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現場崩壊に抗うヤマト、宅配料金値上げは根本解決策に非ず - 中西 享,今野大一

「水や書籍など、かさばる荷物が増え、再配達も多いのでドライバーの負担は増している。毎朝9時から10時は業者間でマンションの宅配ボックスの争奪戦だ」

 ヤマト運輸のとある宅配ドライバーは、宅配現場の惨状を嘆く。国土交通省によると、2016年の宅配便貨物の取扱数は約38.7億個と6年連続で過去最高を更新。宅配ドライバー不足もあり、現状のサービス水準を維持するのが困難な状況になっている。

 クロネコブランドの宅配最大手、ヤマト運輸は時間指定などサービスの一部を改める方針だ。ヤマト運輸労働組合が、荷物の引き受け増加により、労使で締結している残業時間の上限がこの数年は守れなくなってきたとして、取扱荷物の総量を抑制するよう要請したためだ。会社側も提案を受け入れる方針で、創業以来ひたすら続けてきた「お客様第一主義」拡大路線の軌道修正を迫られている。

 宅配荷物が急増した背景には、アマゾンジャパンなどを通して購入するネット通販の急増が挙げられる。当初は書籍の宅配から始まったが、現在はあらゆるものを取り扱い、ネット通販では断トツの伸びを見せている。

 09年に当日配達サービスを開始、10年には日時指定サービスを始めるなど、利用者の便利さを追求、配送スピードの速さがアマゾンの武器になっている。こうしたサービスもプライム会員(年会費3900円)になれば無料で受けられる。その配達はヤマトなど宅配業者に委託している。

 アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は、2月の日本記者クラブでの講演で、「品ぞろえの強化、低価格、利便性の3つの柱が重要。その中で配送スピードは最も重要な戦略の一つだ」と、今後の戦略を語った。筆者が顧客サービスについて「これ以上の速いサービスも行うつもりか」と質問すると「イノベーションが進めばさらにスピードアップするのは可能。それを進めるか否かは顧客次第だ」と答えた。

 ヤマトは現在、最大の荷主であるアマゾンと配達サービスの見直しについて協議をしている。宅配サービスはこれまでは「送料無料」が当たり前になっていたが、これからは圧倒的な人手不足と、残業時間の削減の観点から、このサービスは是正されるべきだろう。その際に、アマゾン側と利用者側に送料負担についてどこまで理解を得られるかがポイントになる。

 ネット通販の拡大や速達ニーズに対応するため、ヤマトは24時間「止めない物流」を目指し、1時間に最大4万8000個の荷物の仕分けができる総合物流センター「クロノゲート」を13年に東京・羽田に完成。この施設により約30%の省人化に成功した。

ただ、第3四半期までの業績(4~12月期)を見ると、営業収益は宅配便荷物の増加により前年同期比で3.1%伸びたが、営業利益はドライバーの人件費増が響いて6.5%減少するなど、多忙の割には利益につながらない「豊作貧乏」の状態になっている。その理由は、「物流センターを効率化しても、『ラストワンマイル』と呼ばれる配達の最終段階で大きな課題が残っているため」(畠山和生ネットワーク戦略部プロジェクトマネージャー)だ。

再配達を減らすために全社が力を合わせるも……

 同社は、ラストワンマイルでの課題を克服するための効率化も進めている。その一つが、数年前から取り組んでいる「チーム集配」だ。それまではドライバーが担当地域を1人で受け持っていたが、複数人での集配に改めた。早くからチーム集配に取り組んできた東京都葛飾区のチームに現状を聞いた。主婦パートの同前三貴香さんは、午前中だけ週に5日配達を担当。「私も含めた主婦のパート従業員は土地勘があり、地域に密着している分、再配達も少しは減らせる」と教えてくれた。

 宅配業者を悩ませるのが再配達だ。ヤマトもチーム集配で地域の主婦を活用し無駄を減らそうとしているが、その効果は限定的に見える。再配達の割合は約2割で、国交省でも「社会的損失」として解決策を検討、実施してきた。現状の解決策は、「最寄り駅やコンビニエンスストア、マンションなどへの受取ボックス設置を増やし、利用者がこのボックスを利用することで再配達の無駄を省く」、「スマホを使って利用者に配達日時を連絡することで確実に受け取ってもらう」などが挙がる。

 このほか、国交省は1回の配達で受け取ってくれた届け先に、宅配・通販事業者から100円以下相当のポイント付与を提案している。しかし、「負担するのが宅配事業者なのか、通販事業者なのかが不明確で、実際には難しい」(畠山氏)と、実施には消極的な姿勢だ。

再配達の件数を減らすことができれば二酸化炭素の排出量も減らせるため、同省は環境省と共同で17年度にボックス設置を促進。環境省が5億円の予算を初めて計上し、受取ボックスを設置した物流事業者などに対し補助金を出す。JR東日本は今年5月までに首都圏の駅に100カ所の受取ロッカーを設置する計画で、ヤマトも22年度までに、駅やバスターミナルに5000カ所設置する予定だ。

 再配達に対しては、受け取る客に課金させるべきとの声もあるが、発送元と届け先どちらに課金するかなどの課題があり導入のハードルは高い。

 将来を見据えた取り組みも進める。自動運転を活用した無人宅配サービス「ロボネコヤマト」の実証実験を、3月からDeNAと共同で実施。自分宛の荷物の配送を知らされた顧客は専用アプリを使い、受け取り場所と日時を指定。配送車が到着すると、荷台のロッカーから荷物を受け取れるサービスを目指しているが、現状の課題をすぐに解決できるわけではない。

 物流業界に詳しいイー・ロジットの角井亮一社長は「ネット通販は爆発的な広まりを見せており、JR東日本が宅配受取ロッカーを増設したり、ヤマトが配達料金を上げたりしても『焼け石に水』だ。業界全体で使えるような通知アプリの開発など、業界を挙げた取り組みが不可欠だ」と指摘する。

 物販市場全体に占めるネット通販の割合は5%に過ぎないが、今後はさらに伸びていくと考えられる。効率化を進めても限界があり、抜本的な解決は不可能だ。女性の社会進出なども進み、生活形態も消費行動も変化する中、40年以上続いた「便利で非効率な」ビジネスモデル自体をデザインし直す必要性に迫られている。

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