- 2017年03月28日 19:39
時代を憲法に合わせなければいけない 木村草太(憲法学者)×出口治明(ライフネット生命保険会長)(後編)
2/2憲法24条に同性婚を禁じる趣旨はない
出口:憲法はなかなか難しいことがわかったのですが、これを使いこなすためにはどうすればいいでしょう?
画像を見る出口治明さん
木村:日本国憲法は70年間改正されていないので、「時代に遅れた古い憲法」だと言われることがあります。でも一方で、「70年も経っているのに実現できていないところはないのか」という考え方もあるんです。憲法に書いたからといって、その理念がすぐ実現できるわけではありません。
たとえばアメリカでは、南北戦争の後に奴隷が解放され、「白人と黒人は平等に扱う」と憲法に書き込まれたのですが、20世紀の半ばまで黒人用小学校と白人用小学校が分かれている州があったし、公衆トイレ、プール、ビーチ、あらゆるところに黒人と白人の分離がありました。この差別的制度は憲法違反だからやめよう、となったのが、憲法改正から100年後でした。
日本国憲法はまだ70年。できていないことがたくさんあると考えるのが普通です。時代に遅れた憲法ではなく、むしろ時代のほうを憲法に合わせなければいけないという意識が必要ですね。
出口:日本国憲法は原理原則をクリアに書いてあるので、インターネットの時代になっても大事なことは変わらない、と言えるわけですね。
木村:そうなんですよ。
出口:書かれていても、できていないことがたくさんありますね。たとえば子どもの6人に1人が貧困であることも、憲法が実現できていないと言えます。世界的な流れで言えば、同性婚の問題もそうですね。
木村:日本国憲法は、実は同性婚を禁じているわけではないんです。ただ「個人の尊厳に基づいた家族を作らなければいけない」と言っているので、LGBTにも配慮した家族法を作らないと憲法違反だという議論はできますね。
出口:両性の合意、というのは?
木村:憲法24条の「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」。この条文は「両性の合意」で成立する婚姻、つまり異性婚についての規定で、同性婚については何も言っていないんですよ。
出口:なるほど。
木村:ですから、憲法24条を丁寧に読んでみると、同性婚を禁止しているようには読めないんですよ。
出口:そうか、その視点が僕にはありませんでした。
木村:なぜ、憲法24条ができたかというと、昔の民法では、結婚に戸主の同意が必要だったからです。「戸主の同意はいらない。愛し合っている男女が合意をすれば結婚できます」という条文なので、同性婚を禁じる趣旨はなかったのです。
あの時代は家庭の中での女性の地位が非常に低く、男女の平等が必要だということで作られた。同性愛者から憲法24条を見ると、「かわいそうな異性愛者のために作られた条文」というふうにも言える。同性婚の場合、家庭の中に男女の不平等などないので、24条のような条文はいらないんですよ。
出口:はあ~! その解釈は画期的ですね。
ただLGBTの方の中には「日本の憲法は他国と違って同性婚を認めにくい」という短絡的な意見が多い気がします。
木村:ええ、多いんですけれど、よく読んでみればそんなことはないんです。そういう意味でも24条はとても大事な条文です。
出口:僕もLGBTの方からそういう意見を聞いたら「木村先生のご本を読んで下さい」と言っておきますね。
木村:ぜひ。今後は生命保険の現場でも、同性パートナーの話は出てくると思います。
出口:ライフネット生命では、同性パートナーが受取人になることを認めているんですよ。
木村:それはすごく頼もしいですね。
「個人個人が幸せになる。
それが日本国憲法のもっとも大事な理念です」
出口:今日のお話は、ものすごく勉強になりました。
木村:一般に、憲法はとっつきにくいと言われますが、なくなったら困るものの一つとして考えてもらえたらいいですね。
私は憲法のことを水道管に例えています。蛇口から水が出るのは当たり前すぎて意識もしませんが、なくなって初めてありがたさがわかります。生命保険もそうですよね。日本の保険システムは非常にすぐれていて、まずは国民皆保険。それに加えて各保険会社が自由競争でいい商品を提供しています。保険システムが発達していない国では、こんなに安くていい保険には入れません。
出口:僕はいつもこう言っています。すごくカッコよくて優しい人がいました。結婚しようという話になったとき、その人が打ち明けた。「実はうちのお父さんとお母さん、健康保険にも国民年金にも入っていないんだ」と。そう言われたらびびりませんか?
画像を見る木村:ハハハ。まさに皆保険があるから、そういう心配をせずにいられるわけですね。憲法に置き換えると「うちの国、理由もなく逮捕します」とか「拷問もやり放題なので、覚悟して入国してください」というようなもの。そんな国には、普通は入国しません。怖いですもん。だから、自分がその国の国民になるとか、入国するという立場で憲法を読むのがいいかもしれません。
出口:僕は、日本国憲法って割と短いし、日本語としてもそんなに難しくないので、暇なときはみんなで読んでみましょう、とお勧めしたいですね。
木村:そうですね。特に憲法第三章には権利と義務の規定があります。私たちの生活を支えてくれているものなので、そこを読んでみるのがいいと思います。暇なときにね(笑)。
出口:国のカタチですもんね。
木村:日本国憲法のもっとも大事な理念は、個人個人がそれぞれに幸せになることです。個人の尊重、尊厳といいますが、個人は全体の道具ではありません。一人ひとりが世界を持っていて、個人を尊重する。そこに尽きます。
出口:まったく同感です。そういう意味ではレベルの高い憲法ですよね。
木村:一人ひとりが幸福を追求したり、知識を追求したり、自分の宗教観を追求したりするのだ、とも書かれています。国民は「世界を知ろう」とする気持ちが大事だと思いますね。
出口:好奇心とは、世界を開くこと。外に向かっていくことですよね。自分の世界を閉じてしまっては幸せになれません。
木村:閉じてしまうと、選挙のときに「あの候補は悪口を言われているからきっとそうだ」と決めつけたり、自分にとって必要な本と出合えなかったりする。出口さんは、非常に探究心と好奇心を持っておられるので、今日はとても刺激を受けました。だからこそ、新しいものを知ったとき「なるほど!」と言えるんだなあと思います。
出口:新しいものごとを知ると嬉しいですからね。今日はいろいろ教えていただいて、こんな考え方もあるんだ、とワクワクしました。
木村:そのワクワクが大事だから、個人は尊重されなくてはならない。それが日本国憲法だと思います。
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