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物理学者・早野龍五が福島で示した光――研究者として福島に向き合うということ / 服部美咲 / フリーライター

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廃炉の現状を自分の言葉で語る

2015年の夏、福島第一原発構内を視察した早野さんは、廃炉のために日夜働く作業員の子供たちが、親の働く姿を一度も見ていない状況に気づいた。自らの言葉で自らの置かれた状況を語ることは、作業員の子供たちにとって重要だと考えたが、東京電力で働く人の子供が最初に原発構内に入ることに東京電力は難色を示した。

そこで早野さんは、翌2016年夏に予定されていた世界の高校生が訪れる福島視察旅行の際に、原発構内視察を組み込むことを提案した。しかし、当時東京電力の規定では、18歳未満が原発構内に入ることを禁止しており、1年にわたる交渉が行われたものの、2016年夏の視察旅行で原発構内を視察することはできなかった。それでも早野さんはあきらめずに交渉を続け、ついに18歳未満の原発構内視察の了承をとることに成功した。

福島高校生を伴って原発構内視察をすることが決まった後、早野さんが最も懸念したのは、世間の批判が福島高校生に集まることだった。視察に連れていくことに同意し、サインした保護者が批判を受けるリスクも考えた。まずは、後で扇情的に書きたてられる危険を避けるため、ことの経緯と生徒たちの思いを理解し報道するメディアを連れていくことを考えた。

また、「テレビカメラは残酷で、大人に言わされている言葉は、映像で見るとはっきりそれとわかる。全て生徒たち自身が学び、考えなければならない」と言い、生徒たちが自らの考えを自らの言葉で答えられるように、事前学習を徹底した。結果、学校や教育委員会に後日の非難はほとんど寄せられなかったという。

視察当日、高校1年生が石崎芳行・東電福島復興本社代表の隣に座り、およそ4時間にわたって次々に鋭い質問を繰り出す様子を見て、「この子たちは本当に自分自身で真剣に学ぼうとしている」と感じた。「この学びが将来直接役立つと期待しているのではなく、この年代の子供がたとえ地位のある大人とであっても、対等に対峙することによる教育効果は高い」と早野さんは言う。福島高校の生徒が後日福島第一原発構内視察についてまとめた報告のレベルも十分に高く、今後避けては通れない廃炉の問題についても、福島高校生は自分の言葉で現状を説明できることが証明されたと感じた。

最終講義に向けて

内部被曝の問題に、より効率的で効果的なデータ収集というこれまで慣れ親しんだ物理学研究者としての手法を使って臨んだ早野さんは、福島で臨床医と共に活動を重ねることによって、臨床研究者に近い手法で続く外部被曝の問題や住民の不安解消という課題に取り組むようになった。やがて、その視点はさらに未来に向けられ、やがて県外に出ていく子供たちの教育に今なお挑んでいる。

6年を通して、早野さんは一人の研究者として福島に向き合い続けた。来たる3月15日の最終講義では、原子物理学から福島での活動に至る早野さんの研究者としての姿を、国内外の物理学者と福島の住民が初めて並んで目撃することになるだろう。



リンク先を見る服部美咲(はっとり・みさき)
フリーライター
1983年生まれ。慶応義塾大学卒。ITベンチャー企業、地方団体勤務を経て、現在フリーライター。東北復興新聞、先端医療・工学メディア、官公庁広報など複数メディアで活動する。取材分野は地方創生、ワークスタイル、医療、工学など。

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