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TPP参加でアメリカの医療保険会社が我が国の医療に乱入し、国民皆保険制度と日本人の健康が崩壊する

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 保険が使える診療と、使えない自由診療を併用する「混合診療」をめぐる訴訟で、最高裁が11月1日、初の判断を示しました。

 実はうちの父親も今ガンと闘っているのですが、ガンに限らず、保険診療で効果がなく、わらにもすがる思いで未承認の薬や治療法を求める重症患者は多いのです。

 この裁判の原告の男性は腎臓がんを患い、未承認の薬を併用した結果、保険が適用されると月6万〜7万円のインターフェロン療法が、全額自己負担となり約25万円にも上ったということです。

 一審、二審と判断が分かれてきたのは、健康保険法に禁止する明確な規定がなく、厚労省が解釈で済ませてきたからです。そこで、最高裁の5人の裁判官のうち4人が、個別意見で法の仕組みに疑問を呈しました。

そもそも健康保険法には、混合診療を禁じる明文規定はありません。ただ1984年の同法改正以降、「例外」が拡大。現在は「保険外併用療養費」として、インプラント義歯やがん陽子線治療など128種類の「先進医療」や治験など「評価療養」の7分野と、差額ベッド代など特別な医療サービスの「選定療養」の10分野で、事実上広く混合診療が認められています。

 つまり、制度と現実の隔たりを例外で補い、下のような例外があるから逆に「混合診療を原則禁止していると解釈できる」(判決)と推認されるわけです。

 混合診療とみなされると、すべての診療が全額自己負担となるのも杓子定規と言えるでしょう。今後も、もうすこし柔軟な法改正の検討は必要です。

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しかし、医療の安全性の確保や薬害の防止という国民皆保険制度の理念からも、やみくもに診療の規制を緩めていいとは言えないのです。

 判決で、最高裁は、混合診療を禁止している厚生労働省の姿勢を適法だとしました。

「医療の安全性や財源の制約を考えれば、保険の範囲を制限するのはやむをえない」との理由から、最高裁は混合診療の原則禁止を以下の判決骨子のように適法としたのです。

 混合診療を幅広く認めれば、多額の金がなければ受けられない自由診療の比率が増えてゆく可能性があるからです。経済力による医療格差がさらに広がるようなことがあってはならないということなのです。
 
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 混合診療自由化の要求は財界から、医療への株式会社参入の目論見と軌を一にしてすでに出てきていたものです。自民党の小泉内閣が作った規制改革・民間開放推進会議が、「第一次答申」(2004年12月24日)で混合診療の解禁と株式会社等の医療経営への参入を求めました。

 同会議の議長は、宮内義彦オリックス会長で、オリックスグループは、傘下に生命保険会社を抱え、「入院保険fit(フィット)」を販売しています。フィットは、「一生涯の入院保障」を掲げ、「業界初、60歳以降、入院保障が3倍に拡大!」を売りにしてきた商品でした。

 簡易保険契約者とかんぽの宿を狙った宮内規制緩和と同根とは、混合診療自由化要求のお里が知れる、といったところでしょうか。

医療を営利企業にとって魅力ある市場に変えるには、どうしても現在は禁止されている混合診療の全面解禁が必要になります。混合診療の全面解禁というのは、保険診療と自由診療の組み合わせを医療機関の判断で任意に自由にやっても良いということを意味します。

 自由診療を受けることが出来るのは富裕層だけです。株式会社の病院は、患者に合わせて医療の価格を自由に決定できるようになり、保険診療より利益を上げられます。

 したがって、財界の混合診療全面解禁と株式会社参入はワンセットの要求なのです。

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株式会社が医療へ参入することで問題になることとして、日本医師会は、(1)医療の質の低下、(2)不採算部門等からの撤退、(3)公的医療保険範囲の縮小、(4)患者の選別、(5)患者負担の拡大――を挙げています。

 介護保険が導入されたとき、全国的に展開した会社が、不採算地域からはすぐに撤退した事例からも明白なように、営利企業が医療に参入した場合には、不採算地域、不採算診療科の医療は当然やりません。

 つまり、普通の患者さんや地域が必要とする医療を提供することをしませんから、地域医療は守られず、地域住民が安心して暮らしていけなくなります。

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さて、ここで環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の問題が出てきます。日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3団体は、11月2日、TPPの交渉参加について「国民皆保険が維持されないならば参加は認められない」として、公的医療保険にはTPPのルールを適用しないよう政府に求める共同声明を発表しました。

 TPPの問題は、伝統的な自民党支持の圧力団体である農協や医師会が反対しているのが、私にはやりにくいところです(笑)。

その日本医師会などの最も大きな大きな懸念が混合診療の全面解禁です。それがひいては、下の図に見るような公的医療保険の安全性の低下、株式会社の医療機関経営への参入による患者の不利益の拡大などの懸念と関連しています。

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TPPでは、韓国が米国と結んだFTA(自由貿易協定)とは異なり、「2015年度までに農作物、工業製品、サービスなどすべての商品について、例外なしに関税その他の貿易障壁を撤廃する」ことが目標とされています。

 この医療に及ぼすTPPの影響についてストレートに関係づけて論じることは現時点では困難といえます。しかしTPPによって株式会社参入、混合診療の全面解禁、皆保険制度の弱体化の呼び水になることは確かであり、日本医師会のTPPに対する懸念に正当性があると思います。

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