By Neil Shah
デビッド・ボウイ、グレン・フライ、プリンス、レナード・コーエン、ジョージ・マイケル、そしてチャック・ベリー。音楽界のスーパースターたちが短い期間に相次いで死去したことは、ファンに驚きを持って迎えられた。
だがロックンロールの創生期を支えたミュージシャンたちが70代に突入する今、ロックそのものが終わりの始まりを迎えているとも言える。代表的なアーティストがこの世を去れば、ファンは嘆く。ロック音楽が持つ影響力は計り知れず、偉大なミュージシャンが亡くなればポップカルチャーや音楽業界の売り上げにも影響を与えることになる。
米調査会社ニールセンによれば、1991年から現在まで最も多くアルバムを売った上位25組のうち、現在40歳以下なのはブリトニー・スピアーズただ1人だ。一方で25組中19組が50歳以上だという。
またウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が業界誌ポールスターのデータを分析したところ、コンサートの興行収入が最も多かったアーティスト上位100組は、2016年に合計で45億ドル(約4960億円)の売り上げを記録していた。だがこの金額の半分は、50歳以上のアーティストが稼ぎ出したものだ。ポールスターによれば、コンサートの売り上げが最も多かった上位10組のうち、ブルース・スプリングスティーン(67)、ガンズ・アンド・ローゼズ(平均年齢53歳)、ポール・マッカートニー(74)、ガース・ブルックス(55)、そしてローリング・ストーンズ(73)の5組は50歳以上だ。
高齢化がもたらすロック業界の危機は、以前から認識されていた問題だ。だが過去18カ月の間に大物アーティストたちの死去が相次いだことは、新たな観客開拓や若手アーティストの育成など、今後の展望を描くため業界に残された時間がそう多くないことを示している。
「毎年ポールスターのチャートを見ているが、上位にいる人たちはいつも往年のアーティストや過去の人物だ」と話すのは、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、ラモーンズの遺産管理人を務めるジェフ・ジャンポル氏だ。同氏は「業界はがけっぷちに立っているのかもしれないが、誰もそれに目を向けようとしていない」と指摘する。
なぜ今、高齢化が問題なのか
7500万人いる米国のベビーブーマー世代は、その先頭集団が昨年70代に突入した(米国勢調査局によれば、ベビーブーマー世代は1946年から1964年に生まれた人たちを指す)。今後20年もすれば、すべてのベビーブーマー世代が70歳以上になる。ロック・ミュージシャンは荒れた生活を送る傾向があるので、今後も死亡率は高止まりすると考えられる。「これらミュージシャンの死亡曲線は聴衆のものよりも先を行っている」とニューハンプシャー大学の統計学者、ケネス・ジョンソン氏は述べる。
この構造の変化を肌身で感じているのが、米オハイオ州クリーブランドにある「ロックの殿堂」だ。殿堂の代表を務めるグレッグ・デイビス氏によれば、アーティストが亡くなった場合は「彼らの楽曲を一日中流し、半旗を掲げ、アーティストの画像を1年間にわたって展示して敬意を示す。そして特別展も行われる」と言う。だが「特別展は少々頻繁に行われ過ぎだ」と同氏は明かす。ロックの殿堂入りを果たしている約800組のうち、約60%はまだ存命中だ。つまりベビーブーマー世代のミュージシャンが多く亡くなるのは、これから先であることが分かる。
これまでの時代との違い
ロックは音楽業界の販売額の大きな部分を占めている。昨年米国内で売れたアルバム販売額の41%はロックであり、ニールセンによればその割合はヒップホップやR&B(15%)、カントリー(13%)、ポップ(10%)よりも大きい。その中でもベビーブーマー世代のロック歌手たちは桁違いの存在であり、彼らは業界が爆発的な成長を見せる中で波に乗り、有名人が少なかった時代に数多くがセレブとなっていった。またジャズやクラシックは一時的にはポップ文化の主流を占めたものの、その後はニッチなビジネスとなっていった。しかしロックは音楽ジャンルとして初めて世界規模で成功を収め数十億ドル規模の業界となった上、今もその影響力を維持し続けている。
ポップ・ロック業界は新たな技術、文化、そして音楽が融合し、20世紀の半ばに形成されたといえる。1960年代後半にレコード・プレーヤーが家庭で利用されるようになると、若者たちは両親と別の場で音楽を楽しむことが可能になった。またロック・コンサートも世界規模で広がりを見せ、スタジアムなどの競技場で開かれるようになり、テレビなどのマスメディアが広まったことも世界的なセレブ誕生の一端を担った。