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アメリカの保護主義トーンに意義あり

G20でアメリカのムニューシン財務長官はアメリカの新しいスタンス、保護貿易について強くそのポジションを主張したようです。メディアのトーンによれば議長国のドイツはやや理解を示したが、他国は反発し、「G20の結束に綻び」(日経)とまで書かれてしまいました。

ムニューシン氏の記者会見のコメント、「米国は貿易赤字を長く抱えており、是正することが重要だ」との発言に私は違和感を感じます。貿易赤字を抱えているから保護主義するという短絡的な発想はムニューシン氏ほどの人物をもって真意ある発言しているとは思えません。

アメリカの2016年度の貿易赤字はざっと5000億ドルで10年前の7600億ドルに比べれば減少傾向にはあります。この貿易赤字の体質は昨日今日に始まったわけではありません。もともとは産油国あての赤字が多かったものが80年代にレーガン大統領の高金利政策でドル高が進み、輸出が伸びず、輸入が増える今のスタイルが生まれました。86年に純債務国に転落し、その後、双子の赤字の一翼を担い続けています。今では金利がこれだけ下がっても日欧に比べればまだ金利は高く、ドルの威光はくすぶっていないということでしょう。

では、アメリカが貿易赤字を解消できなくなった理由はなぜか、といえば大きくは二つあろうかと思います。一つはアメリカが先進国家としてモノづくりから引退したこと、もう一つは基軸通貨ドル覇権を維持するためのコストであると考えています。

まず、アメリカがモノづくり、大量生産で世界に名を売ったのは両大戦間の自動車産業ブームが最後だったと思います。その後、90年代にコンピューターの時代が始まりハードとソフトの融合がアメリカでおき、一時的に多くのアメリカの企業は潤いました。代表的企業がマイクロソフトとIBMでありましょう。他にも10社ぐらいはすぐに名が上がります。但し、アメリカにおけるハードの部門の寿命が異様に短ったのも印象的でした。デルやHPは頑張っていますが、ご承知の通り、IBMはパソコン事業を中国の企業にさっさと売却しました。

何故か、といえばロボット化、IT化が進んだとしても労働集約的性格がある製造業においてアメリカの賃金水準は世界基準からすれば異様に高く、付随費用(不動産や許認可、社会保険料や管理費)も含めれば競合できないとしても過言ではないのです。

また、工場勤務が常に上昇志向のアメリカ人にとって魅力的職種ではなく、枠にはめられた仕事しかできず、規則正しいプロセスを要求される作業は不向きなのでしょう。個人的には現代アメリカ人のメンタリティは工場のような作業にはもともと適性がないと考えています。

ムニューシン氏が保護貿易政策を取ることによってこの貿易赤字が解消できると考えるならばそれは世の流れに反した強硬な政策を推し進めることで力づくの貿易赤字改善をしようとしているにすぎず、そんな小手先の政策はすぐに反動が来るとみています。

二番目にアメリカが基軸通貨ドルの提供国である限りにおいて貿易赤字はやむを得ない代償だという点を考えてみます。

アメリカが基軸通貨の地位を手放さない理由はユダヤの富の源泉だから、とも言われます。嘘か本当かはともかく、かつて多くのアメリカ大統領はドル高を支持せざるを得ない状況にありました。そして自由貿易の世界的拡大は決済手段としてのドルの需要がますます増えるため、ドル発行を促します。が、それに反してドル高政策を取り続けなくてはいけないことで貿易収支は悪化しやすくなります。

よって、アメリカが基軸通貨の地位を円なり通貨バスケットなりにバトンタッチした瞬間にドルの価値は暴落するはずです。言い換えれば「神の見えざる手」により(いや「ユダヤの見えざる手により」というほうが正しいかもしれません)ドルの価値は一定水準を維持できるわけでそのおかげで財政赤字が許されるという双子の赤字のもう一翼を補完しているとも言えないでしょうか?

つまり、ドル高は双子の赤字の生命線とも言えるのです。

とすれば、ドル高さえ維持すれば貿易赤字だろうが財政赤字だろうが困らないという強引なストーリーもなくはないのですが、トランプ大統領が保護貿易により貿易赤字解消をねらうとすればドル基軸通貨をあきらめるのか、基軸通貨を維持した上に貿易収支も改善し、双子の一つをどうにかしたという歴史に残る名前が欲しいのか、もともと両立しないものを駄々をこねてムニューシン氏に無理を言っているのか、この辺りは論理的には説明しにくいところであります。

「トランプ氏が最近おとなしい」と先日のこのブログで書きましたが、支持率も底這いしているようです。経済のトランプのはずですが、バズーカ砲が出てこないどころか、問題山積で容易な展開ではないような気がします。国防費を大幅に増額するとしていますが、経済がうまくいかなければ最後は力の勝負を見せるのもアメリカの常套手段。これではトランプ政権の負けを認めるようなものなんですが、さて、まだそこまで言うには早すぎますのでもう少し様子を見ることとしましょう。

では今日はこのぐらいで。

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