- 2017年04月11日 09:00
サービス過剰な日本人は「中国人店員の働き方」を基準にせよ
サービスは75~78点くらいで満足すべし
2017年3月28日、参議院議員会館にて「働き方改革に物申す院内集会」が行われ、そこに私も登壇した。他の登壇者は千葉商科大学国際教養学部専任講師・常見陽平氏、教育系ジャーナリストのおおたとしまさ氏、フリーライターの赤木智弘氏だ。タイミングとしては、常見氏が『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)を、私が『電通と博報堂は何をしているのか』(星海社)を、それぞれ上梓した時期となる。
画像を見る常見氏は「働き方改革」という政府の掛け声がいかに空虚なものであるかを説明し、おおた氏は生産性の高め方や世の不平等について語り、赤木氏は「働き方改革」自体が正規雇用向けのもので非正規をないがしろにしているものだと指摘した。私はといえば、電通と博報堂を中心とした広告業界の残業時間が長くなる背景と、下請け企業の長時間労働も問題視すべきであるといった趣旨の話をした。
全体の総括の中で「どうすれば日本の働き方に関する諸問題は解決するか?」と聞かれ、私は「基本的に100点満点を求めず75点~78点で満足せよ」といった話をするとともに、「お客様は神様です」的思想を捨て去れと提言した。
そんな話をしながら、急遽頭に浮かんだのが「中国人居酒屋店員を参考にせよ」という意見であり、壇上でも先の点数の話題に続けて言及した。
ここで改めて、この発言の意味を解説しよう。私が東京・渋谷で頻繁に出入りする居酒屋は3軒あるのだが、このうちの2店は店員がほぼ全員、中国人である。みな日本語が堪能で、注文を間違えたりすることもなく、テキパキと仕事をするのだが、いわゆる「日本的おもてなし」の感覚はない。
「ノミモノ、ナニ?」「リョウシュウショ、イル?」「ハイ、ヒヤヤッコ」といった話し方をし、客の前で賄いをかっこんだり、数人で空いている席に座って中国語でだべったりもしている。スマホを覗き込むこともしばしばだ。
恐らく上記のような対応をする日本人店員がいたら、店長を呼びつけ、「なんであんなにダレた店員がいるのだ! ちゃんとした敬語を話させ、賄いはバックヤードで食べさせなさい! 客のいる前で無駄話に興じるとは何事ですか!」なんて怒ってしまう客もいるかもしれない。
「中国人店員」に客が抱く「寛容の精神」
日本に蔓延する「お客様は神様です」思想により、客は「店員たるもの、常に勤勉に働く姿を見せよ」といった要求をしがちである。過去には、質問サイト「発言小町」にて「レジや販売、座っていてもいいと思いませんか?」という書き込みがあり、これが議論を呼んだ。店員が座っていることをけしからん、とするネット上の声も思いのほか数多く存在するのである。また、少しでも乱暴な運転をしている運送業者や、クラクションを鳴らす(社名付きの)営業車などがいると、その会社に電話をし、「おたくの会社の車が、クラクションを鳴らしていた。どういう社員教育をしておるのだ」などとクレームをつける。
以前、とある市役所職員から聞いた話なのだが、役所の公用車を飲食店の駐車場に昼時に駐めていると、役所にクレームが来るのだという。曰く「昼休み、プライベートの食事をするのに公用車を使うとはけしからん」とのこと。確かに昼休みは自分の車で動くべきではあろうが、たとえば公用車で仕事に出かけ、12時に出先で仕事が終了。このまま役所に戻り、自分の車に乗り換えて食事へ行くと確実に午後の始業時刻である13時には間に合わない。仕方ないから帰り道の途中で食事を済ませてしまおう! ……といった状況もあるのだが、公僕たるもの、これが許されないのである。
これは、消費者(サービス受益者)の側が、サービス提供者に対し、過度な期待をしていることを意味する。居酒屋の場合でも、日本人店員であれば「お飲み物は何になさいますか?」という丁寧な話し方が求められるし、ときには注文を取る際に膝を地面につける店員もいる。そして、帰りぎわには深々とお辞儀をされたりもする。そして、これらをされないと「おたくの店員教育はなっとらん!」などと客が怒り出したりするのだ。「飲み物は何にしますぅ~」みたいなチャラい言い方でも怒る客はいるだろう。
