記事

胃ろうは全廃は望ましいことなのか?

毎日jpに掲載されていた琉球新報の『特別養護老人ホーム:高齢者の尊厳大切に「胃ろう」全廃』と謂う記事を読みました。


どらねこは一応、栄養の専門家の端っこの方には位置しており、記事を見て色々と思うことがありました。この部分がイケナイ、とかそんな事はないのですが、予備知識の無い方が記事により妥当とは言い難い印象形成をしてしまう可能性などもあると個人的に思いましたので、記事を引用しながら言及してみたいと思います。
特別養護老人ホーム(特養)で胃に直接流動食を流し込む「胃ろう」など医療的処置が必要な高齢者が増える中、南城市知念の特養「しらゆりの園」(友名孝子理事長)が口から食べる摂食訓練で胃ろうを全廃し、入所者全員が健康な人と同じ食事をしている。入所者の重度化が進む特養で全員が胃ろうや刻み食、ミキサー食でなく、口から常食を食べているのは全国でも例がないという。
はじめから細かいケチをつけるようで恐縮なのですが、「流し込む」と謂う表現は、胃瘻に対しする予備知識が少ない人では誤解を招きかねないと懸念いたします。この施設の取り組みは大変立派である事に異論はありませんが、それを印象づける為なのか「流し込む」と謂う乱暴さを感じさせる表現が選ばれたように感じてしまいます。
胃瘻(いろう)栄養とは、口から物を食べることが難しい、入院を要するような嚥下・摂食困難者が在宅復帰や介護施設(住居)での生活を可能とさせる技術であるからです。30年ほど前までは全身麻酔を必要とする開腹手術により、この胃瘻がつくられておりましたが。現在では内視鏡を使用し、胃瘻を増設する技術*1が普及し、安全に比較的簡便に行えるようになりました。病気などで一時的に口から物を食べられなくなった方が、この手術を行うことで、安全に十分な栄養摂取が可能となり、病気の回復に必要な体力を維持できるなど、その恩恵にあずかった方はかなりの人数にのぼることでしょう。


現状では特養が胃瘻からの食事摂取を必要とする人を始め、嚥下や咀嚼機能の低下した入所者が多い状況にあり、記事で述べられているとおり、全員が常食を食べている狼寺院ホームはとても珍しいように思われます。

どらねこはこの取り組みや理念について素晴らしいと思いますし、実際に達成できたと謂うことで、スタッフの並々ならぬ努力に頭が下がります。おそらく、嘱託医をはじめ、看護師、言語聴覚士や作業療法士などの専門職や介護職員の連携があっての事でしょう。しっかりと計画を立て、危険を予測した上でその対処法に苦心してきたことと思います。
こぼしたり、時間がかかったりするが、次第に普通の食事ができる人が増え、5月22日に全員が口から常食を食べた。仲村渠紀希介護課長は「刻み食や胃ろうの時より時間がかかることは確か。それでも、目で見て味わい、口から食べることが人間として一番大切なのでは」と話す。
どらねこが知る限りでは、体力が低下した高齢者は坐位を保持するだけでも重労働であったりします。食事時間が伸びることは本人への負担が増す可能性もあります。「しらゆり園」ではこの点にも配慮している事とは思いますが、記事を読んで共感した方が単純に時間をかけてでも常食を・・・と考えてしまわないか心配でもあります。

また、『目で見て味わい、口から食べることが人間として一番大切』とする考え方は賛同される方も多いかと思いますが、それが安全を確保した上で無いと施設としては怖くて簡単には行えない事もまた事実です。

口から食べることに拘るあまり、単純にむせないからと本人の状態を見誤り食事を勧めた結果、気管支へ食べ物が入ってしまい誤嚥性肺炎に・・・なんて事も考えられます。なんとなくむせなければ大丈夫と思ってしまいがちですが、脳梗塞などを起こした事のある高齢者では、嚥下反射や咳嗽反射がないことから、むせないままに不顕性の誤嚥をおこす可能性があるからです。素人判断で出来ることではありません。本人の尊厳は勿論尊重される必要がありますが、それと命がどちらが重いのか?そう謂った問題を孕んでいる事を忘れてはなりません。
ほかの施設に取り組みが広がることを期待した。
このように結ばれた記事を読んだ方が、「この施設ができたのだから他の施設でも可能なはずだ」、そう考えたとしても不思議はないでしょう。胃瘻の入所者がいる事自体に疑問を持ち、施設がしっかりしていないからなどという不信感を持つこともあるかも(かんがえすぎかもですが)知れません。施設は高齢者の尊厳を蔑ろにしているから胃ろう栄養を行っているワケではないのですが、そのあたりを誤解してしまいそうなタイトルだと思うのです。

胃瘻増設は勿論ゴールではありませんが、全ての利用者が経口摂取に戻ることが出来る能力をもっているとは限りません。一度経口摂取が可能になった方でも、老化は進み、再び食事するのが困難になることも考えられるでしょう。そうなったときにはどう考えるのでしょうか?『胃瘻の全廃』と謂う表現に、必要な胃瘻に対してもその運用を躊躇してしまわないかと謂う心配をしてしまうのです。

胃瘻からの経管栄養の良いところは、食べやすい物は口から食べてもらい、不足する分は胃瘻から、と謂う分担が出来ることです。これは本人の負担も軽減されるわけで、決して悪いことではないと思います。全廃に拘るような考え方ばかりが正しいとは限らないとどらねこは思います。勿論、本人の能力は十分にあるのに、介護の手が足りないからと謂うような理由だけで胃瘻からの経管栄養が漫然と行われていると謂うのでは困ります。どのの施設でも、本人の状態にあった食事が出来るよう、もう少し介護に予算を・・・と思うのですがむずかしいですね・・・。

ながながと書いてきましたがこの辺で終わりにしようと思います。どらねこの一応の結論は、全廃は目的じゃなくて、たまたま必要な介護や手段を講じたら、みんな口から物を食べることが出来るようになった、なら良いのかなと謂う感じですね。


ご意見、感想等いただければ嬉しいです。


*1:経皮内視鏡的胃瘻増設術 Percutaneous Endoscopic Gastrostomy 略してPEGと呼ばれる

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