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役所仕事の生産性

役所に生産性や効率という思想があるのか、といえばそういう物差しで測るものではないと返答されるかもしれません。しかし、時として仰々しいとしか思えないこともあります。

豊島区にあったときわ荘を再生させ、マンガ聖地をつくろうという構想が進展しています。区長としては2020年のオリンピックまでにときわ荘を再生させ、文化情報の発信を行いたいという趣旨の事業方針を打ち出しています。約45ページにわたる方針書の中身は立派ですが、一読してこのプロジェクトは失敗するだろうと思っています。

理由の一つは整備検討会議と称して30名もの名前が連なる大所帯になったことが最大の欠点であります。関係各位に声をかけるのは役所仕事のABCなのでしょうけれどモノを決めるには何をしたいのか、初めの第一歩を決めなくてはいけません。ところが利害関係者が多くなれば判断は丸くなり、誰にでも受け入れられるようなつまらないものしか出来上がらないのです。

日本で無数の役所仕事が注目を浴びることがないのはここが間違っているからであります。ではどうすればよいのか、といえば役所は黒子に徹することです。プロジェクトを推進させるため、行政側はスムーザーになればよいのです。何かやりたいのならピンポイントでプロジェクトリーダーを民間から据える、そして鵜飼のように操ればよいと思うのです。

日経ビジネスに「すべる経産省」という特集記事があります。編集長がすべるを「統べる」と「滑る」をかけたと述べていますが、記事は「滑る」に力点が置かれています。私は特集のタイトルを見た瞬間、城山三郎氏の「官僚たちの夏」が引き合いなのだろうな、と思いましたが、実際に記事にそれが指摘されていたのには苦笑いでした。

「官僚たちの夏」の背景は1964年に通産省事務次官になった佐橋滋氏をモデルにしたもので50年代の日本の大躍進時代において役所が民間とともに汗をかいた話であります。たしかテレビドラマでも主演の佐藤浩一氏が汗をかきかき仕事をしていたシーンを覚えています。通産省(現経産省)は正に産業の為の潤滑油だったのです。

今の役所は前に出るようになりました。役所の名の下でプロジェクトを進める、という話です。ところが記事にもあるようにコスト的に実現不可能なロシアのガス田開発とか未来自動車産業の推進策として水素自動車を前面に押し出した失敗などが実例として挙がっています。

今の頭脳明晰なエリート官僚に現場の意味は分からないでしょう。数字だけが作り出す架空の世界で天下分け目の戦いをやっているという民間企業や国民意識とのずれが本当の意味での「すべり」のような気がします。

これほど役所と民間の温度差が出てくると民間は役所への依存度が下がってきます。「お代官様!」と言われるのは下界のことも知らずにというひねくれ解釈すら出来上がってくるでしょう。

外地にいると必ず接点となるのが大使館に領事館。ここには外務省のみならず、様々な省庁からの出向者で一つの組織を作っています。寄せ集めであり、この組織をどうバイタリティ溢れるものにするのかが大使や総領事の能力であります。

かつてある経産省出身の領事と酒を飲んでいたところ、憤懣やるせないという気持ちをぶつけられました。着任早々の新総領事から「当地に日本食レストランが何軒あるか市ごとに調べよ」と指示されたと。「私はこんなくだらない仕事をするために夜遅くまで仕事をしたくない」と愚痴るわけです。「で、どうやって調べたのですか?」と聞けば電話帳を片っ端からめくって一つひとつ拾い出したそうです。

ではこの作業が何のために行われたのかといえば政府が推進する日本酒の輸出を推進するための資料に使われる一数字と化けたのであります。こんな仕事を日本から来た優秀なはずの領事にやらせるのが日本の役人なのです。

私はこの頃から領事館との関係が薄くなっていきます。失望させたのです。私はかつて隠れ領事館員とも言われれ、総領事から「俺の傘、どこにあるか知らない?」と電話がかかってくるほどでしたが、今は名前も知られていないでしょう。

民間がそっぽを向けば役所は何の力も持ち合わせなくなります。多くの日系企業も役所とは「おざなりの付き合い」ですが、その意味は要求こそされど頂いた果実はないという不平等関係だからかもしれません。

ギアがしっかりかみ合ってこそ世の中は動きます。行政は主役にならないのだ、ということを肝に銘じてもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。

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