるアバナードのオフィス Photo: Vanessa Berberian for The Wall Street Journal

 仕事において、いつまでも同じ場所で足踏みしているような感覚を覚えたことはないだろうか? その場合、あなたが優秀過ぎるため、上司が手放すことを拒んでいる可能性を考慮すべきだろう。

 優秀な部下を持つ上司は、その部下の昇進や異動を後押しするのではなく、手元に置いておこうとする傾向がある。これは「才能のため込み」と呼ばれる。

 エリック・ミケロンさんは10年ほど前、コンサルティング大手アバナードで中間管理職として働いていた。当時、昇進が「ため込み」によって妨げられている感覚があったという。ミケロンさん自身は「もっと仕事をしたい意欲」が強く、北米を統括するトップチームの一員として勤務することが目標だったと振り返る。

 しかし、上司のそのまた上司のさらに上の幹部にあたる地域の統括者が「優秀な人材をため込み」、他の社員がそのチームに加わることにさえ抵抗していたという。ミケロンさんは結局、約1年後に社内の別の管理職に就いた。

 現在、スキルある人材の不足に直面する企業は、優秀な部下をため込む管理職の対策を進めている。アバナードでも今は経営陣が優先的にこの問題の解決に乗り出している。

 金融会社の米アリー・ファイナンシャルでは、社員が自身の昇進を幹部に働き掛けることを認めている。また大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングなどでは、右腕となる優秀な人材を育成した管理職に報酬を与えている。

「これはチームスポーツだ」

 アバナードのスティーブン・ケリー最高人事責任者(CHRO)は、同社のアダム・ワービー最高経営責任者(CEO)が2013年に「ため込み対策」に着手したと話す。ケリー氏によると、一部の管理職が優秀な部下を他の部署に奪われるのを嫌がったことが、同社の成長の足かせになっていた。 マイクロソフトとアクセンチュアの合弁である同社では、「全員が自分のチーム内のことしか知らなかった」とケリー氏は振り返る。

 ワービーCEOはまず、数年ごとに幹部に新たな役割を与える制度を開始。2014年に入ると「これはチームスポーツだ」と幹部たちに伝えた。

アバナードのワービーCEO

アバナードのワービーCEO Photo: Vanessa Berberian for The Wall Street Journal

 優秀な人材をため込むことが、ビジネスに悪影響を与えることを示す調査結果もある。企業生産性研究所(Institute for Corporate Productivity=i4cp)が昨年、665社を対象に調査したところ、優秀な部下をため込む管理職は全体の半数にいることが分かった。利益や売上高など業績の悪い企業では「ため込み管理職」が在籍する割合は74%に達したという。

 i4cpで調査を担当したケビン・マーティン氏は「才能をため込めば、最終的には主要な人材が会社を去ることにつながる」と指摘。「経済が堅調でミレニアル世代が転職をいとわない環境下で、これは一層大きな問題となっている」と話す。ため込みが恒常的に存在する背景には、部下が異動しても上司の利益になることは少ないからだとも同氏は分析する。

 この問題を解決するため、アバナードのワービー氏は社内異動を増やす複数の方針を採った。幹部には部下の異動や昇進への準備状況を把握するよう指示し、「直ちに」から「3年後」などまで評価させた。

 この方法で通常より早いペースで昇進した1人が、アナ・ディシルベリオさんだ。ディシルベリオさんは2015年の秋まで地元イタリアで現地事業に携わり、海外で生活した経験はなかった。その後、2度にわたって昇進し、今はシンガポールを生活拠点に成長市場エリアを統括する。担当する地域は中国やブラジルなど8カ国に及ぶ。

 ディシルベリオさんは自らの昇進を「とてもよく管理されたプロセス」だったと振り返る。しかし今は自らが担当している地域で人材のため込みが発生しており、管理職に対しては優秀な人材が異動することは企業にとっても自然なあり方だと繰り返し伝えるようにしている。

社員が直接アピールする場の設置も

 ワービー氏は今、1年のうち数日は経営陣と集まり、重要な人材について話し合う。アバナードで人事管理を担当するトニ・ハンドラー氏によれば、会議では「この人材は必要だ」と宣言して人事異動に抵抗する人もまだいる。だが「才能のため込みは認められない」ため、他の幹部がすぐに却下するという。

 またケリー氏によると、同社幹部の評価の一部は、異動や昇進の準備ができている部下の人数によっても決まる。正式な話し合いの場以外でも、ワービー氏は異動や昇進間近の人材を把握しようと動く。

 アバナードは今では、上級管理職の間でも活発に異動を行っている。2015年7月以降では、240人いる上級管理職のうち30人が異動を経験した。短期間にこれだけの人数が動くのは異例だと同社の広報担当者は話す。

 アリー・フィナンシャルではキャリアに関する話し合いの場を持ち、才能のため込みを防止している。ポジションに空きができれば管理職が人材の評価を見て後任を選ぶことが多いが、同社では一歩進み、上級管理職に対して社員が自身の能力をアピールすることもできる。

 このプロセスに進む社員は直近の査定で高い評価を受けていなければならず、また現在の職務に1年以上就いていなければならない。同社のキャスリーン・L・パターソンCHROによれば、2015年以降で11人がこの制度を使って昇進または異動したという。

 そのうちの1人が、2013年に現場リーダーとして採用されたトニー・ジェファーソンさんだ。ジェファーソンさんは、上司と将来的な目標について話し合う場でも「スケジュールを設定されなかった」ため、直接アピールすることで素早く昇進できると考えたと話す。昨年6月に行われた会議では20分にわたって10人程度の幹部と面接し、金融業務での経験やキャリアパスの希望について語った。中間管理職に昇格したのは、その3カ月後だったという。

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