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なるほどオタクは死んだわけだ。なぜなら、1人ではいられなくなったから。

 「オタクが死んだ」という言葉は、今までにも散々語られてきたことだし、今更、オタクなどという言葉に拘ってもあまり意味は無い。
 
 ただ、ここ2~3年、「オタクがカジュアル化した」というお決まりの言葉ではカヴァーできない次元でオタク的ライフスタイルが難しくなったと感じる場面が増えたので、そのあたりについて今の考えを述べてみる。  

【オタク=1人で過ごす時間の長い愛好家】だった

   1970~90年代からオタク的な愛好家生活をしていた人には当たり前で、2010年代からオタク的な愛好家生活をしていると思っている人には当たり前とは言えない、大切なことがある。
 
 それは、オタクの趣味生活とは、長い時間を、独りで楽しむものだった、ということだ。
 
 漫画オタクであれ、ゲームオタクであれ、アニメオタクであれ、オタクというのは自分1人でも楽しめる趣味を1人で楽しみ、好きに追いかけていくようなライフスタイルだった。
 
 それがために、オタクがオタクであるために必要だったのは、個人的な欲求を一人で煮詰められる空間、つまり子ども部屋だった。ビデオテープ、プラモデル、漫画、ゲーム。そういったものを詰め込み、自分だけで楽しめる空間としての子ども部屋は、オタクがオタクであるための必要条件だったし、ゆえに、旧来的な地域社会の家庭でなく、都市部やニュータウンの家庭において勃興したライフスタイルだった。
 
 [関連]:生まれて初めて出会った「おたく」――80年代地域社会の記憶 - シロクマの屑籠
 
 
 今でこそ、アニメもゲームも漫画もネット配信され、スマホさえあれば、ひととおりのコンテンツを楽しめる。だが、20~30年前はそうもいかなくて、1人でコンテンツを楽しむためにはいろいろな前提条件をクリアしなければならなかったのだ。  

スマホ時代の愛好家は、どこまで1人になれるのか

 一方、スマホはいつでもどこでもコンテンツを提供してくれる。そのかわり、「1人でコンテンツを楽しむ」という前提がやや怪しい。
 
 スマホは私達を引きこもらせない。
 
 かつてPCは、引きこもるためのツール、引きこもるオタクの部屋の心臓部をなすものだったが、常時接続とSNSによって、外部と接続する……というより接続せずにはいられないツールと化した。そして一般的な若者においては、PCは普及率の低いアイテムであり、かりにPCを用いていたとしても、スマホを併用するのが当然になった。
 
 スマホがコミュニケーションのプラットフォームとしてだけでなく、コンテンツの閲覧、情報収集、オンラインショッピング、ゲームプレイの手段として重視されていくにつれて、若者は、いや、私達は、いつでも誰かと繋がっているようになった。
 
 実際そうなのだ。自室に引きこもっている時、スマホで何かを楽しんでいる時、私達はたえず誰かと繋がっている。知り合いからの「いいね」や「シェア」、気にしている人の発言、そういったものと背中合わせで過ごすことが常態化している。
 
 空間的に引きこもっていても、情報的には引きこもっていない。繋がっているのだ。SNSという名の空間、インターネット空間という名の広場に、私達は「出かけっぱなしでいる」。もし、そこで何らかのフィーバーが起こっていれば、その熱気に攻囲されてしまうだろう。
 
 もし、情報的にも引きこもりたければ、その愛してやまないスマホの電源を、タブレットやPCの電源を、切らなければならない。だが、SNSやインターネットへの常時接続に慣れ親しんだ人間がオフライン状態で長く過ごすためには、それなりの意志やきっかけが必要になるだろう。
 
 さて、オタクの話に戻ろう。
 
 現代のオタクは、自分1人の楽しみを詰め込める空間を持っているだろうか。スマホを個人所有し、子ども部屋やワンルームマンションを与えられている若者においては、そうだとも言える。だが、そうではないともまた言える。なぜなら、オタクを自称する若者といえど、いやオタクを自称するような若者ほど、最近はSNSによって情報的に繋がっているから。好きなアニメを観ている時も、待ちに待ったゲームを遊んでいる時も、1人きりで作品と向き合った状態は長続きしにくく、他のSNSユーザーや知人と繋がりあった状態でコンテンツに触れてしまいやすい。たぶん、それが2010年代という時代の特徴だから。
 
 こうした話を誇張と捉えたがる人も、少なくとも右の事実は認めなければなるまい――目当てのコンテンツを楽しんだ後、長時間にわたって、そのコンテンツについての自分の感想や感慨や考えを独りで温めて発酵させることは難しくなった、と。
 
 昔のオタクは、空間的にも情報的にも切り離されていることが多く、それがために、同好の士が集まる同人誌即売会のような機会は貴重だったし、情報共有の手段としての雑誌やゲーセンノートのたぐいも重要だった。
 
 だが、今はその反対ではないだろうか。あまりにも、オタク達は、いや、私達は、空間的にも情報的にも繋がり過ぎていて、1人で引きこもってコンテンツと静かに向き合うことが困難になっているのではないだろうか
 
 現在でも、強い意志でもってスマホの電源を切り、目当てのコンテンツとひたすらに向き合えれば、一応、引きこもったオタクライフは再現できなくもないかもしれない。だが、アニメ視聴やゲームプレイをスマホに頼っている場合はそうもいかないし、そもそも、強い意志とやらがいつまで続くのかは怪しいものである。
 
 「オタクは死んだ」とは何年も前から繰り返し語られていた言葉だが、こうやって考えてみると、「1人でコンテンツと向き合う愛好家としてのオタク」は本当に瀕死なのである。今、そういう意味でオタクと言い得るライフスタイルをやりやすいのは、SNSやインターネットと繋がりにくく、オフラインを前提とした趣味領域ではないだろうか。
 
 だが、残念ながら、長年にわたってオタクの象徴とされていたのは、アニメやゲームやライトノベルといった、『げんしけん』風に言うなら現代視覚文化の領域だったわけだから、こと、それらに限っていうなら、1人で静かにコンテンツに向き合う愛好家としてのオタクは絶滅の危機に瀕していると言って過言ではないだろう。
 

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