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北朝鮮問題が最大の焦点、米中首脳会談では何が起きていたのか - 小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)

 4月6日から7日にかけて、フロリダ州のパームビーチにあるリゾート地「マール・ア・ラゴ」で、ドナルド・トランプ大統領と習近平国家主席による初の米中首脳会談が行われた。会談では、幅広い分野を扱う「米中包括対話」の設置や、米国の対中貿易赤字削減に向けた「100日計画」の策定、トランプ大統領の年内の訪中などで合意がなされたが、最大の焦点は会談直前にも弾道ミサイル実験を強行した北朝鮮への対応だった。

 トランプ政権は発足後に北朝鮮政策の見直しに着手し、オバマ政権の「戦略的忍耐」は失敗したと結論づけた。そして、軍事的手段を含む「すべての選択肢」が検討されていることを繰り返し表明する一方、中国に北朝鮮に対する影響力を行使するよう求めてきた。米中会談の直前には、トランプ大統領が、中国が北朝鮮の核ミサイル開発を中止させるために協力しなければ、米国が単独で行動すると述べ、それが軍事攻撃を意味するのかどうかに注目が集まっていた。

共同声明も共同記者会見もなし、
米中双方の発表内容にズレも

 初日の夕食会で、トランプ大統領は笑顔で習主席と握手を交わし、偉大な関係を築こうと呼びかけた。しかし、実際には夕食会の直前に米軍によるシリア空爆が決定されており、夕食会の終わりにトランプ大統領から攻撃の事実が習主席に伝えられるという波乱含みの幕開けとなった。シリアへの空爆は、数日前のアサド政権による化学兵器の使用への対抗策として行われたが、トランプ政権は空爆を夕食会の最中に行うことで、中国、そして北朝鮮にも軍事的手段を使うべきときは使うというシグナルを送ろうとしたのだ。

 今回の会談では共同声明も共同記者会見もなく、米中双方がそれぞれ会談の内容を発表するという異例の形が取られた。実際の会談では相当激しいやり取りもあったためだ。

 北朝鮮問題について、ティラソン国務長官の発表では両首脳が北朝鮮の核・ミサイル問題について「深刻な段階」に達しているとの認識で一致し、国連制裁の完全履行も確認したとなっている。他方、王外相の発表では、米中両国が朝鮮半島の非核化と国連制裁の完全履行を確認したことに加え、中国側が対話と協議による問題の解決と、韓国へのTHAADミサイル防衛システムの導入反対を主張したとなっており、米中双方の発表内容にズレがある。

 会談では、米側が北朝鮮と取引がある中国企業を制裁対象にする意向を伝達したとみられ、実際トランプ政権は制裁対象に中国4大商業銀行の1つである中国銀行を含めて検討している。他方、中国は米韓による軍事演習の停止を要求し、米朝の直接対話も提起したようだ。北朝鮮問題に関する双方の立場に相当の開きがあることはあきらかで、米側はこの会談で中国側の譲歩を勝ち取ることは考えておらず、米側の本気度を中国側にわからせることを目的としていた。

「習主席が夕食会の場でシリア空爆に理解を示した」のか

 そもそも、この米中会談は中国側の要請によって実現したが、中国側にとって最大の懸念は台湾問題だった。トランプ大統領は就任前に「1つの中国政策」の見直しを示唆し、中国にとってもっとも敏感な問題で中国側を揺さぶった。2月初めの米中電話首脳会談で、トランプ大統領は「1つの中国政策」を尊重すると述べたが、秋に共産党の最高機関である党大会を控えた習主席は、何としても直接の首脳会談でその言質を取る必要があった。

 他方、トランプ政権側は、北朝鮮問題で中国に圧力をかけるためにこの会談を受け入れた。中国側が2月の日米首脳会談並みの扱いを求めたため、トランプ大統領は安倍総理を招待した「マール・ア・ラゴ」に習主席を迎えることにした。しかし、トランプ大統領は夕食会のデザートを食べている間にシリア空爆を知らせるという屈辱的な形で習主席の面子を潰し、中国側が期待した1つの中国政策に言及することもなかった。

 特に、米側の発表では、習主席が夕食会の場でシリア空爆に理解を示したとされているが、伝統的に対外介入に反対することを原則とする中国政府が空爆に理解を示すとは考えにくい。仮に習主席が米軍の空爆に理解を示したとすれば、失脚につながりかねない失言である。実際のところ、習主席は、化学兵器の使用には反対するが、軍事力による介入も支持しないという原則論を述べたようだが、米側によって空爆に理解を示したと発表されたことは習主席にとって後を引く問題となるかもしれない。

会談後も続く両国の駆け引き

 トランプ政権は、北朝鮮問題解決への決意を示すため、米中会談後も様々な動きを見せている。核兵器を在韓米軍に再配備することを検討していることが報道されただけでなく、3月に米韓演習に参加したばかりのカール・ヴィンソン空母打撃群を再び朝鮮半島近海に呼び戻した。トランプ政権は、東南アジア各国に北朝鮮労働者の追放を要請することも検討している。

 4月12日にはトランプ大統領が再び習主席に電話をかけ、北朝鮮への圧力を迫った。これに対し、習主席は「平和的な方法」での解決を主張し、北朝鮮への軍事的圧力を強化するトランプ政権も牽制した。他方で、北朝鮮が6度目の核実験を強行した場合は、中国政府が北朝鮮への重油の提供の中断や、国内の北朝鮮労働者の追放、北朝鮮観光の制限などを検討していることが漏れ伝わるようになっており、トランプ政権の意向にある程度応えることも検討していることがうかがえる。

 それでも、中国がトランプ政権の圧力に屈するとは考えにくい。制裁で北朝鮮が崩壊することは中国の国益にはならないため、金正恩体制を生かさず殺さずの状態にしておきたいのが中国の本音だろう。シリア空爆をめぐって米ロ関係が悪化する中、中国はロシアとの連携によって、米国からの圧力をかわすことができる。米国が国連安保理でさらに厳しい制裁を提案しても、ロシアが反対するので、中国はロシアの陰に隠れていればいい。また、シリア空爆をきっかけに中東情勢がさらに悪化する可能性が高く、今の米国に中東とアジアでの二正面作戦を行う余裕があるかどうか、中国は見極めようとするだろう。

 会談の成果に関して、米中双方は表向き友好関係を強調したが、実際には北朝鮮をめぐる両国の立場の違いが一層浮き彫りになった。トランプ政権は引き続き中国への圧力をかける一方、おそらくは為替操作国指定を見送ることで、中国に妥協の姿勢も示すようだ。他方、秋に党大会を控えた中国は米中関係の強化と朝鮮半島の安定の両方を重視し、結果としてトランプ政権が納得する行動は取れないだろう。このため、事態の打開を求めてトランプ政権が軍事的手段に出る可能性を排除することは危険である。

 数年後に振り返れば、この米中首脳会談が、朝鮮半島そして地域の安全保障環境を劇的に変化させるきっかけになったと評価されるかもしれない。日本としても、米国と緊密に連携してあらゆる事態に対処する準備を進めつつ、金正恩後の朝鮮半島にどう関与していくかを真剣に考える必要がある。

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