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亡国・売国のTPP参加-被災地を見捨て国内需要も輸出も破壊(中野剛志京大准教授)

 ※TPP問題が緊迫していますので、ちょっと古い記事になりますが「連合通信・隔日版」のバックナンバーから中野剛志京都大学准教授のインタビューを紹介します。(★連合通信の購読申し込みはこちらへ)

 「連合通信・隔日版」(2011年5月28日付No.8465)
 〈中野剛志京都大学准教授インタビュー〉
 TPP亡国論――TPP参加はデフレを加速、

  企業と国民が利益相反に


 例外なき関税撤廃、金融や通信、公共調達など非関税障壁の撤廃も進めるTPP(環太平洋経済連携協定)。TPPをどう見るか、中野剛志京都大学准教授に話を聞いた。

「売国的な政策」


 TPP参加は輸出増にも国内雇用の確保にも役立ちません。日本が参加した場合、参加国のGDP(国内総生産)比は米国が70%で、日本が20%、豪州が5%、その他の国々の合計が残りの5%です。日本製品の売り込み先は米国しかない。

 その米国もデフレ傾向で消費は低迷。「輸出倍増」を掲げるオバマ政権は、ドル安円高の為替政策を一層進めることで、自国の雇用と輸出を確保しようとするのは明白です。米国への販売増を狙うなら、現地生産にシフトする以外ないでしょう。

 その一方、オバマ政権は農産物の輸出のほか、金融分野への参入を狙っています。特に、国有化した「AIG」など保険産業の儲け先として、最も内需の大きい日本に照準を定めているのです。世界に誇る国民皆保険制度が危機にさらされると、日本医師会が懸念するのは当然です。

 インドネシアやベトナムなど他の参加国は労働力や軽工業製品の輸出を期待しています。

 早期参加でルールづくりに加わるべきという意見もあります。もっともらしく聞こえますが、参加国は日本の内需を狙う国々ばかり。有利な交渉は望めません。そのうえ、いったん参加を表明して撤退すれば国際的信用を失うことになります。

 国内需要が食い物にされ輸出は伸びない――。こんな売国的な政策をなぜ進めるのか、まったく理解できません。

輸出産業はデフレを好む


 重大なのは、TPP参加がデフレの一層の深刻化を招くことです。安価な農産物や軽工業製品、労働力が流入すれば、国内賃金の下落は必至。経済はさらに縮小に向かうでしょう。

 日本経団連はなぜ反対しないのかと思われる方もいるかもしれませんが、輸出産業にとってはデフレの方が都合が良いのです。(国際競争力を高めるために)国内の賃金は下がった方がいいわけですから。

 グローバル化とは、地球規模で活動する企業と、労働者、国民とが「利益相反」(一方の利益が他方の損失になる関係)になるということを見落としてはなりません。輸出企業の収益増が自国民の幸せにつながる時代は終わりました。輸出主導だった2000年代の好景気が、勤労者の所得増をもたらさなかったことがその証しです。

 TPP参加を「デフレ打開のため」と言うのは、何の根拠もない妄言です。

それでも労働組合か


 連合が参加に積極的なのも残念です。

 TPP参加はデフレを長引かせる一方、グローバル企業の利益を最大化させるもの。経営者と株主にしか恩恵はありません。労働組合の存在意義はどこに行ったのでしょうか。

 輸出産業の雇用を守るために、農業とその関連産業は少々犠牲になってもいいと考えているとするならば、そのツケはやがて自分たちに回ってきます。「自分さえ良ければいい」という姿勢は、自らをも滅ぼします。大体、世界中でグローバル化を歓迎している労働組合は日本ぐらいではないでしょうか。

 いま必要なのは内需の拡大。賃金を引き上げ、必要な公共事業を行うこと。輸出がGDPの1割にとどまり、大きな内需を持つ日本はそれが可能なのです。

被災地を見捨てる議論


 震災を理由に「成長するためにもTPPを」という議論が出ていますが、非常識極まりありません。

 東北地方は農地が多く、地震と津波によるがれきと塩害を除去するには何年もお金と労力をかけなければなりません。しかし、将来、TPPのせいで農業が難しくなると考えると、誰が東北の農地を復興しようと思うでしょうか。

 「TPP参加」にこだわるのは、政府は東北の復興を本気で考えていないということです。

 そもそも、TPP推進の論理は「少子高齢化で需要が縮小する国内を捨てて海外に打って出よ」というものです。TPPに参加すれば海外で稼げるという考えは、愚の骨頂だと思いますが、もっと問題なのは、この論理が「被災した東北地方は少子高齢化が激しい地域なのだから、そんなところに資金を投じても無駄」という話になるということです。

グローバル化推進の愚


 震災と原発事故で、外国人は日本を脱出し、輸出品は風評被害で売れなくなりました。海外からの資金も投機マネーばかりで、復興に必要な低利で長期の資金は来ません。つまり、グローバル化とは、国が危機になり国民が困っている時には役に立たないものだということが、今回の震災で明らかになったのです。

 それでもまだ、グローバル化を進めようというのでしょうか?

 なかの・たけし 1971年、神奈川県生まれ。京都大学大学院工学研究科准教授(都市社会工学専攻)。通産省(現経済産業省)入省後、博士号を取得。「国力論」(以文社)、「TPP亡国論」(集英社)など著書多数。

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