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日本は再生医療のシリコンバレーになれる

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骨髄の細胞から神経を再生する技術へ切り替える

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【田原】開発をスタートして1年後に大きな転換があったそうですね。説明してもらえますか。

【森】創業研究者である岡野先生の技術から、別の先生の技術に切り替えました。

【田原】岡野さんの技術に問題があったのですか。

【森】いや、技術的にはすばらしいです。ただ、神経幹細胞は脳の細胞。人の頭を開けて採取するわけにはいかないので、その点をクリアするのが大変でした。一方、世界では比較的とりやすい骨髄の細胞から神経を再生する研究が始まっていました。ある日、その研究を世界に先駆けて完成させた先生がいると岡野先生から連絡をいただいて、技術の転換をしました。

【田原】そうですか。意地悪なことを聞きますが、岡野さんにお世話になっていたのに、その技術を見捨てるのは悪いと思わなかった?

【森】正直、すごく思い悩みました。でも、より良いものを選ぶことが患者さんのためになります。岡野先生も同じように考えていたようで、真っ先に先生を紹介してくれて、切り替えたいという話にも快く応じてくださいました。本当に感謝しています。

【田原】切り替えた技術はすごいのですか。

【森】アメリカから主要メンバーやゲイリー・スネーブル先生などの大御所アドバイザーを集めて先生のところにうかがったのですが、データを見せていただいたときは衝撃を受けました。ほかのメンバーも同じだったようで、ミーティング中に「敬太、これを逃しちゃいけない」と肘でつつかれたことを覚えています。

麻痺していた人が再び話せるようになる

【田原】改めて教えてください。その技術で神経細胞を再生すると、なぜ麻痺していた人がふたたび手を動かしたり話せるようになるのですか。

【森】たとえば脳梗塞になっても、わずかながら分裂して増える細胞は残っています。それを発見したのが岡野先生ですが、その細胞はあまりにも数が少なく、普段はくすぶっている状態です。そこに当社の細胞を入れると、たんぱく質などを出して、わずかに残っている細胞に働きかけます。その結果、組織神経が再生されて腕が上がったり、話せるようになるというメカニズムです。ほかにも死にかかっている細胞を元気にしたり、血管がなくなっているところに血管をもう一度呼び込むことも可能です。わずかながらでも患者さんが持っている再生機能を最大限に引き出すイメージです。

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【田原】サンバイオの技術は、自分の細胞ではなくて他人の細胞を使って薬をつくるそうですね。どうしてですか。

【森】理由は2つです。まず自分の細胞からつくると時間がかかります。細胞を入れるのが救急車で運ばれてきてから何カ月後という話になれば、間に合わない可能性もあります。あらかじめ他人の細胞からつくって薬として用意しておけば、間に合わないリスクは減らせます。もう1つは、ビジネスの問題。自分の細胞からつくるとお金が高くつくので、利用できる患者さんが限られてしまいます。そうなると、私たちはビジネスになりません。

【田原】再生医療には、ほかにもiPS細胞などさまざまな技術があります。森さんたちが選んだ技術は、ほかのものと比べてどんな強みがあるのですか。

【森】いまお話ししたように、多くの患者さんに使っていただくには量産化が欠かせません。この技術はすでに量産化に成功して、iPS細胞などのほかの細胞と比べるとラボレベルで10年以上は先行しています。この点が最大の強みです。

日本は再生医療のシリコンバレーになれる

【田原】サンバイオは2013年に日本に拠点をつくった。アメリカはもう畳んだのですか。

【森】いえ、両方で製品化を進めています。いま社員は40人で、アメリカと日本で2対1くらい。私は時間的に半々で、両拠点を行き来しています。

【田原】もともとアメリカで製品化を目指したのは治験が短期間で済むからでした。どうして日本にも拠点をつくったのですか。

【森】日本の薬事法が改正されて、早期承認制度ができたのです。従来は承認までフェーズ1、2、3で約10年かかっていました。新制度ではフェーズ1、あるいは2の前半での承認も可能で、うまくいけば2~3年で承認まで漕ぎつけられます。これは50年、いや100年に一度の画期的な改正です。再生医療に関しては、いまや日本が一番早く承認を取れる国になったといってもいい。

【田原】厚労省は思い切りましたね。

【森】はい。これで日本は再生医療のシリコンバレーになると思います。すでに世界中からさまざまな研究者や技術が集まり始めています。日本から新しい再生医療が誕生して、世界に発信していく日は遠くないはずです。

【田原】そうですか。世界の製薬会社も日本でやる日が来る?

【森】すでにジョンソン&ジョンソンは日本でやっていますし、ベンチャー企業もたくさん来ています。狭い業界なので、私のところにアメリカやイギリスの会社から問い合わせがきています。公開されていない水面下の話が多いので正確にはわかりませんが、いま日本で承認を得ようと頑張っている企業の半分は海外企業という印象です。

再生医療はもう夢の話ではない

【田原】サンバイオが臨床試験を進めている脳梗塞の薬が「SB623」ですね。いつから試験をしていますか。

【森】SB623は開発のコード名で、11年からアメリカで臨床試験を始めました。14年に結果を論文にまとめたら話題になって、CBSニュースで特集を組まれました。

【田原】順調そうですね。実際に発売できるのはいつごろでしょう?

【森】再生医療は夢の話だと考えている方は多いですが、製品化に向けて現実的なところまできています。私たちは大日本住友製薬と帝人の2社と提携しました。製品化されたら彼らが販売をしてくれます。具体的なスケジュールは差支えあるのでお話しできませんが、そういった話が進んでいるくらいに現実感があると考えてください。

【田原】まだしばらく売り上げはないですね。資金は大丈夫ですか。

【森】大手企業との提携という形で売上があります。また、15年にマザーズに上場して約70億円の資金調達ができました。資金的には安定していて、恵まれた環境にいます。

【田原】脳梗塞の薬が完成したら、次は何ですか。

【森】交通事故などで起こる外傷性脳損傷については、すでに日本で臨床試験を始めています。それからパーキンソン病や脊髄損傷、認知症、アルツハイマーなど、脳や神経の病気を積極的にやっていきます。さらに脳にかぎらず、ほかの器官でも再生医療を広げて、その分野のリーダーになりたいです。

【田原】いまは日本とアメリカでやってらっしゃいますが、将来はほかの地域でも製品化しますか。

【森】ヨーロッパや中国、アジアは考えています。脳梗塞だけで世界で何千万人という患者さんがいて、認知症になるとさらに桁が一つ増えます。脳や神経の病気で苦しむ人が一人でも多くよくなるように頑張っていきます。

森さんから田原さんへの質問

Q. 日本がグローバルで勝つためには何が必要ですか。

いま注目の人工知能で勝ちそうな企業はどこでしょうか。Google、Apple、Amazon……。聞こえてくるのはアメリカ企業ばかりで、日本企業の名前はまずあがりませんね。

日本が人工知能で後れを取っているのは、基礎研究が弱いからです。実際、大学のランキングは悲惨です。イギリスの教育専門誌の2016-2017年ランキングで、東大39位、京大91位。200位以内に入ったのは、わずか2校だけです。これでは最先端分野で戦えません。

世界で勝ちたければ、大学から改革しないダメでしょう。幸い、再生医療のように基礎研究がしっかり行われている分野なら日本も勝てる可能性があります。森さんには、そのことを証明してもらいたいですね。

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