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新規患者、なお年間20万人 特筆されるべき治療薬の無料配布

いささか時間が経ったが、今年も1月末の世界ハンセン病の日に、ハンセン病の制圧と偏見・差別の撤廃を訴えるグローバルアピールがインド・ニューデリーで発表された。ハンセン病は1981年に開発されたMDT(多剤併用療法)により「治る病気」となり、患者も順調に減少、天然痘と同様、人類が撲滅に成功するのは時間の問題とも見られたが、ここにきてやや足踏み状態にある。

世界の新規患者は年間約20万人。2000年を目途とした「人口1万人当たり患者1人未満」の国レベルでの制圧目標も、ブラジルがなお未達成の状態にあり、ハンセン病と戦う関係者に失礼を承知であえて言えば、ハンセン病の制圧は“なお道半ば”である。

MDTは3つの薬(リファンピシン、ダプソン、クロファジミン)を成人、子供などタイプに応じて半年から1年間、服用することで症状は治癒する。高校時代に見た米映画「ベン・ハ―」には、ハンセン病を患い洞窟で隔離生活をしていた主人公の母と妹が、十字架を背負いゴルゴダの刑場に向かうイエス・キリストに縋ると皮膚に残った障害が消えるシーンがあった。ハンセン病の患者にとってMDTこそ“神の手”である。

これを受け1991年には、WHO(世界保健機関)の全加盟国が出席した世界保健総会で制圧目標が打ち出され、「公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧」を2000年末までに達成すると定めた。1994年には、ベトナム・ハノイで開催された初のハンセン病制圧国際会議で日本財団がMDTの購入費として1995年から5年間、毎年1000万ドルをWHOに拠出する方針を表明、世界でMDTの無料提供態勢が整備された。

2000年以降もノバルティス財団(スイス・バーゼル)がこれを継承し、これまでに世界で1600万人の患者が治癒、1985年当時、制圧目標を上回った122カ国中121ヶ国が2013年までに目標を達成した。

有史以来、ハンセン病が「天刑」、「業病」などと恐れられてきたは理由のひとつが、進行すると皮膚などに深刻な障害を残す点にある。回復した1600万人のうち400万人は何ら身体障害を残すことなく治癒しており、世界のどこでも無料で入手できる態勢を築き上げた日本財団などの貢献は、人類の病との闘いの中で特筆されていい。

しかし視野に入るかに見えたハンセン病の制圧も、ここにきて一つの壁に突き当たっている。制圧目標を未達成の最後の1カ国となったブラジルは、いまだ達成の目途はなく、国レベルで制圧目標を達成した国も、目が届きにくい山岳地域や離島など未開発地域、都市のスラムなどで依然、新たな患者の発生がみられ、インド、ブラジル、インドネシアを中心に毎年20万人前後の新しい患者の発生がWHOに報告されている。

こうした中、2013年、新規登録患者が年間1000人を超える世界17カ国の保健大臣らがタイ・バンコクに集まりハンセン病サミットを開催、新たな目標として「2020年までに“目に見える障害を伴う新規患者”を100万人に1人以下にする」とのバンコク宣言を発表した。

数字の遊びになるが、現在、世界の人口約73億人。1万人に1人に換算すると73万人となり、それだけの患者がいても数の上では制圧目標は達成できる計算になる。100万人に1人となると7300人。「目に見える障害を持つ患者」とは、外見からも障害が進行している状態がはっきりしている患者を指すようだが、毎年20万人の新規患者が見つかっている現状からも、残された後3年で達成するのは至難の業のように思う。

もっとも半年から1年間、治療すれば治癒するMDTの特質から、未把握の患者や新たな患者が順調に見つかり、迅速にMDT治療を開始すれば、達成の道も開けてくる。要は調査が行き届いていない地域で、各国が患者をいかに早期発見していくかがポイントとなる。

この点についてWHOのハンセン病制圧大使として世界を駈け回る笹川陽平・日本財団会長は自らのブログで「1万人に1人未満という制圧目標に向け患者を減らすという至上命令がトラウマとなり、新規患者の発見数が増えることを必ずしも歓迎しない、といったことが起こってきたのではないか」と指摘している。

隠れた患者がどんどん見つかれば数字上は一時的に達成目標をオーバーする事態も起きかねない。そうした事態を恐れるということであろう。1万人に1人未満を達成したことで「あとは自然に減る」といった安心感、「ハンセン病より深刻な疾病がいくつもある」といった事情もあろう。

ハンセン病は治療が遅れると皮膚などに障害を発し、差別を生む。患者は差別を恐れるあまり治療が遅れ、さらに進行した症状が新たな差別を生んできた。ハンセン病との闘いは病気の制圧と患者・回復者、家族に対する偏見・差別の撤廃の両面から進められ、ともに目を見張るほどの成果が出ているが、その意味では、患者の発生がゼロにならない限り、この悪循環は断ち切れない。(了)

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