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「本当のトランプショックはこれから始まる」クルーグマン教授 緊急提言!

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ジャーナリスト 大野和基=取材、構成 
檜佐文野=撮影


TPP離脱、メキシコ国境との壁、個別企業の名指し批判……まさかと思うことが日々現実になるなか、世界はどこへ向かい、日本はどうなるのか。各国トップや市場関係者がその発言に注目するノーベル賞経済学者、ポール・クルーグマン教授がプレジデント誌の独占取材に答えた。

ポール・クルーグマン●1974年イェール大学卒業。77年マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。2000年プリンストン大学教授、15年よりニューヨーク市立大学大学院センター教授。大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世界銀行、EC委員会の経済コンサルタントを歴任。08年にノーベル経済学賞を受賞。

最近私は歴史書をたくさん読んでいる。読めば読むほど、今の米国の状況に恐怖を感じるのだ。歴史的にみると共和制ローマの病弊がシーザーに始まったのではないように、民主制の病弊もドナルド・トランプに始まったのではない。民主制の基盤の崩壊はすでに何十年も前から続いている。これから回復できる保証はない――。

トランプ氏の就任演説の全文を読んで、その恐怖はさらに大きくなった。正気とは思えない内容だ。アメリカという国は、問題もあるが偉大な国だ。比較的平和な国でもある。だが、トランプ氏はこの国をcarnage(大殺戮)と表現した。いたるところで破壊が起きているとトランプは言った。そのアメリカを“制圧”するにはiron fist(鉄の握り拳:圧政)が必要だと言っているが、これは正気ではない。

さらに、彼は“America First”を何回も繰り返した。問題はこのフレーズが元々どこから来ているか、彼が知っているかどうかだ。意図的に知らないふりをしているのか。このフレーズはナチスに対する擁護者たちのスローガンだった。アメリカは中立を保ち、ナチスとの戦いにかかわるべきではないと言っていた人たちのスローガンであり、暗い歴史があるフレーズなのだ。トランプのビジョンの問題は、破壊的であること。外国人が我々アメリカにつけ込むのを許したという発想全体が正しくない。残念なことにそんな危険な人物に、巨大な権力を我々は与えてしまったのだ。

トランプが当選したあと株価が急上昇したが、これは想定外だった。私は当初、彼の当選後すぐに最悪の状態がやってくると思ったが、それは間違っていた。私はすぐにそれを撤回した。

今回の株価上昇には3つの要因がある。1つは財政出動が増えるだろうという期待。次に、おそらく間違いだろうが、経済が比較的よくなるだろうという期待。最後にトランプは法人税をぐっと下げると約束しているので、企業の収益が伸びるだろうという期待だ。

経済がどのように機能するかまったくわかっていない人が政権を握ると大きな破滅が起きる可能性を人々は過小評価している。さしあたり、トランプはクレイジーかもしれないが、経済にとってそれはいいことだろう、と楽観的になっているようだ。幻滅するまで少し時間がかかるだろう。

ツイートも減税ももはや効かない

では、トランプが動かすアメリカでこれから何が起こるのか考えてみよう。

トランプは海外に渡った仕事をアメリカに戻すと言っているが、どれだけツイートをしても減税をしても戻ってこない。トランプの考えはクレイジーである。例えば石炭業で雇用される人が以前より少なくなったのは、石炭をあまり使わなくなったからだ。しかも、現在使っている石炭は以前のように地下を掘り起こして採取するのではなく、山の頂上を削って採取している。だから、以前よりも人が少なくて済む。

製造業に人が少なくなった理由は生産性が上がり、以前ほど人を必要としなくなったからだ。以前と同じ量を生産するのに、はるかに人が少なくて済むようになっているのだ。

保護主義の手法で貿易黒字を生み出し、国内の雇用を増やそうとするトランプは、アメリカ経済が貿易赤字によって成長が阻害されているという考えを持っているように見受けられるが、それは、3、4年前ならある程度当たっていた。でも現在は違う。

いまアメリカ経済は雇用統計の数値もよく完全雇用のレベルに入っている。貿易赤字を縮小すれば何百という新しい雇用を生み出せるという考え方は、これからは通用しない。あるセクターで新しく増えた職がほかのセクターでなくなるだけなのだ。

