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日本弁護士協会「録事」の魂

 明治30年(1897年)1月、全国の弁護士を横につなぐ初の任意団体として、「日本弁護士協会」が発足します。現在の日本弁護士連合会が発足する50年以上前の話です。

 当時、既に明治26年(1893年)施行の旧々弁護士法に基づいて、同年に強制加入団体として、東京弁護士会が誕生していましたが、弁護士会は当時、同法によって、検事正や司法大臣の監督下に置かれ、その議事内容に至るまで、まさにがんじがらめの状態でした。

 そうした状況下、法的な制度としての弁護士会とは別に、全国の有志が団結して私的な団体を作り、司法改革や人権擁護について、当局に実行を迫ろう、とする弁護士の気概が、初の全国組織立ち上げにつながったのです。

 協会は原則月1回、機関誌に当たる「録事」を発行しました。その1897年7月に出された第1号巻頭の「創刊の辞」が、当時の弁護士たちのすさまじい血気と志の高さを伝えています。

 「我日本弁護士協会録事は在野法曹が法律問題に関する気焔を呑吐すべき唯一の機関なり。而して如今、特に協会の問題として論究し又併せて社会に公表せんとする所のものは、司法制度の利弊、司法官の能力、品位、意気、技倆、其他広く行動に関する事項なり。・・・沐猴にして冠する徒をして顔色なからしめんとす」

 編集主事だった花井卓蔵と井本常治の合作によるといわれている一文です。「録事」はこの言葉の通り、その後、毎号辛辣。過激な論稿を載せ、事実「沐猴にして冠する徒」の心胆を寒からしめたようです。

 当時、既に法廷での判検事に対する抗争的な態度と名弁論で名をはせていた花井が編集主事にいたことから、「録事」の過激な舌鋒も、すべて彼の筆によるとされ、司法部が「あの花井が」と目の敵にした、という逸話が残っています。

 ただ、事実はそうではなく、当時の「録事」にかかわった弁護士たちはいずれも年壮気鋭で、会内でも穏健派で知られた弁護士までが、司法部の暴露記事を書いた、と原嘉道が書き残しています(第一東京弁護士会編「われらの弁護士会史」)。

 その後の協会の活動には目覚ましいものがありました。明治32年(1899年)刑事事件判決に判断理由を示させる刑事訴訟法改正、33年(1890年)弁護士審級制度撤廃の弁護士法改正を実現、34年(1891年)刑法改正阻止。彼らの気概が実を結んだ弁護士団体活動の最初の「黄金期」ともいえるような時代でした。

 33年(1890年)の協会決議の中には、こんな一文もありました。

 「弁護士会ヲ自治体トナスコト」

 第二次大戦後、実現するわが国の弁護士自治を、彼らが目標とし、また遠く見通していたのは、象徴的な事実にも思えます。

 さて、時は流れました。今回の「改革」論議が進むなかで、弁護士の口から度々、「弁護士は官に物を言わなくなった」という言葉が聞かれました。対立から協調へ――。弁護士会がそんな言い方とともに、「改革」に前のめりにかかわっていった時、その異変を感じとっていた弁護士も沢山いました。
 
 結果、その「改革」は弁護士の経済的な基盤をぐらつかせ、食っていくことを第一考えなければならない状況を作り出し、それとともに弁護士会自体の求心力も急速に低下してきているように見えます。

 「改革」がもたらした会内世論の分裂と長い対立。これを見てくると、かつて対外(権力)には団結し得た弁護士会が、内なる敵ともいえる会内の世論対立によって、その会員の拠点意識そのものを低下させてきたともとれます。

 そして、これらの会員の置かれている状況と意識変化の向こうに、弁護士自治の存続までもが危うくなる未来が見えてきています。

 もはや官に対してきっちり物を言う弁護士会も、「気焔を呑吐」するような弁護士意識もすべて過去のものということでしょうか。「時代が違う」といえばそれまでですが、それでも、この状況を天から見ている「録事」の面々が果たして何と言うのか聞いてみたくなります。

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