しかし、不思議なことなのだが、店員が中国人だと、丁寧でなくても腹が立たないのである。中国人による「ノミモノ、ナニ?」よりも日本人による「飲み物は何にしますぅ~」のほうが丁寧なのに、後者のほうは許せない。
この違いがなぜ生じるのかを考えると、「中国人店員だから、このくらいのサービスだろう」と客も寛容の精神を発揮している、ということになる。ならば、別に日本人の店員であっても、同様に接していいのではないだろうか。サービスに求める期待値を下げることにより、働く側のストレスも減り、客の側もピリピリせずに済む。
「お客様は神様」を捨て、過剰サービスを減らせ
これから東京五輪も近づき、恐らくさまざまなサービス提供主体が「おもてなし重視」の方向に舵を切るであろう。そのとき従業員には「100点」のサービスが求められる。しかし、日本のおもてなしは過剰である。たとえばハンバーガーチェーンであろうとも「ご注文は何になさいますか?」「店内でお召し上がりですか? お持ち帰りですか?」「袋(紙袋をさらに包むビニールの手提げ袋のこと)はおつけいたしますか?」と丁寧に喋り、にこやかでいなくてはならない。
アメリカのハンバーガーチェーンであれば、仏頂面の店員が「ネークスト!(Next!)」や「ヒア、オアトゥーゴー(Here or to go)」とぶっきらぼうに言い、英語があまり通じない場合は「ハァ?」と平気で聞き返してくる。こっちは「Vanilla Shake(バニラシェイク)」を頼みたいのだが、「V」と「B」の使い分けがうまくできないと「ハァ?」と返され、「We ain't got no banana shake!(ウチにはバナナシェイクなんてないんだよ!)」と乱暴に言われてしまう。ケチャップを追加してくれ、と頼もうものなら、なぜかよくわからないが店員はケチャップの小袋を大量に鷲掴みをし、面倒くさそうに袋の中に投げ入れる。まぁ、安い店なのだからこれでいいのである。別にチップを払うわけでもないし。
2013年9月、IOCの総会で東京五輪開催が決定したが、あのときは猪瀬直樹都知事(当時)がプレゼンで語った「ダイナミーック!」という「ミー」を強調する妙な発音が印象に残った。本来は「ナ」が強調されるべきである。そして「ー」は不要だ。また、それと同じ席で披露された滝川クリステル氏のプレゼンも耳目を集めた。「オ・モ・テ・ナ・シ……オモテナシ」と言いながら、仏壇店のCMのごとき合掌ポーズを取るシーンも印象に残っているであろう。日本の「おもてなし」精神を否定するつもりはないし、世界にそれをアピールするのも結構。だが、滅私奉公のような過剰サービスを何事においても要求する昨今の日本の風潮は、どうにも違和感がある。
「働き方改革」や残業時間の是正をしたいのであれば、過剰な「おもてなし」は返上し、消費者自身も「お客様は神様です」意識を捨て去り、労働者の過剰サービスを減らす方向に持ち込まねばならないだろう。それにはまず、居酒屋の中国人店員の態度を参考にし、また日本人従業員に若干「おもてなし度合い」が足りない者がいたとしても寛容の精神で臨む必要がある。当然、75~78点くらいのサービスは求めたいところではあるが、95点以上を過度に要求しては「働き方改革」なんてものは永遠に達成されない。
【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」・「お客様は神様です」的思考を捨て、客は寛容の精神を持て!
・サービスは75~78点くらいで十分。過度な「おもてなし」を求めてばかりでは「働き方改革」なんて実現しない。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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