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医療や福祉サービスを増やせばGDPも増えるし、ハッピーになる。政治家の偉い方は言うけれど、そんなに簡単な話ではない - 「賢人論。」第35回(中編)森田朗氏

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前編「頑張ればまた、人口が増えて経済が発展していくんじゃないか?なんて漠然と考える人もいるが、そんなのは幻想でしかない」で、少子高齢化を突き進む日本の現状について警鐘を鳴らした森田朗氏。中編となる今回は、地方創生論の現実性に始まり、政治の世界で人口問題がどのように扱われているか?という、その裏側について聞いた。

取材・文/猪俣ゆみ子(編集部) 撮影/公家勇人

「限られたパイの取り合い」をしているだけに過ぎない。次は首都圏が高齢化する。

森田 高齢者や介護に関連する問題で他に考えられることは、地域の問題があります。今までは農村部で減っていて、都市部では統計上は増えています。本当はもうすぐ減るはずなんですが、思ったよりも減っていない。でも結局は日本全体の人口としては減っていくわけなので、都市部か、それ以外の地域のどちらかに分けるかの話なのです。

みんなの介護 限られたパイをどちらから移すかという話なのですね。

森田 地方創生とかって、地方消滅を避けるため、地域振興して人口を集めようと言っていますよね。でも今、仮に東京の人口を抑制して若者が地方に行って頑張ろうとしたとしても、次の世代になったときはまた減るわけです。そうすると、それが同じような形で維持できなくなりますから。限られたパイの取り合いをしているのが、昨今の地方創生のような話。

地域に関する大きな問題がもう一つ。子どもの数も生産年齢人口も減ってきて、まあ高齢者は増えていますが、これから急速に増えるのは、特に首都圏の高齢者です。この人たちをどうするか、非常に深刻な問題です。

みんなの介護 どれぐらい増えるのでしょうか?

森田 東京だけで、2010年から40年までに、150万人ぐらい増えます。さらに言えば、首都圏だと400万人にまで増えます。この人たちは、高校卒業と同時に集団就職で地方から上京してきて、東京周辺に住んだ。そういった人たちが高齢化して、人口あたりの医師数を見ると顕著ですよ。

みんなの介護 一番少ないのは、埼玉県ですよね。その次が千葉県。これからの首都圏の高齢者数を考えると、介護施設が不足する問題も出てくるのでしょうか。

森田 あると思いますね。一方では、島根県や秋田県もそうですが、人口がどんどん減ってきている県は高齢者自体の絶対数として減り始めています。若者はもっと減っていますから、高齢化率は上がっているけれど、高齢者の数も減っている。そういうところだと、医療や介護の施設が余ってくる可能性もあります。数合わせだけすると、首都圏の高齢者の人にそっちに移り住んでもらおうよ、という話になりますが、人間の生活ですから、そう簡単にはいかないわけで。



政治家に行動を取らせるのは難しい。科学的根拠で戦わなければならない。

森田 どういう形で経済を活性化して、その富でもって高齢者を支えていくのか。その働き方の問題や生産性の問題などさまざまな形で言われていますが、富を多く作り出せば作り出すほど配分できるわけです。でも、誰が作り出すか、どうやって作り出すか、という問題に、減っている生産年齢の人たちが頑張りましょう、という話になってくる。

一方では、その介護や医療で高齢者は増えますから人手は必要なわけです。雇用は増えるので見かけ上のGDPは増えますが、基本的に介護のために何かをして、介護を受けるとその人が払うわけじゃないですが。しかし、そのお金がどこからくるかと言えば、彼らが稼いで生み出した富、お金から来るわけではないんですよ。

ときどき、政治家の偉い方が医療や福祉サービスをやればGDPは増えるし、ハッピーになると言いますが、そんな簡単な話ではありません。将来世代から借金をして回すお金ですから。そこが苦しくなったら大元の蛇口を閉めたらみんな止まる話になりかねません。今でもそこは余裕がなくて苦しいものですから、介護労働力の賃金が非常に低いというわけで。

みんなの介護 政治家のみなさんはなぜそういうことをおっしゃるのでしょうか?

森田 簡単に言えば、彼らの目的は次の選挙で当選することだからでしょうね。つまり票数を得ること。有権者に占める高齢者の比率が高くなっているのはみなさんご存知でしょうが、その人たちの多くは、首都圏に集まっていますから。ここだけ人口が増えていてまわりが減ってきていますから。

一票の価値を平等にすればするほど、都市部の政治力は強くなってきます。だから、都市部の、自分で“貧しい”と思っている高齢者が喜ぶような政治をやれば票が集まる、という構図になってしまっているわけです。最高裁も、一票の価値は平等だと下していますから。ますます地方を代表する議員の数が減ってきて、その分、相対的に都市部が増えてくる。それがある以上は、政治家の人たちに行動を取らせるのは非常に難しいでしょうね、今の世代の負担を増やすとかサービスを減らして持続可能な社会保障制度にしていくというのは。

みんなの介護 そんな現状の中で、国立社会保障・人口問題研究所の役割というと…。

森田 私たちは政策提言を直接的にすることをミッションにはしていません。と言うのも、政治家が選挙で勝つために都合の悪い数字を操作する可能性があるわけです。そうすると、政策が歪んでしまいますから、ここは国の研究所としてあくまでも科学的な方法にしたがって政府が良いと言おうが、悪いと言おうが、客観的なデータを出す。

みんなの介護 そのデータをもとに政策が作られるわけですね。

森田 そうなんです。厚生労働省や内閣官房、内閣でその先にどのような政策をお考えになるかは、我々の外で判断してやってください、というスタンスです。

今の官僚の方たちは、筋を通すことに関して、少し弱腰なところがあるように感じます。内閣が何と言おうと、科学的な根拠でこうなっている、ということをきちんと言っていかないといけない。かなり言っていらっしゃるとは思いますが。

やはり、政治家の方と戦わなくてはならないですからね。人って、自分にとって不安を煽ったり嫌なことを数字で証明されたりしたら反発するものです。それは違う!と思いたがる。そこを、こう、強く言っていただく必要はあるかなと。

あとはメディアの方も。科学的根拠に基づく数字ということを、もう少し強く言っていただけるとね。

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