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なぜプロ野球選手は乱闘をしても逮捕されないのか - 及川修平(司法書士)

先日のヤクルトと阪神の試合中、藤浪投手の投じた死球をめぐって乱闘に発展した一件。記事によるとヤクルトのバレンティン選手が阪神の矢野コーチを突き飛ばし、矢野コーチも「ジャンピングニー」で反撃などと報じられた。
阪神は京セラドームにヤクルトを迎えての地元開幕戦(4日)に敗れたが、先発の藤浪晋太郎投手(22)が畠山に与えた死球をめぐり、両軍ベンチ総出の大乱闘が勃発した。 「ヤクルト・バレンティン大暴れ舞台裏 試合後、ナインはVTRで大爆笑」夕刊フジ 2017/4/6
  プロ野球の試合をめぐって度々起こるこの乱闘事件。普通のサラリーマンがライバル企業の社員と乱闘でもしようものなら、暴行罪や傷害罪といった容疑で逮捕されてもおかしくないのだが、プロ野球の乱闘を巡って逮捕者が出たという話は聞いたことがない。

これはなぜだろうか。

■人を殴ったり傷つけたりしても罪とならないことがある

人を殴ったり傷つけたりしても罪とならないことがある。これは人を殴ったり傷つけたりすることが正当な業務となる場合だ。

例えば、外科手術などがそうだ。メスで患部を切るわけだから、言うなれば人に傷害を負わせたということになるのだが、医療行為という正当な仕事として行っているわけで、もちろん罪には問われない(医療過誤のケースで、重大なミスがあるようなケースでは業務上過失傷害などの罪に問われることになる)。

ボクシングやプロレスなどもそうで、形からすると殴り合いをしているので暴行罪や傷害罪の典型のようなものだが、スポーツとして確立し広く認知されているもので、もちろんそれ自体が罪に問われることはない。

そんなのは当たり前じゃないかと言われると、まったくそのとおりなのだが、では今回取り上げたプロ野球の試合中に起こる乱闘は、当たり前のように正当な業務と言えるのかという疑問がわく。

プロ野球の本来の「業務」とはもちろん「野球をすること」だ。

乱闘というものは、「プロ野球」の本来の業務とは言えないものであるので、一般人のケンカと同様、処罰の対象となっても何ら不思議ではないものなのだ。

■プロ野球の乱闘は「興行」の一種?

なぜ暴行罪や傷害罪とならないかということについては、様々な説明ができるだろうが、プロ野球が「興行」という側面を持つもので、この乱闘というものもある種の見世物的な意味合いとして世間一般に受け入れられているからだろうと考えられる。

プロ野球の乱闘などは、シーズンオフのテレビの特番などでネタにされているし、この冒頭で引用した夕刊フジもこの件をシリアスに伝えるものではなく、面白おかしく伝えているものだ。

このようなテレビ番組や新聞報道はけしからんなどという意見をあまり見たことがないが、それはプロ野球の乱闘は興行の一種と世間で認識されているからだろう。

■法律をいかに適用するかは「解釈」する必要がある

もちろん、広く認知されているから何でも刑事罰の対象にならないというわけではない。

例えば飲酒運転。

飲酒運転などは、ひと昔前では、警察24時などのテレビの特番で、飲酒者の珍回答をまるでコントのように見せていた。飲酒運転撲滅の機運が高まるなか、今の時代にそのような番組を作れば大問題になるだろうが、以前はそのような番組でも許される空気が世間にはあった。

しかしだからと言って、その当時でも、違反も一回目だから許してやろうとか、飲酒しているけど少しだからこのまま車に乗って帰ってよし、などとなっていたわけではない。もともと飲酒運転は違法であり、行政罰・刑事罰の対象となっていたもので、昨今の厳罰化の流れのある以前からそれは変わらない。

法律は条文という文書で出来ていて、それは「解釈」というフィルターを通して適用される。

法律というものは、杓子定規で融通の利かないものというイメージで見られがちだが、判例などを見てみると、裁判官が自らが考える妥当な結論が何処にあるかを考え、その結論にたどり着くように四苦八苦して法律を「解釈」していることがよくわかる。

「解釈」の根本にあるのは「常識」がどこにあるかということだ。

今回はプロ野球選手の乱闘を取り上げてみたが、法律や裁判が話題となったとき、その背景にある「常識」とは何だったか、考えてみると面白いだろう。

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