格差の拡大も問題になっているが、トランプの政策によって、格差はさらに広がる。まずトランプの税制は富裕層に対する大規模減税となるが、多くの人にとっては増税になる。金融緩和はお金持ちにとっては潤うが、中間層には恩恵がない。社会プログラムの多くが大幅にカットされるようだが、それらは主に貧困層用のものであった。3000万人から健康保険を取り上げるということが起こりそうだが、対象となるのは決して裕福な層の人ではないのだ。

トランプが掲げる減税と規制緩和は政治的には両立するが、時間が経過するとマイナス面が明らかになってくる。すぐには起こらないが、将来金融危機が起こる素地ができてしまうだろう。さらに財政赤字が大きくなるとドルが強くなり、貿易赤字はさらに大きくなるだろう。

トランプが掲げる税制には、レーガン政権のそれとの類似点がある。違いはレーガンの場合、政府の債務が低いレベルから政権がスタートしているが、トランプははるかに高いレベルからスタートしていることだ。

レーガンの政策はドル高につながり、アメリカはレーガン時代までは大きな貿易赤字を抱えたことがなかった。トランプの政策もこのまま実行すると、どんどん貿易赤字が膨らむだろう。

保護主義のもとでiPhoneの生産は

では、世界経済にはどんな影響が起こるだろうか。

トランプは保護主義をアメリカ経済の中心に置いている。それは世界経済を2、3%貧しくするだろう。貿易が世界的に分解すれば、多くの短期的な痛みを伴うだろう。アメリカでさえ、多くの工場が閉鎖され、生産ラインがなくなることを人はわかっていない。今我々が行っていることの多くは、中国やあちこちから一定のものを買うことができるという前提に基づいている。しかし、このシステムを崩壊させるという実験はまだ試していないので、実際にどうなるかは誰にもわからない。

しかし、度を越してはいけない。大恐慌が起こる可能性もある。もちろん日本も甚大な影響を受ける。

現代は効率を増すための興味深い特化技術がたくさんあり、それがあるから世界全体が以前より少し裕福になっている。それを逆戻りさせると、世界は以前より貧しくなる。トランプが保護主義を強めると、既存の工場や産業クラスターが機能しなくなり、成長しなくなる。トランプがこのままどんどん実行していくと、世界の終わりがやってきてもおかしくない。いずれにしても多くのものが破壊されるだろう。

私が使っているiPhoneは1世代前の型だが、これは20カ国くらいで生産されている部品からできているはずだ。日本で作られている部品もあれば、中国で作られている部品もある。中で使われているレアアースは中国から来ている。

世界貿易を破壊したら、iPhoneをどうやって生産するか、誰かが考えないといけないが、価格は高くなるだろう。新しい職業はできるだろうが、従来の職業で消えるものも出てくるだろう。

トランプは公約通り、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱を発表した。何の準備もなく、地固めもしないで、離脱したことは悪いシグナルだ。委員会を作って、協定を一部改訂する方法はないかなどの手順をふむべきだった。

日本はTPPについてあきらめていないようだが、チャンスはゼロだ。トランプに関してわかっていることは、「見てくれ」がすべてであるということだ。つまりTPPを離脱すると言えばやるということだ。それを止める方法はない。

トランプは選挙時にNAFTA(北米自由貿易協定)は最悪の協定だと言っていたので、これも何とかして再交渉しようとするだろう。とてつもなくショックが大きいが、興味深いことだ。というのも現時点で多くのアメリカの製造業はメキシコとかなり密に統合されているからだ。一つの製品が完成するまでには非常に複雑なネットワークがからんでいる。自動車の部品を例にとっても、エンジンブロックがメキシコで製造され、シャーシがアメリカで作られ、ワイヤリングがメキシコで行われているかもしれない。

そのシステムを崩壊させると、多くのアメリカの製造工場が閉鎖することになり、全アメリカのセクターを大きく破壊させることになる。製造業は全体のほんの一部だ。

人は中国経済の急成長から生じる「チャイナショック」を不安視するが、NAFTAが崩壊すれば「トランプショック」が起きるだろう。NAFTAはもはやアメリカの製造業の構造の中に組み込まれているからだ。

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