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米医療保険制度改革の振り返り-オバマケアは、なぜ人気がなかったのか? - 篠原 拓也

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(2)避妊医療の保障義務づけの合憲性 ― 違憲(一部適用除外)
企業が従業員向けに提供する医療保険の保障の一部に、避妊医療を含めることを義務づけている規定について、合憲性が争われた。2014年、連邦最高裁は、これを違憲とし、信仰に基づく経営方針をとる小規模経営や、非公開の企業は、この規定の適用が除外されるとの判断を下した。

(3)連邦運営の健康保険市場での助成金の合法性 ― 合法
連邦が運営する健康保険市場について、助成金を出すことが法令違反だとして訴訟が起こされた。法令規定上、助成金は州が設置した市場に対するものとされており、連邦が運営する健康保険市場に対する明文規定はなかった。2015年、連邦最高裁は、健康保険市場に助成金を出すことの法律趣旨は明らかであり、連邦が運営する場合でも、助成金は法令違反ではないとの判断を下した。

2 (1)~(3)は、それぞれ、“National Federation of Independent Business v. Sebelius”、“Burwell v. Hobby Lobby”、“King v. Burwell”と呼ばれる。

2連邦議会では、廃止法案が可決され、代替案が公表された

連邦議会では、オバマケアの廃止について、審議が繰り返されてきた。

(1)実施時期を巡る予算案不成立
オバマケアの2014年実施に関して、2013年9月に、共和党が多数を占める下院は、実施を1年延期する暫定予算案を可決した。一方、上院(当時は、民主党が多数)は、予定通りの実施とすべく、この暫定予算案を否決した。このため、両院が対立した。両院の調整は進まず、予算案が不成立となることが確定し、10月から2週間以上に渡り政府閉鎖の状態となった3

(2)オバマケア廃止法案の可決と、代替案の公表
2014年11月の中間選挙では共和党が勝利し、上院・下院とも、共和党が多数を占めることとなった。2015年12月に上院、2016年1月に下院で、オバマケア廃止法案が賛成多数で可決された。オバマ大統領(当時)は、拒否権を発動して、廃止法成立を阻止した。

2016年11月の大統領選挙と上院・下院の議員選挙で、オバマケア廃止を掲げた共和党が勝利した。これを受けて、両院で、2017年1月に、オバマケアの撤廃に向けた決議案が可決された。3月6日に、下院の共和党は、オバマケアの代替案を公表した。代替案では、未加入者へのペナルティーをやめる一方、年齢と所得に応じた、新たな税優遇制度を導入して、加入率を高めるなどとされている。

3 2013年10月半ばに期限を迎える連邦政府債務限度額引上げ法案は可決され、連邦政府が債務不履行となる事態は、土壇場で回避された。なお、10月16日に、暫定予算案が両院で可決され、閉鎖は17日に解除された。

3保険会社が相次いで、健康保険市場からの撤退を表明した
2016年に、医療保障を提供する保険会社が、相次いで、健康保険市場からの撤退を表明した4。健康保険市場は、これまで医療保険に加入していなかった人を、保険に加入させるための仕組みである。主な対象は低所得者層であり、保険料プランも比較的安いものが用意されている。それに対して、保険会社の想定よりも、保険給付の支払率が高く、保険収支が赤字となっていた。保険会社には、リスク管理プログラム(後述)が用意されている。しかし、それが十分に機能しなかったため、保険会社は損失を抱えることとなった。こうしたことが、市場からの撤退の背景にあったとされている。

4 大手保険会社では、2016年4月に、ユナイテッドヘルス社が多くの州から撤退。7月には、ヒューマナ社が2017年には主要な州で保険を提供しないことを表明。8月には、エトナ社が、15州のうち損失額の大きい11州から撤退することを発表。

4世論調査では、オバマケアへの不支持が支持を上回って推移してきた
オバマケアについては、各種世論調査が行われてきた。例えば、Gallup社による世論調査の結果を見ると、常態的に、不支持が支持を上回って推移してきた。アメリカの国民には、国民皆保険制度の導入による安心感よりも、保険料や、未加入者へのペナルティーなどの費用の負担感の方が、重く感じられたことがうかがえる。このことが、オバマケアが浸透しなかった根本的な理由と考えられる5

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5 新大統領就任後、オバマケアへの評価が変化しているとの調査結果もある。例えば、2017年2月公表の、Kaiser Family Foundationの調査では、オバマケア賛成48%、反対42%。Pew Research Centerの調査では、支持54%、不支持43%であった。

4――保険制度安定化のためのリスク管理プログラムが不十分であった

オバマケアのリスク管理プログラムは、高齢者や障がい者向けの公的医療保険制度であるメディケアで、処方箋薬剤給付を行う、パートDと呼ばれる保険で導入されているものを範に、設計された。パートDは、2006年に施行された任意加入の保険で、加入率は、2012年に約60%6。パートDについては、保険者や加入者から不満の声はあまり聞かれない。以下、両者の違いを見ていくこととしたい。

