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博報堂もGoogleもやめて起業した理由~freee佐々木大輔氏

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村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影

個人事業主や中小企業を中心に、急速に利用する企業が増えているクラウド会計ソフト。人工知能が勘定項目を分類し、帳簿を自動作成。わずらわしい作業が自動化されることで、経理作業が大幅に軽減されるという。

クラウド会計サービス「freee」(フリー、https://www.freee.co.jp/)の佐々木大輔代表は、東京出身の38歳。開成中学・高校から一橋大学商学部へ進み、博報堂、Googleを経てfreeeを創業した。一般の会計ソフトに比べ、クラウド会計ソフトは何がメリットなのか。Googleでクラウド会計を事業化しなかった理由は? 佐々木氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。

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留学先のスウェーデンはカード社会だった

【田原】経歴を拝見しました。大学時代にスウェーデンに留学されていますね。どうしてアメリカじゃなくてスウェーデンに?

【佐々木】大学4年生のときに交換留学プログラムで行きました。スウェーデンを選んだのは、倍率が一番低かったから。受かりやすいというのもありましたが、他の人がやらないことを経験してみたいなと思いまして。

【田原】スウェーデンで何か発見はありましたか。

【佐々木】2つありました。じつはスウェーデンはクレジットカード浸透率が世界一の国。僕がいた15年前でも、支払いはほぼカード。財布を持っていると、「どうしてそんなにカッコ悪いものを持ってるの? ポケットにカード一枚入れておけばいいのに」と言われました。それを聞いてすごく合理的だなと。いま僕たちが提供している会計ソフトのサービスは、カードで支払うと経理の業務が圧倒的に早くなります。こうしたサービスを発想したのも、当時の経験があったからかもしれません。

【田原】もう一つは?

【佐々木】留学したのはEU統合の直後。それを目の当たりにしたので、何か国ってすごく小さい概念だなと思うようになりました。

【田原】帰国して、インタースコープ(現マクロミル)という会社でインターンシップをやった。

【佐々木】インターンは留学に行く前からやっていました。大学3年生のときにデータサイエンスの勉強を始めたので、実際にデータを解析する仕事をやってみたいなと。

【田原】そこは何をする会社ですか。

【佐々木】アンケート調査をしてデータを分析する会社です。たとえばクルマを買う人にどういう購入パターンがあるのかを調べたり、売り上げが伸びていない商品のコンセプトをどう変えれば伸びる可能性があるのかを調べたり。お客さんに合わせて、消費者心理をデータサイエンスで分析する仕事です。

データサイエンスとマーケティングリサーチ

【田原】そもそもデータサイエンスに興味を持ったのはどうしてですか。

【佐々木】ミクロ経済学の授業でギャンブルをする人はなぜするのかというテーマがあって、効用曲線を使えば合理的に説明でききるということを知りました。そのときに人の行動を何かしらのモデルで説明しようとする試みって、すごくおもしろいなと思いまして。それを突き詰めたければ、データサイエンスの勉強とか、それこそマーケットリサーチの仕事がいいんじゃないかと。

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freee代表 佐々木大輔氏

【田原】具体的にインターンシップ中に佐々木さんはどんな案件をやったのですか。

【佐々木】印象に残っているのは値付けの分析ツールをつくったことです。消費者にとって値段が高いことは必ずしも悪いことではなく、高いから買うという行動も起こります。高級路線の商品は高いイメージをある程度持ってもらうことも必要で、それがいくらなら合理的なのかを分析するツールをつくりました。そのツールはマクロミルでいまでも主要商品として使われていると聞きます。

【田原】やってみておもしろかったですか? 何日も泊り込みで働いたらしいですが。

【佐々木】はい。当時、大学で学んだデータサイエンスの知識をバックグラウンドにしてアンケート調査の分析をしている人はいませんでした。それをやることによって、世の中に必要とされている価値を出せることがすごくうれしくて。普通、学生だとまわりも自分も「若いからこんなものかな」と制限をかけるじゃないですか。しかし、あの会社では何の制限もなく仕事を任せてもらえた。自分が認められているという実感があって、おもしろくて仕方がなかったです。

【田原】でも、過去のインタビューと読むと、逆に退屈極まりなかったとも答えてますね。これはどういうこと?

【佐々木】データを分析するまでの間の行程が長すぎたのです。当時は回答結果がメールで送られてきて、それを手作業で整理しなくてはいけませんでした。日によっては、その作業に丸一日かかる。これは何とかしたいなと思って、自分でプログラムをつくって自働化しました。自働化したら、一日かかっていた作業が20~30分で終わるように。そのぶん分析の仕事に時間を割くことができました。

【田原】自動化って簡単にできるの?

