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『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』渡辺由佳里(著)を読む。

日本の人がとっくにトランプに飽きているのは承知だが、トランプは今後もいろいろと騒動を起こすと断言できる。しかも、次のアメリカ大統領選はすぐにやってくる。というか、もう始まっている。すでに何人か、立候補するつもりだろうと思える政治家がいる。彼らはまだはっきりと立候補宣言はしていない。時期尚早だ。しかし、読めないトランプの動向、混乱の極みにある共和党内部の動向、政権奪回を賭けた民主党の動向、今回の選挙で思わぬ動きを見せた有権者の動向、そして立候補しそうな他の政治家の動向を無理矢理に読みつつ、日々戦術を練っているはずだ。

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『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』渡辺由佳里(晶文社)

 『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』は米国マサチューセッツ州在住のエッセイスト/洋書レビュアー/翻訳家の渡辺由佳里氏が2016年の大統領選を描いた一冊だ。とはいえ、トランプのことのみが書かれているわけではない。

 前半はアメリカ大統領選の複雑な仕組み、過去の大統領と大統領選時の出来事が分かりやすく書かれており、今回のトランプ vs. ヒラリー戦に興味を持った人には次回2020年大統領選をより深く理解する助けになるだろう。

 著者はマサチューセッツ州レキシントンという歴史あるリベラルな街に暮しており、そこで一般の人々が自宅の「リビングルーム」で民主主義を大切に育んでいる様子を、住人ならではの体験談として描いている。まさにアメリカン・デモクラシーの根っこの描写であり、日本の民主主義との違いが分かって興味深い。

 同時に、著者も書いているようにアメリカは人種、所得、政党、思想などの組み合せが非常に複雑で、かつ似た背景を持つ者が固まって暮す国ゆえ、高学歴・高所得の白人が多いレキシントンの事情と、他の州、他の都市の事情はまったく異なる。

 だからこそ著者はトランプの政治集会に足を運び、数千人の中低所得白人支持者に囲まれ、トランプ熱に浮かされての攻撃的な態度に居心地の悪い思いを敢えてする。予備選期間中はサンダースの集会にも飛び、そこでは「バーニー・ブロ」と呼ばれた若い白人男性の革命熱を目の当たりにしている。良くも悪くも強烈な個性を放つトランプとサンダースに挟まれ、ヒラリーの選挙キャンペーンはどれほど波瀾万丈となったことか。

 そして、派手な選挙選の陰にはコーク兄弟やウィキリークスのアサンジが暗躍していた。

 後半は著者がそれそれの候補者と社会背景を分析し、良く言えば「多様性」、悪く言えば「分断」が進むアメリカの未来を占う。

 つまり本書に書かれているのは「すでに終った話」ではない。もうすぐそこ、目の前に迫っている2020年大統領選の本格的なスタートを迎える前に「準備」として読めば、きっと役立つ一冊である。




同作の中で紹介されているアメリカのベストセラー『ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち』J.D.ヴァンス

連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)

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