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「仏教のビン・ラディン」の説法禁止:ロヒンギャ問題の解決か、ミャンマーでの対テロ戦争の激化か

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3月11日、ミャンマーのサンガ・マハ・ナヤカ(高位の仏僧で構成される会議)は、アシン・ウィラトゥ師に一年間、説法を禁じる決定を下しました

1968年生まれのウィラトゥ師は、比較的若いものの、やはり高位の仏僧です。その一方で、ムスリムを「危険」と位置づけロヒンギャ排斥運動の中心人物の一人でもあります。他の宗教に対する不寛容さと、その攻撃的な発言から、イスラーム過激派アル・カイダの創設者になぞらえて、欧米メディアでは「仏教のビン・ラディン」、「ビルマのビン・ラディン」とも呼ばれます。

人口の大半が仏教徒のミャンマーで、ムスリムであるロヒンギャの人々は、差別や迫害を受けてきました。その結果、ロヒンギャ難民は増え続けており、周辺国にも小さくないインパクトをもたらしています

ウィラトゥ師に説法の禁止を命じたサンガ・マハ・ナヤカは、そのメンバーが宗教省によって任命される、政府の監督下にある組織です。つまり、今回の決定は、ロヒンギャ問題をめぐって国際的な批判にさらされてきたミャンマーの政府と宗教界の主流派が、非主流派のヘイトスピーチを規制するものです。これによって、ウィラトゥ師の説法は、いわば「異端」と位置付けられたといえます。

とはいえ、これによってロヒンギャ問題の解決に目処が立つかは不透明です。「本家」ビン・ラディンのケースに照らせば、「正統派」としての認知を公式に拒絶された場合、宗教過激派がかえって急進化することもあります。その点において、宗教過激派はポピュリストと同じといえるでしょう。

ミャンマーの仏教過激派

ロヒンギャ迫害の中心にいるのは、969運動と呼ばれる団体です。そのメンバーの多くは仏僧で、ムスリムの増加に警戒を促し、宗教間の融和を求めるメディアを嫌悪し、さらにビルマ人ナショナリズムを強調する点に特徴があります

そのリーダーであるウィラトゥ師は、ロヒンギャ弾圧を先導するなかで、その認知度を引き上げてきました。

軍事政権時代、軍による少数民族の抑圧はあったものの、政府は民間レベルでの民族・宗派間の争いを厳しく取り締まっていました。実際、ウィラトゥ師は2001年から反イスラーム的な抗議活動を先導し始めましたが、2003年には軍事政権によって25年の懲役刑に処された経緯があります。

しかし、軍事政権が体制転換を決定した2010年、多くの政治犯が釈放されました。そして、そのなかにはウィラトゥ師も含まれていたのです。

独立以来の差別と抑圧を背景に、ロヒンギャの間にはテロ活動に向かう者もあり、RSO(ロヒンギャ連帯機構)など、日本の公安調査庁を含めて、多くの国の情報機関からテロ組織として認定される組織もあります。

この背景のもと、民政移管にともない、政治活動や言論に対する規制が大幅に緩和されるなか、ウィラトゥ師や969運動の活動は、それ以前よりさらに活発化しました。民政移管の翌2012年6月、ラカイン州でモスクが襲撃され、仏教徒とムスリムの大規模な衝突が発生。その直前、ウィラトゥ師はラカイン州に現れ、ムスリムの排除を呼びかけていました。

これに対して、イスラーム過激派からの敵意も増幅しており、2013年7月には、ミャンマー第二の都市マンダレーの仏教寺院で演説していたウィラトゥ師のすぐそばで爆弾が爆発する事件も発生しています。

反イスラーム、反人権、反スー・チー

ウィラトゥ師はロヒンギャ以外のムスリムも危険視しており、体制転換後には、異教徒間の婚姻を制限する法律の制定を求めて、各地でデモを実施。これを受けて、(アウン・サン・スー・チー氏が率いるNLD、国民民主連盟が議会選挙で勝利する直前の)2015年7月、ミャンマーの政府・議会は「人種・宗教保護法」を制定しました。その内容には、ラカイン州に集中的に暮らすロヒンギャを念頭に、「全体のバランスを保つために特定の地域に産児制限を設ける」ことも含まれています。

さらに、ウィラトゥ師は2017年2月、ムスリム(ロヒンギャではない)で、NLDの法律顧問でもある弁護士のウ・コ・ニ氏が銃撃されて殺害された際、それを賞賛しています

これらと連動して、ウィラトゥ師はムスリムやロヒンギャだけでなく、「人権保護」を求める勢力に対しても、攻撃的な姿勢を強めていきました。2015年1月、人種・宗教保護法の導入を目指し、ミャンマー各地で反イスラーム的なデモが行われる状況を、国連の人権査察団が批判。これに対して、ウィラトゥ師は集会で、査察団長のリー氏を「娼婦」と呼び、「お前はただ国連にポストがあるだけで、敬意を払われる対象ではない」と罵りました。そのうえで、外部からの批判を受けてなお人種・宗教保護法を導入したテイン・セイン大統領(当時)を支持する一方、民主主義や人権といった国際的なトレンドに敏感で、テイン・セイン氏や軍隊の影響力を弱めようとする(公式には無役の)スー・チー氏を「女独裁者」と呼びました

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