1オバマケアでは、3つのリスク管理プログラムが実施されてきた
オバマケアでは、リスク調整、リスク回廊、再保険の、3つのリスク管理プログラム7が実施されてきた。一般に、保険会社にとって、保険収支の大きな変動や、加入者の著しいモラル・リスクの発生は、保険事業の安定した運営にとって、大きなリスクとなる。リスク管理プログラムは、このようなリスクを軽減するために、導入された。以下、簡単に、その内容を見ていこう。

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(1)リスク調整プログラム
皆保険の実施に伴い、導入された恒久的措置。健康状態の悪い人ほど保険加入ニーズが強いという加入者側の逆選択や、健康状態が悪く保険給付が発生しそうな人は加入させたくないという保険会社側のリスク選択を防止するためのもの。具体的には、医療費予測モデルを用いて、自社と市場平均の予測医療費を算定し、保険会社が差額を受け取りまたは支払う。例えば、市場平均の予測医療費が80 の場合、自社の予測医療費が100ならば20を受け取り、60ならば20を支払う。

(2)リスク回廊プログラム
制度改革初期の保険料の安定化を目的とした、2016 年までの時限的措置。所定要件を満たして健康保険市場への参加資格を持つ適格保険プランにつき、割当費用(給付支払額等)が、目標金額(保険料から管理費を控除した額)を3%以上 上回ったら3%以上の差額部分の50%(8%以上 上回った場合、8%以上の差額部分については80%)を、保健福祉省(HHS9)が当該プランに支払う。逆に3%以上 下回ったら、当該プランがHHS に同様の金額を支払う。こうして、プランの損失・利益を制限する。

(3)再保険プログラム
制度改革初期の高額支払に伴う保険料引き上げ防止を目的とした、2016 年までの時限的措置。高額支払が生じた保険会社に対して、再保険での支払いが行われる。これにより保険会社はリスクが減り、低廉な保険料を設定できる。再保険資金は全ての保険会社・自家保険の分担金で賄われ、ACA 遵守の個人保険プランへの支払いに充てられる。ただし、再保険による保障範囲は、年々、縮小されてきた。

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6 「米国の公的医療保険、メディケア(その1)」上野まな美(大和総研, 2014年10月27日)より。
7 3つのプログラムは頭文字がいずれもRであることから、3R'sと呼ばれている。
8 ACAは、The Patient Protection and Affordable Care Act (医療保険制度改革法)の通称。
9 HHSは、United States Department of Health and Human Servicesの略。

2パートDと異なり、リスク管理プログラムが制限的であったことが、オバマケアの不満につながった

オバマケアのリスク管理プログラムは制限的で、保険制度の安定化につながらなかった。

(1)リスク回廊プログラムは、収入保険料の額までに支払いが制限されていた
リスク回廊プログラムは、想定を超える利益や損失を回避し、事後的に保険会社の収支を安定させ、ひいては保険料の安定化を図るはずのものだった。しかし、保険会社の救済の面が濃いとされ、議会の審議過程で修正された。その過程で、初年度はリスク中立を図るとして、保険会社からHHSに支払われた金額までしか、HHSは支払わないとの制約が設けられた。このため実際に、2014年には、法定計算額の12.6%しか支払われなかった。これにより、このプログラムをあてにしていた保険会社が支払不能に陥った。パートDには、このような支払額の制限はない。

(2)時限的措置の、2つのリスク管理プログラムは安定性を欠いていた
リスク回廊プログラムと再保険プログラムは、3年間の時限的措置であり、将来の保険収支が変動するリスクを抱えている。これに対して、パートDは、両プログラムとも、恒久的措置とされている。一般に、新たに保険事業を始めて、収支が安定するまでには、3年を超える長期間が必要と考えられる。3年間の時限的措置では、保険事業の財政不安は払拭できないものと思われる。

(3)保険料率の急上昇を招き、加入者の不満が高まった
保険会社は、毎年保険料率を設定する。オバマケアでは、提示する保険料率が急上昇して、加入者の不満が高まったとされる10。一方、パートDは、保険会社からの給付支払は増加しているものの、リスク管理プログラムが機能して、保険料率の増加は緩やかなものとなっている。この結果、パートDでは、加入者の不満の声は聞かれず、概ね、好評を維持している。

10 HHSの発表によると、連邦運営の健康保険市場を利用する39州の、2017年の保険料(税控除前)は、平均25%上昇するとされている。(“Health Plan Choice and Premiums in the 2017 Health Insurance Marketplace”(HHS, Oct.24, 2016)より)

5――おわりに (私見)

今後の医療保険制度の枠組みは、新政権の取り扱い次第となろう。現在、大統領や議会を中心に、オバマケア見直しの議論が始まっている。オバマケアは人気が高まらなかったが、制度を通じて、無保険者割合が大幅に低下したことも事実である。オバマケアによって医療保険に加入した人が、また無保険の状態に戻ってしまうような見直しでは、低所得者等の医療不安を再燃させる恐れがあり、好ましくない。低所得者等の保障カバーの確保と、医療コストに係る財政の均衡を実現して、医療保険制度の持続性を高めるために、実効性のある政策が求められよう。その際、2014~16年のリスク管理プログラムの取り組みが、教訓として活かされることが望ましい。

今後も、アメリカの医療制度改革の動きに、引き続き、注視が必要と思われる。

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