記事

ランキングという規律:密結合と組織変化

Michael Sauder and Wendy Nelson Espeland, 2009, "The Discipline of Rankings: Tight Coupling and Organizational Change," American Sociological Review, Vol.74 No.1, pp.63-82.
米国のロー・スクールがランキングに翻弄されるという現象を、フーコーの規律・監視・規格化という概念で読み解いた論文。

組織論では密連結 (tight coupling)、疎連結 (loose coupling) 、非連結 (decoupling) といった概念がちょっと前から流行しているようである。これは組織とその環境の関係について記述するための概念で、組織が環境からの影響を直接こうむる場合は、組織と環境は密連結しており、組織が何らかの緩衝帯 (buffer) を設けて環境からの影響を弱める場合、両者は疎連結しており、防火壁 (firewall) が強力で環境の影響を遮断している場合、非連結している、という。大企業を組織の例として考えると、政府や消費者、運動体は大企業にとっては環境である。政府が何らかの通達を出したときに、大企業がそれにきちんと従うならば、両者は密連結している。日本相撲協会が八百長疑惑の際に、マスコミなどのバッシングにあい、第三者委員会を立ち上げて調査や答申を出させたが、これは緩衝帯として機能した例であろう。この場合、マスコミと相撲協会は疎結合している。さらに障害者団体が大企業に障害者の雇用比率を上げるように要求しても、結局無視されるならば、両者は非連結である。

このような組織と環境の関係は、どのような要因によって左右されるのだろうか。Sauder and Wendy によれば、フーコーが言うところの規律・監視・規格化こそが密連結を作り出す重要な要因の一つである。彼らは、米国のロー・スクールが大学院のランキングに強く影響されていることを例に、このことを示そうとする。U.S. News and World Reports (USN) という雑誌が米国の大学院やロー・スクールのランキングを毎年発表しており、トップ100をランキングし、トップ100に入らなかったロースクールに関しては、First Tier から Fourth Tier まで 4段階で評価している。評価基準は様々な評価項目を合成したものであるが、基本的には名声、選別性、職業あっせん、そしてロー・スクールの持っている資源、の4種類の基準からなる。131校のロー・スクールの研究科長などの管理職にインタビューしたところ、ほとんどの管理職が USN のランキングを無視することができないと述べているという。もちろん、ほぼすべての管理職が、このランキングを批判するのだが、それにもかかわらず、 USNランキングを上げるために努力せざるをえないという。なぜならばロー・スクールへの進学を考えている学生は当然このランキングを見てできるだけランキングの高いロー・スクールへ行こうとするだろうし、教員も、理事も、外部評価者も、すべてこのランキングを参考にしてロー・スクールのパフォーマンスを評価するからである。それゆえ職業紹介に精を出し、教員/学生比や学生一人当たりの教育予算を高めるよう努力するなど、ロー・スクールの管理職は常にランキングを意識せざるをえないという。

このように米国のロー・スクールは USN のランキングを高めるために日夜努力しており、これは密連結の一種だと Sauder and Wendy はいう。USN のランキングがこれほど強い影響力を持ちえたのは、USN が強力な監視能力をふるうことができたからである。USN はロー・スクールが政府に毎年提出する報告と独自調査をもとにランキングを発表する。独自調査に関しては、ロー・スクール側は回答を拒否することができるが、回答を拒否すると、低めに見積もられた数値でランキングが発表されてしまうため、拒否が難しいという。さらに評価基準は上述のように、教員数や就職実績など細かな基準にわたっている(微細な権力!)ため、緩衝帯を設けて適当にごまかすことが困難であるという。こうして「客観」的なデータが作られ、多くの人々がそれを参考にする構図が出来上がってしまったため、ロー・スクールはランキングをめぐる競争から降りられなくなってしまっているという。このような競争において、順位を上げるために有効な戦略は限られているので、すべてのロー・スクールは互いに似通ってくる。つまり規格化が進んでいくというわけである。ここでは、フーコーにおけるパノプティコンの役割をランキングが果たしているのである。つまり、ロー・スクールはいつでもランキングを通して監視されており、そのような監視を通して、組織の規律化が生じるというわけである。もちろん、このような監視に対する抵抗やごまかしも存在するのであるが、大勢を変化させるには程遠いので、けっきょくは規律化のエピソード以上のものにはなりえていないようである。 Sauder and Wendy は触れていないが、ロー・スクール側の努力次第である程度はランクを上げうるという点も、ランキングがロー・スクールに対して強い影響を持ちうる理由の一つであろう。

このほかにも誘惑、みわく、といったフーコーの用語や議論が援用されているのだが、こじつけの域を出ておらず、議論を混乱させているだけだった。フーコーにおいては規律化されるのは個人であるが、この議論では組織が規律化されると主張されている点には注意が必要だろう(組織の主体化?)。また、 Sauder and Wendy はランキング一般にこのような規律化の力があるかのような論調なのだが、それはケースバイケースだろう。例えばベスト・セラーのランキングで作家が規律化されるだろうか? うわさ通り米国の大学はたいへんだなー、とは思ったが、分析は常識の域を出ていない。もっとエスノグフィックな記録としてならばそれなりに価値は感じるのだが、変にフーコーとすり合わせようとするので、無理が生じていると感じた。

蛇足だが、日本の大学教員には、この種の大学評価に否定的な人は多いが、長期的には抵抗することは難しいのではないかという印象を持った。確かに教育のパフォーマンスを正確に数値化するのは、ほとんど不可能である。そもそも何のための教育なのかがはっきりしない以上、正確な評価など不可能だろう。しかし、だからこそ、数値化して単純にランキングしてほしいというニーズが、大学の外部には強力に存在している。日本では現在、偏差値がこの役割を果たしているのだが、これはあくまで大学生の質の指標であって、大学が提供する教育の質の指標とは考えにくい(大学教員も偏差値の高い大学を好むのでラフな指標にはなるかもしれないが)。それゆえ、米国のように多面的に教育の質を評価すべきだという考えを否定するのは難しかろう。「卒業後30年たたなければ教育の成果は見えない」といった議論は一面の真理をとらえているのだろうが、多少不正確でいいからわかりやすく教育のレベルを数値化してほしいという社会的ニーズを打ち消すことは、長期的には難しいのではないだろうか。

トピックス

ランキング

  1. 1

    アビガン承認煽る声に医師が苦言

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    賭け麻雀苦言の労連トップが朝日

    和田政宗

  3. 3

    外国人選手が逮捕 試合なく薬物

    阿曽山大噴火

  4. 4

    安倍首相の言葉と行動大きく乖離

    畠山和也

  5. 5

    羽田で4人感染 ブラジルから到着

    ABEMA TIMES

  6. 6

    布マスクは金の無駄 飛沫防げず

    諌山裕

  7. 7

    森法相の国会答弁ねじ曲げに呆れ

    大串博志

  8. 8

    誹謗中傷の規制急ぐ政治家を危惧

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    森法相の迷走 元凶は安倍首相

    猪野 亨

  10. 10

    慰安婦団体 真の目的は日韓分断

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。