【佐々木】簡単ではないです。ただ、プログラミングを知らない学生が勉強して取り組むにはちょうどいいお題だったかもしれません。数週間みっちり勉強して、試行錯誤しながらつくっていて、3ヶ月くらいで完成しました。その間、他の仕事は一切やらないから、このプログラムだけやらせてくれと会社にお願いして。

【田原】それはすごい。でも、佐々木さんが3ヵ月で自動化できたことを、何で日本の会社はどこもやろうとしなかったんだろう。

【佐々木】たぶん、その作業をしているド真ん中の人達は気付かないのだと思います。後でお話しますが、僕はベンチャー企業のCFOをしていたことがあります。このとき経理の人が入力作業を一日中やっていて、自動化すれば楽なのにと思いました。でも、経理担当の人はその状況に慣れていて習慣になっているから、おかしいことに気づかないんですよね。アンケート調査の集計も同じ。僕はインターンで入ったからフレッシュな気持ちで「こんな作業やりたくない。どうにかならないの?」と疑問を抱けましたが、最初から中に浸かっていたら何も気づかなかったんじゃないかと。

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博報堂から投資ファンドへ

【田原】大学卒業後は博報堂に入社された。インターンシップですごい合理化までしたのに、なぜですか。広告代理店なんてつまらないしょう。

【佐々木】おっしゃるとおりで(笑)。じつはインターンシップのときの一番大きな取引先が博報堂でした。インターンシップがおもしろかったので、お金を出している先ではもつともっとすごいことが起きているんじゃないかと考えて入社しました。でも、入ってみるとそうでもなかった。高速道路から一般道に下りるとぜんぶ止まったように見えるじゃないですか。博報堂でもそんな気分になりました。

【田原】博報堂でどんな仕事をやったんですか。

【佐々木】インターン時代と似ています。マーケティングの調査をして、こういう戦略を採るべきじゃないかという提案をする仕事です。唯一、自分が価値を発揮できた仕事は、消費者金融の案件。消費者金融の広告は規制があって、テレビ広告では決まりきったことしか言えません。そこで他社と差別化できないとしたら、店舗のほうが重要なのではないか。そう仮説を立てて、調査員を何十人も使って東京都中の店舗を調査しました。たとえばお店はきれいかとか、看板はどうかといったことと来店者数の関係を調べたのです。これは自分らしい仕事ができたかなと。

【田原】博報堂の後はどうしたんですか。

【佐々木】2年半いて、投資ファンドに転職しました。広告代理店で、これだけ広告するといくら儲かるのかとよく聞かれました。それに対して、僕はしっかり答えを持てていなかった。これからの時代、これは答えなきゃいけない質問です。投資の仕事をしてみたら、その答えを持てるんじゃないかと考えたのが転職のきっかけです。

【田原】さらにその後にベンチャー企業にCFOとして転職する。先ほど言っていた会社ですね。

【佐々木】インターン時代の仲間が立ち上げた会社でした。この商品を買った人はこれも買っていますというようにお客さんに推薦をする機能をレコメンドといいますが、それを小さなEコマースのサイトにでも簡単に使えるようにする事業でした。当時は20人くらいの小さな会社で、ベンチャーキャピタルからお金を集めるというところから手伝っていました。在籍していたのは1年半くらいです。

【田原】その後、Googleに転職する。日本のGoogleですか。

【佐々木】場所は日本です。ただ、上司は本社の人間だったので、組織図的には本社と直接やっていました。

【田原】どうしてGoogleに転職したのですか。

【佐々木】ベンチャーでCFOをやっていた当時、日本のIT業界は一流の人が集まってる業界ではないという負い目があったんですよね。なんというか、才能はあるけど、あぶれもの者が集まっているというイメージです。でも、Googleは違って、世界中から英知が集まっている新しいものをつくっているという。それがどのような世界なのか、知ってみたくて。

【田原】数年前、Googleに取材に行きました。創業者のセルゲイ・ブリンは、トップなのにまだスタンフォードに通っていた。Googleは会社なんだか、大学なんかよくわからなくておもしろかった。

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田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。


【佐々木】まさにおっしゃるとおりで。Googleではまず本社のデータ分析のチームに入って3カ月やったのですが、まわりは博士号を持っている人ばかり。そんな会社があるんだと驚きました。

【田原】Googleでは、どのようなお仕事を?

【佐々木】中小企業向けのマーケティングです。Googleで広告を出す中小企業を増やすことがミッション。日本でそれをやり始めて、そのあとはアジア地域全体の中小企業向けマーケティングの責任者をやっていました。

日本の中小企業のテクノロジー活用度は先進国の中でダントツ低い

【田原】Googleを辞めて、クラウド型会計のfreeeをおつくりになる。会計のサービスをやろうと考えたのはいつごろですか。

【佐々木】発想はベンチャー企業で経理も見ていたときです。経理業務の効率の悪さを分析すると、ボトルネックは会計ソフトでした。会計ソフトが登場したのはいまから約30年前ですが、そこからまったく進化していなくて、あいかわらず手作業で仕分け仕訳をしてパソコンに入力している。これを自働化すれば楽なのに、とずっと思っていました。それに、こうした経理のわずらわしさがあるから起業したい人も躊躇してしまう。この問題を解決すれば、起業する人も増えるだろうと。

【田原】そこにビジネスチャンスがあると思ったわけね。

【佐々木】ビジネスになるし、価値を提供できるなと。経理の仕事が簡単になったら、みなさんもっと創造的なことに時間を使えるようになるじゃないですか。そもそも日本の中小企業は、テクロノジーの活用度が先進国の中でダントツに低いんです。たとえば連絡もメールやメッセンジャーじゃなくて、いまだに電話やFAXというところが少なくありません。この意識を変えるのに、会計ソフトはいいきっかけになりまずす。ややこしい経理ですらインターネットでこんなに簡単になるのなら、他のことはもっと簡単にできると感じてもらえるはず。そう考えて起業しました。

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