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ロックの神々の黄昏、その先にあるものは

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ロック業界がビッグな理由

 ロックの商業的な成功は、音楽業界の構図が可能にしたものでもある。1980年代には多くのキャッシュを抱えたレーベルがアーティストにツアー資金を提供し、駆け出しのミュージシャンに経済的支援を与え、苦境に立たされたベテラン勢に対しても多額の投資を続けた。

 こうした投資は、製薬会社が研究開発に投資するときの考え方と似ている。これによってアーティストたちは自らのブランドを築けるようになり、スーパースターたちは現代の若手アーティストが太刀打ちできない大企業のような存在になっていった。

 ガンズ・アンド・ローゼズが1987年に発表した「アペタイト・フォー・ディストラクション」は、米国史上最も多くの売り上げ枚数を記録したデビュー作だ。そのガンズ・アンド・ローゼズは昨年のコーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバルでヘッドライナーを務めている。また米テネシー州マンチェスターで今年の6月に開催されるボナルー・ミュージック&アーツ・フェスティバルは、メンバーが50代に突入したU2がメーンの出演者だ。U2は1987年に発表したアルバム「ヨシュア・ツリー」の曲をフェスティバルで披露する。

 「このようなアーティストたちは大量のアルバムを売ってキャリアを形成してきた。CDが本当の意味でグローバルなメガスターを作り上げた」とミディア・リサーチのアナリスト、マーク・マリガン氏は話す。

若手ミュージシャンたちは跡を継げるのか

 娯楽の多角化、顧客の関心を引きつけ続ける難しさ、趣味の細分化、そしてレーベルからの支援の減少などもあり、現代の若手アーティストが過去のようにビッグになることは難しくなっている。

 質の低いロックであっても、過去にはラジオで流されることでヒットすることもあった。だが今の音楽業界は分断化され、ファンはさまざまなフォーマットを利用しながらロック、ヒップホップ、カントリー、そしてエレクトロニック・ミュージックなどを同時に聞く。そのためアーティストがかつてのような人数の聴衆にアピールする場そのものが少なくなっている。

 「ある程度のオーディエンスを抱えたパフォーマーになるのは容易になったが、アリーナを埋めるアーティストとして成功することは難しくなった」と米チケット販売大手、チケットマスターのネイサン・ハバード元最高経営責任者(CEO)は、ウェブサイト「ザ・リンガー」で述べている。

 ニールセンによれば、2001年に発売されたプリンスのベスト盤「ザ・ベリー・ベスト・オブ・プリンス」は昨年だけで約67万枚のセールスを米国内で記録した。これは昨年のベストセラーであるリアーナの「アンチ」(60万3000枚)やジャスティン・ビーバーの「パーパス」(55万4000枚)といったアルバムをしのぐ売り上げだ。

コンサートからの収益の今後は

 ビヨンセやテイラー・スウィフトといった若手のメガスターやカントリー歌手のキャリー・アンダーウッドは、ツアーから多くの興行収入を得ている。また数多くのツアーをこなすレディ・ガガやジャスティン・ティンバーレイク、そしてニッキー・ミナージュもその後を追っている。

 だが現在の構造ではラッパーのフューチャーやロックバンドのジャパンドロイズが過去のアーティストに匹敵する膨大な利益を得ることはない。

 スプリングスティーンは昨年76回の公演を行い、自身のキャリア最高額となる2億6800万ドル分のチケットを売り上げた。僅差で2位につけたビヨンセ(35)は、わずか49回の公演で2億5600万ドルを売り上げている。だが興行収入上位10組の中で最も若手のジャスティン・ビーバー(23)は、スプリングスティーンよりも約40公演多かったものの、チケットの売り上げは40%低い1億6300万ドルにとどまった。

 音楽業界を研究してきたプリンストン大学の経済学者、アラン・クルーガー氏は、コンサートのチケット価格が過去30年で大幅に上昇したと指摘する。現在のチケットの平均価格は過去最高の76ドル55セントに到達しており、昨年は20組のアーティストが平均して100ドル以上の値段がするコンサートを実施した。この背景には音楽を聴く側も年齢を重ね、裕福になった点が上げられる。

 一方で若手のアーティストたちはスタジアムを埋められずに苦労しているとクルーガー氏は話す。若い音楽ファンはコンサートを鑑賞する経済的余裕がないため、100組ほどのアーティストが出演するフェスティバルに足を運ぶ傾向がある。バンドのトゥエンティ・ワン・パイロッツのチケット代は平均36ドル以下で、ポップ歌手のセリーナ・ゴメスのチケットは66ドルだ。だがローリング・ストーンズのチケットは122ドルにも到達し、マドンナの場合は216ドルと高額になっている。

 ポールスターのゲアリー・ボンジオバーニ編集長は「ドレイクやジャスティン・ビーバーのチケットが30年後も売れているとは思えない」と話し、「ベビーブーマー世代のバンドのように第一線で活躍できる持久力を、今の若手が持ち合わせているようには見えない」と続ける。

音楽業界を待つ未来

 若いファンのためにフェスティバルを開催したり、小さな規模の会場で公演を行ったりする一方、ベビーブーマー世代からは可能な限り利益を得ようとする。現在のコンサート業界はこの二つの方向に進んでいる。

 チャック・ベリーの友人であり、米ミズーリ州セントルイスにあるライブハウスを所有するジョー・エドワーズ氏は、今後は規模の大きな会場ではなく1000人から3000人程度の会場が人気を集めると推測。「アーティスト側もこれぐらいのサイズがいいと考えている」と話す。

 米コンサートプロモーション大手ライブネーションは、米ニューヨーク州で行われるガバナーズ・ボール・フェスティバルを主催するファウンダーズ・エンターテインメントの株式を過半数取得。フェスティバルを通して若い音楽ファンの獲得に挑む。一方で業界2位のAEGは昨年10月にデザート・トリップと呼ばれるフェスティバルを立ち上げ、ベビーブーマー世代を狙った。

 デザート・トリップにはローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニー、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ザ・フー、そしてピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズなどが出演。カリフォルニア州で行われたこの公演は、コーチェラの約2倍となる1億6000万ドルの売り上げを達成した。

 だがロックスターたちの高齢化が進む中、業界関係者はビジネス全体の構造を作り直す必要があると指摘する。遺産管理人のジャンポル氏は「誰もが目の前にあることに集中してしまっている」とし、「この業界では誰も先のことを考えていない」と話す。

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