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音楽ファンを跪かせたiPodがジョブズ最大の“発明”だった

昨日は突然ジョブズの訃報を耳にして、とりあえずジョブズ亡き後のアップルをテーマにビジネスライクな文章を書くことで、自分なりにジョブズへの想いを表現したつもりでした。1日を経て少し違う角度で、ジョブズ=アップルへの個人的な想いを綴ってみたいと思います。

自他共に認めるコアな音楽ファンである私にとって、80年代初頭のSONYウォークマンの登場は、街で自分の音楽を聞くと言う音楽ライフスタイルへの変革を促す第一の大きな出来事でした。当時はカセットにダビングされたレコード音源を持ち歩くという事だけでも画期的なことであり、その後それはCDあるいは MDといったデジタルソフトへと形を変えながらも基本的に同じスタイルで、私の音楽生活の大きな部分を占めていったのです。

ウォークマンにおける再生機と音楽ソフトと言う組み合わせは、レコードプレーヤーとレコードの関係と同じモノであり、それを日本の技術力により小型を成功させた成果と位置付けるとこが出来ると思います。SOYYはそもそもトランジスタラジオの開発で名を馳せ、自宅リビングにドンと鎮座していたラジオというものを家の外に持ち出させ携帯させるというライフスタイル変革を起こした企業であり、ウォークマン・シリーズの開発は基本的にはそれと同じコンセプトの、至って日本的発想がなせる“小型化発明”であったと思います。

それに対してiPodの登場は別の意味で衝撃的でした。「街で自分の好みの音楽を聞く」基本的な考え方はそのままに、いつでもすべての音楽ライブラリーを持ち歩ける、という予想だにしない発想がコアな音楽ファンの心をも鷲掴みにしたと言っていいでしょう。それまでは、カセットにしろ、CDにしろ、MDにしろ、出かける前に自分がその日聞きたい音楽ソフトを選んで持ち出すという作業が必要でした。旅行や出張の際には、自分の聞きたい曲だけを集めたカセットや MDを新たに編集してなるべく持ち出す本数を減らすとか、そんな作業に時間を浪費することもありました(これもけっこう楽しい作業だったりはしたのですが・・・)。

全ての音楽ライブラリーを持ち歩きいつでもどこでも聞くことができる、という音楽ライフスタイルは、中学時代に洋楽を聞きはじめ所有音楽ソフトが膨大な数に膨れ上がっていった私にとって、実現するハズのない長年の夢でもあったのです。しかしコアな洋楽ファンである私は、それだけでは出始めのiPodには飛び付きませんでした。詳しい構造やジョブズの開発コンセプトを知らなかった私は、PCを通して楽曲管理をしなくてはいけないという操作における想像上の煩わしさに、「ははーん、やはりPCメーカーのやることだ。音楽ファンの気持など分かっちゃいない。音楽ファンはもっとアナログな気持ちを大切にして欲しいんだよ」と“見”を決め込んだのでした。

もちろん、アップル=ジョブズのそれまでのPCビジネスにおけるウインドウズとは全く異なるクリエイティブな開発コンセプトに大きな関心を寄せ、どちらかと言えばかなり好意的には見てはいました。しかし、iPodをよく知らない段階ではジョブズのやっていることは音楽ダウンロード・ビジネスも含めて「音楽をIT化する」という“冷血”な印象が強く、「どうせPCオタクの連中が喜ぶPC万能神話の具現化策に過ぎない」と断じ、受け入れよりも拒絶の気持ちが強く出てしまったのでした。

私の思い込みは2007年iPod-touchの登場で見事に覆されました。携帯音楽機器に全画面モニター?初めはなにかと思いましたが、レコード・ジャケット表示では画面で大きなジャケット画像を眺めながら音楽を聞いたり、パラパラとライブラリのジャケットをめくってほくそ笑んだり・・・。さらには、音楽動画を外で見たり、プレイリストで好きな曲だけを簡単にグループ化して再生したり(これはtouch以前からあったのでしょうけど)、ダウンロードしたアプリを使えば歌詞まで表示できたりとか・・・。音楽ファンの痒いところを見事に突いた“ひと肌”を感じる素晴らしい仕掛けの数々でした。従来の携帯音楽機器の常識を打ち破った試みに、完全にノックアウトされたのです。なぜPCを介する必要があったのか、touchの登場でようやく理解できた私は完全に負けでした。PC開発者のジョブズが、なぜここまで音楽ファンの気持を理解した製品が作れたのか、やはり“超人”であったとしか言いようがないのです。

iPodは現在の主力商品iPhone、iPadの原型であり、ジョブズ=アップル最大の発明であったと今でも思っています。それはとりもなおさず、PC メーカーがPCオタク以外のマニアックな音楽ファンをうならせ跪かせた革命的商品であり、PCメーカーがライフスタイル提案企業へと脱皮を世界が認めた瞬間でもあったのです。iPod特にiPod-touchにこそジョブズのパーソナリティのすべてが凝縮されていると思っています。私は現在、iPod- touchのない生活は考えられない状況に至っています。昨日も彼の訃報を彼が開発した彼自身とも言えるiPod-touchで読むにつけ、彼自身が仕組んだライフスタイルに対する最後のパラドクスをプレゼンされているかのような錯覚に陥りました。一生活者として、大好きな音楽を通じて、豊かなライフスタイルを与えてくれたジョブズに感謝してご冥福をお祈りしたいと思います。

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