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なぜ自分よりできないあの人が上司なのか

文=冨樫篤史

現場で業務を持ちながら、部下の管理も行うプレイングマネジャー。そこには「部下を育成しない上司」を生み出すという落とし穴があった。

なぜ、自分より“できない”あの人が上司なんだろう……

この時期、多くの会社では来年度の昇格人事が内示される。昨今では年功序列の壁を越えて、20代でも複数名の部下を持つ管理者として抜擢する企業も珍しくない。

いわゆる課長職やマネジャー職と言われる職制においては「プレイングマネジャー」として自ら業績達成のため現場の最前線に立ち、トッププレーヤーとしての模範たる責務を担うケースもある。

トッププレーヤーにそのまま業績を引っ張ってもらいながら部下の育成管理も任せられるとなれば、非常に生産性の高い組織づくりに役立つ。優秀な人材の確保が難しくなっている近年では、なおのこと少数精鋭で組織運営したいのが常である。

しかしながら、このプレイングマネジャーという職制は、運用を間違えると本来の目的をはたすどころか組織マネジメントにおいて致命的なロスをもたらす。今回はこの「プレイングマネジャーの弊害」について、考えてみたい。

「なぜ、あの人が上司なんだろう」といった会話は、おそらくどの組織でも繰り広げられているのではないだろうか。

営業力、技術力、リーダーとしての影響力、マーケットへの精通度……。部下はさまざまな“テーマ”で上司の力量を値踏みする。「営業力でいえば自分のほうが上ではないか」というように、テーマ毎に自分と上司を比較し、評価している。一方、上司もそれに対抗し、特定のテーマについて、個人の力量で上回ろうとする。

組織内のポジションについての大原則を考えてみると、役職は“ルール”によって規定されている役割のため、仮にそれぞれのテーマで部下が上司を上回ったとしても、組織内の位置関係は逆転しない。例えば、経理部長が社長よりもアカウンティングというテーマで上回っても、その位置関係は逆転しない。ヒラの営業スタッフが社長より現場のマーケット動向に詳しい場合も同様である。

部下を育てないプレイングマネジャーが生まれる理由

ところが、プレイングマネジャーのように、プレーヤーとして上司と部下が同じ土俵で対抗する部分があると、組織内の位置関係に対する誤解を促進させ、以下のような事象が起きてしまう。 

◆自分より上司の力量が下と感じている部下は上司の指示をきかなくなる
◆上司も部下に特定のテーマで勝たないといけないと考え、本来管理職として期待される役割を果たさなくなる

部下が値踏みすることそのものを制御することはできない。指示をきかない部下は、“このテーマでは、勝っているから従わない”“このテーマでは、負けているから従う”というように特定のテーマに関する個人の力量の大小によって、指示を取捨選択できると勘違いしているからだ。では、どうすればよいか。

上司は、組織を勝利に導く責任を負い、その責任に付随して、組織運営上、必要なルールを設定する権限を持っている。ルールを決定し、それを明確に示し、組織の一員として、当たり前にルールを遵守するという状況を作る。遵守しない場合、上司として指摘する。このように、「ルールに従う」という状況を作れば、「指示を選択する・指示に従わない」という思考にはならない。

一方、上司が「営業力で部下に勝ち続けないと上司でいられない」という錯覚状態にある時、成長してくる部下たちは、「自組織の達成をともに追う構成員」から「自身のポジションを脅かすライバル」になり変わる。この状態においては、上司に十分な育成目標を果たす動機は生まれない。“部下に負けてはならない”という背景がある中で、プレイングマネジャー制を運用すると、「育成しない上司」ができ上がる。 

さらに、昇格の判断は、これらのテーマで上回ったからこそ抜擢されているというケースがほとんど。上司も慣れない管理業務や育成業務でリーダーシップを発揮し、組織をまとめていくよりも、昇格前のポジションにおける「勝ってきたテーマ」で部下の上を行く方が圧倒的に楽なのだ。つまり、上司として高い位置から遠くを見据え、組織の勝利のために必要な問題の発見、解決への行動が起きず、自身がプレーヤー時代に行っていたこれまで通りの行動を継続してしまう。

プレイングマネジャーの弊害に陥らないために

あなたの所属している会社がプレイングマネジャー制度を運用している場合、以下のような事象が組織内に発生していないか点検してみるとよい。

◆管理者が個人目標を持たせられている
◆管理者の目標に、育成項目がない
◆管理者が部下との会話で、プレーヤーとしての力量を自慢している

むろん、上司が営業力や技術力といったさまざまなテーマにおける自己研鑽をしなくていい、という話ではない。改めてそのポジション=「役割責任」とは何かを明確に規定し、管理者はその管掌組織全体のパフォーマンスで評価されることを認識する必要がある。

この春、もしあなたが新任プレイングマネジャーとして辞令を受けたとしたら、管掌組織全体のパフォーマンスが悪い状態では、個人成績がいかに良くても、それは評価の対象にならないということを認識し、行動することが肝要だ。

冨樫篤史
識学 大阪支店長、講師。
1980年東京生まれ。立教大学卒業後、ジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30名~50名の組織マネジメントに携わる。組織マネジメントのトライアンドエラーを繰り返す中、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学があらゆる組織の課題解決になると確信し、同社に参画。

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