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安倍政権の「狂暴化」を示す「何もしなくても捕まる」共謀罪の国会提出

 悪いことをすれば捕まるというのが、これまでの犯罪でした。これからは、悪いことを共謀、つまり、考えたり計画したり相談したり合意したりすれば捕まるという時代になりそうです。

 テロ等準備罪という名前ですが、テロの取り締まりとは無関係です。「狂暴」な人を取り締まる法律なのでは、という誤解もありますが、安倍政権の凶暴化を示す新しい法律だというのが正解でしょう。

 政府は昨日、安倍首相が外遊中で不在であるにもかかわらず、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法案を閣議決定し、国会に提出しました。「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案という名前になっていますが、共謀罪としての本質に変わりありません。

 この法案では2人以上の計画と準備行為の段階で摘発できます。実際に犯罪が実行される以前の段階での処罰です。準備行為とは何かについて明確な定義はなく、捜査当局にどのように解釈されるか分からない心配があります。

 改正法案の目的は国連の組織犯罪防止条約の締結にあるとされています。この条約はマフィアなどの経済的利益を目的にした犯罪を対象としており、イデオロギーや民族、宗教などを背景としたテロを対象にしたものではありません。

 しかし、安倍首相は国会答弁で「東京五輪のために必要な法案だ」という趣旨の発言をしました。五輪招致の演説で、「世界で最も安全だ」と売り込んでいたのは誰だったのでしょうか。

 すでに、日本はテロ対策のために13もの国際条約を締結しており、国内法も整備されています。事実、今世紀に入って日本でのテロ事件は起きていません。

 逆に、テロ防止のためとされている国際組織犯罪防止条約を締結しているアメリカ、イギリス、フランスなどでは、いずれも大きなテロ事件が発生しています。この逆転現象を、安倍首相はどう説明するのでしょうか。

 この法案はテロ防止とは関係なく、この法案が成立しなくても組織犯罪防止条約を締結することは可能だというのが多くの法律関係者の意見です。テロ防止を看板にしたのは国民を騙して共謀罪を新設するための誤魔化しだというべきでしょう。

 実際、「テロ等準備罪」の名前でありながら、条文の中にテロの定義も文字もありませんでした。批判されてからあわてて法案の中に「テロリズム集団」という文字を入れましたが、条文の目的にはテロという言葉は入っていません。

 しかも、この条約を結んでもテロを防止することはできません。テロの根本原因である差別や貧困、格差や憎悪などを解決することができないからです。

 それなのに何故、今になってこのような「心を取り締まる」法案を提出してきたのでしょうか。何もしなくても、目くばせしたりメールが送られてきたりしただけで犯罪に合意したことになり、実際には何も悪いことをしなくても共謀の片棒を担いだことになって捕まってしまう懸念のある法律を。

 取り締まる側の拡大解釈によって内心が取り締まりの対象となり、思想弾圧の手段として用いられるのではないかとの心配もあります。これによって正当な市民活動が委縮し、政治的社会的な運動の自主規制が始まるのではないかという懸念もあります。

 実は、ここにこそ、この法案の真の狙いがあるのではないでしょうか。これまでは不可能であった捜査対象の拡大をちらつかせながら、普通の市民を威嚇して市民活動の足を鈍らせ、運動が発展する前に芽を摘むことができるような取り締まりのための手段を整備することに。

 共謀罪は別名「平成の治安維持法」と呼ばれています。反政府的な思想や運動を取り締まった戦前の悪法の再来という本質を持っているからです。

 再びこのような法律が登場しようとしているのは、反政府的な思想や運動へと発展する可能性のある市民活動が高まってきたらではないでしょうか。派遣村の運動から始まって、脱原発運動、特定秘密保護法案反対運動、安保法制(戦争法)反対運動を経て、昨年の参院選での市民と野党の共闘など、段階を踏んで市民活動は発展を遂げてきました。

 これに待ったをかけ委縮させるための手段として共謀罪のお出ましを願おうとしているのではないでしょうか。国会では与党多数の「一強」体制で、東京五輪やテロ対策を名目にすれば成立させることは可能だと考えたのかもしれません。

 しかし、森友学園にかかわる「アッキード事件」や南スーダンの自衛隊PKOでの日報隠蔽問題などで潮目が変わりました。与党が多数に任せて強行できるような状況ではなくなってきています。

 加えて、法案自体が説得力を持たず、公明党は腰が引けており、金田法相はまともな答弁ができず、都議選を控えていて会期延長や強行採決をやりにくいという4つの弱点を抱えています。強行採決を繰り返してカジノ法案など問題法案の成立を図った昨年の臨時国会とは勝手が違います。

 審議未了・廃案に追い込むことは十分に可能です。反対運動によってどれだけ世論を変え、与党を追い込むことができるかにかかっていると言って良いでしょう。

 この法案は一般市民を対象にしていないと説明されています。ここで言う「一般市民」とは物言わぬ「従順な」市民たちであり、物言う「反抗的な」(と目される)市民たちは除外されています。

 一般市民であっても、「従順」でなくなり「反抗的」に「一変」したとみなされれば、ただちに取り締まりの対象とされるでしょう。「一変」したかどうかは、当局の判断に任されているのです。

 この法律によって、権力者にとって都合の良い「不穏な」ことは考えない市民が増え、政府に楯突けず異論も言いにくい戦前のような「治安維持」社会が実現するかもしれません。そしてそのとき民主主義は死滅し、戦争へのブレーキも失われてしまうのではないでしょうか。まさに戦前がそうであったように……。

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