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ポピュリズムが台頭する現代世界をどう理解するか 『ポピュリズムとは何か』 水島治郎教授インタビュー - 本多カツヒロ(ライター)

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 ヨーロッパでは、以前よりフランスの国民戦線を筆頭にポピュリズム政党の躍進が伝えられてきた。昨年のアメリカ大統領選挙でのトランプ大統領の勝利により、いよいよポピュリズム旋風が世界を覆うのか――。

 現代政治を読み解くキーワードとも言える「ポピュリズム」について、『ポピュリズムとは何か-民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書、2016年)を上梓した千葉大学法政経学部の水島治郎教授にポピュリズムの特徴、そしてトランプ大統領、ヨーロッパ各国でのポピュリズムの現状などについて話を聞いた。

――ポピュリズムは既成の政党政治と比べると、どんなところが特徴的なのでしょうか?

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『ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か』
(水島治郎 著、中央公論新社)

水島:まず既存の政治は、支持層、支持層が加入している団体、そしてその団体が支持する政党という3層構造で成り立っていました。例えば、かつての日本では、農業組合や労働組合、中小企業団体といった組織があり、人々はそれらに属していました。その組織が政治家を推薦したり、政党を支援するという構造でした。しかし、近年、既成政党の弱体化が顕著です。これまでのように、例えば労働組合に依存している社会民主主義政党が、選挙で4割の票を得ることが出来れば、ポピュリズム政党に入り込む余地はありません。ところが、現在は右派も左派も支持基盤が弱体化しています。これはヨーロッパでも日本でも同じ状況です。

 これに加え、労働組合への加入率や活動の活発さなどを見ても、かつての政党の支持基盤であった20世紀型の団体は活動が低下しています。そのため、ある政党が特定の団体の支持を得たからと言って、選挙で勝利を得られるとは限りません。

 それに対し、ポピュリズムはこうした団体をバイパスします。有権者と直接的にコミュニケーションを図り、既成政党や既成団体に対する違和感やそこから漏れてしまった人たちを上手くすくい上げるため、ポピュリズム政党へは支持が集まりやすい。

 つまり、サイレントマジョリティといった既成政治からもれてしまった人民を中心に据え、党の指導者自らが人民を直接代表していることを主張します。

 例えば、ポピュリズム政党は国民投票や国民発案を主張する傾向が強い。事実、オーストリア自由党は国民投票を広く導入するなどの主張を、フランスの国民戦線は国民投票などを通じた国民の意志の反映を主張しています。

 国民投票は、国民の総意による民意をどう表すか、という時に究極の手段でもあるわけです。ポピュリズムとデモクラシーが重なる面と言えます。だからこそ、ポピュリズムは反民主主義とは一概には言えません。まず、その点が既成政党との大きな違いです。

――他には何がありますか?

水島:一番重要なことは、ポピュリズムは伝統的な右派や左派ではなく「下」からの政治運動であるという点です。つまり、既存のエリートやエスタブリッシュメントへの「下」からの強い反発です。

 この「下」からの強い反発は、先進国では「エリートは難民や移民に寛容だ」「マイノリティと結託したリベラルなエリートこそが我が国を衰退させている」という意識につながっていく。だからこそ「支配しているエリートから国を奪い返す」という主張と、反移民の主張とがつながるのです。

 また、「下」からの反発や、既成政党の弱体化だけでなく、エリート層やエスタブリッシュメントが推し進めるグローバル化やヨーロッパ統合による産業構造の空洞化などの「痛み」を押し付けられ、自分たちは見捨てられていると感じる人々の存在、さらに職はあるけれどもこうした変化や移民に対する違和感を抱いている人々の存在も大きいのです。

 例えば、イギリスのEU離脱キャンペーンの中心人物であるファラージが党首を務めたイギリス独立党の躍進を支えていると指摘されるのが「置き去りにされた」人々の存在です。彼らは端的に言えば、低学歴の白人労働者階級で、現在の高学歴で専門職に従事していることの多い若者との間に社会的分断がありました。

 同じくアメリカ大統領選挙においても、トランプに投票した人の大部分は従来の共和党支持層だったとはいえ、今回、中西部から北東部へ広がる旧工業地帯であるラストべルトと呼ばれる地域に住む人々が大統領選の勝利の鍵を握っていました。

 イギリスでもアメリカでも第2次産業から第3次産業への産業構造の転換に乗り切れず、衰退した地域の人たちがポピュリズムの支持にまわっているのです。

――トランプ大統領は、世間ではポピュリストと評されています。しかし、2大政党が圧倒的なアメリカにおいて、新にポピュリズム政党を結党し出馬したわけではなく、共和党選出です。彼はポピュリストと見て良いのでしょうか?

水島:トランプ大統領は、ポピュリストであると思いますね。

 確かに、ヨーロッパのポピュリズム政党である国民戦線を率いるマリーヌ・ルペンや、オランダ自由党を率いるウィルデルス党首のように、自らがポピュリズム政党のリーダーとして一世を風靡しているわけではありませんし、既成政党を打ち破り、大統領になったわけでもありません。

 ただ、アメリカの場合、2大政党に比べ、第3党が力を持ちづらい状況がありますし、ヨーロッパや日本とは政党組織が違います。端的に言えば、アメリカでは党員は党費を払って党活動を行う意識の高いメンバーではなく、政党そのものが日本やヨーロッパほどガッチリとした組織ではないんです。だからこそ、アメリカの2大政党には柔軟性や幅広さがあり、150年間の長きに渡って2大政党制を維持できた。こうした緩やかな構造の政党である場合、ポピュリズム的な動きは党外よりも、党内から出てくる傾向が強いんです。そう考えると、トランプ大統領が共和党の大統領候補として出てきたこと自体はポピュリズムに反するものではありません。

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