自分からSOSを発信する能力が重要

服部:現在、若者の”生きづらさ”は多様化しているので、それぞれの悩みに応じた相談環境を整理することも重要なのですが、自分からSOSを発信する能力も重要になります。
昨年4月に改正された自殺対策基本法では、義務教育の中にそうした要素を盛り込むことになっています。小・中学校にいる段階から、どうやって人に助けを求めるかを教育していくことが、今後は重要になってくると思います。
石井:本当にそう思います。先日、共同代表を務めさせて頂いている「若者自殺対策全国民間ネットワーク」でも、来年5年ぶりに改定される「自殺総合対策大綱」に「若者の自殺対策を強化する」という項目を新規追加いただく要望書を自殺対策ワーキングチーム座長の谷合正明議員に提出しました。
ここでは、若者の自殺対策を行う各団体が集い、有効だと考えられる若者支援のあり方や具体策を提案していく予定です。
また、私がこの要望書提出にあたって、非常に重要だと考えているのは、本人がセルフケアしやすい環境を作ることです。弱音を吐き出せずにガマンし続けてしまう人は、なかなか自分で異変に気付かず、他者から言われて初めて病院を必要とするほど状態が悪化した状況に陥りやすいのです。
自分の中のSOSに気付けないという方に、自分の異変のサインに気付くことのできるポイントや他者が異変に気付くことができるようなSOSの出し方など、セルフケアの方法を伝えていくことも重要だと思います。
服部:私が、自殺対策プロジェクトに携わる中でより強化すべきだと考えていることは3つあります。
一つ目は自治体内の各部署が連携を強化して対応にあたることです。現在は、学校の問題であれば教育の部署、生活保護を受給する場合は社会福祉の部署、精神疾患を抱えた場合は、社会福祉の中でも精神保健の部署といったように様々な部署が各課題の解決にあたりますが、自殺を考えるほど追い込まれた方が抱える課題は複合的で複雑なので、根本的な解決につながらないケースもあります。なので、自殺対策基本法の中で奨励されているように自治体の内部で連携できるような仕組みにしていく必要があるでしょう。
2つ目は、NPOなどの民間団体の横のつながりを強化することです。自殺に至るまでには、引きこもりや精神疾患といった問題があります。あるいは、LGBTの方は一般の方と比べて自殺率が6倍というデータもある。
なので、それぞれの分野の対策に取り組んでいるNPOが連携することで、最終的な自殺という段階に陥る前に、若者が抱えている悩みを解決していくことができるのではないでしょうか。
また、一般の方にとって「自殺」はまだまだ遠い問題ですし、タブーとなっているような現状があります。繰り返しになりますが、今回の「4人に1人が自殺を本気で考えたことがある」というデータが示すように、決して他人事ではないという認識が広がっていくと良いと思います。
石井:広めるという点で、メディアなどの役割も重要になってくると思います。これは先程も話しましたが、これから若者の自殺を減らしていくためには、メンタルクリニックや睡眠外来も含めた相談機関に打ち明けることができて、ラクになり解消できた人が、メディアで取り上げられることが必要とされると考えています。
「きちんと人に頼ることが出来た人なんだ」という認識が社会に広がっていけば、より悩みを打ちあけることができる人が増えていくと思います。
正しい形で周囲にSOSを発信するというのは、非常にポジティブな行動です。「使っちゃいけない」といった雰囲気になっていることが別の大きな社会問題であると思っています。周りの評価を気にして使えないのは、せっかく”悩みを聞くよ”と受け止めてくれる用意があるのにもったいない。だからこそ、利用できた人に対して、「よくやったね」と評価を届けるような発信の仕方が必要になってくるんじゃないかと思います。
服部:加えて、自分の身近な人が困っていないか改めて気にかけてみることは重要ですし、自殺を防止する要になると思います。
繰り返しになりますが、4人に1人は本気で自殺を考えた経験があるわけですから、もしかしたら周りにいる身近な人が自殺を考えているかもしれない。だからこそ自分が、少しだけ勇気を出して、周囲のことを気にかけてあげる。それだけで、少しずつ状況が変わる可能性のある社会問題だと思うので、そこは強調していきたいですね。