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小金井刺傷事件、被害者に「脇甘すぎ」と無神経な二次加害が炎上 - 網尾歩

 小金井刺傷事件の判決が出た2月28日。被害者に対して「脇甘すぎ」などと書いたアニメーション監督のブログが炎上した。

無神経な二次加害に批判殺到

 ファンの男がシンガーソングライターの女性にSNS上でしつこくつきまとった挙句、刃物で襲い、大けがを負わせた小金井刺傷事件。2月28日に東京地裁で懲役14年6カ月の判決が言い渡された。

 ストーカー規制法の改正にもつながったこの事件に関心を持った人は多く、判決の是非についてネット上でも多くの意見を見かけた。犯人に対する怒りを書き綴るコメントが圧倒的だった中で、被害者に対して「脇甘すぎ」などと、その「落ち度」を書き立てたブログが炎上した。アニメーション監督のY氏のブログだ。

 Y氏は「トラブルシューティング」(現在削除済み)と題したブログで、「被告が許される余地は微塵もない。こんな輩、一生社会に出てこなくていい」と書いた後、こう続けた。

「だけどね、被害者の女子大生に落ち度がなかったかと言えば、ちょっと異論がある」
「こっち関係の知り合いと話すとね、必ず言うのです。『脇甘すぎ』と」
「まず、アイドル活動(に近い活動)をしている人間が、迂闊にファンをブロックしてはダメです」
「あと、プレゼントを突き返すのも、当てつけに思われてもしょうがないです」

 “こっち関係”とは、恐らくマスコミや芸能関係の“業界内”という意味だろう。その後、事務所がなぜうまく間に入らなかったのかと書き、

「僕みたいに、いつ襲われてもかかってこいや、こっちだって武器を持って応戦してやるぜ!みたいな姿勢なら、どれだけ強硬な態度を取っても構いません」
「ただこの子は、どうもそういうトラブルシューティングなしに、覚悟なしに、持って生まれた気の強さだけで、ことを悪化させてしまった可能性は、あると思うのです」
「女性の意見陳述を見てもね、どうしても思ってしまいました。相当気のキツい子なんだなぁ、と」

 と続けた。ツイッター上で批判が殺到し、Y氏はその後、批判に反論する投稿を複数行い、元記事は削除している。批判の内容は主に、「ストーカーとかレイプ被害者に落ち度があるという言説はセカンドレイプになるし、完全な自衛は無理ということを義務教育で教えるべきでは」「あのさぁ、何で加害者と被害者を天秤にかけて釣り合わせないといけないの?」というツイッター上のコメントに集約されるだろう。どんな理由があれ、被害者の落ち度を問うのは二次加害(セカンドレイプ)となる。

犯人は「要らないのなら返して」とツイートしていた

 また、この件で必ず言っておかなければならないのは、すでにネット上でも指摘されていることだが、Y氏がこのニュースに関しての報道をよく知らないのではないかという点だ。

 本欄では事件発生後にこの件を取り上げている。(過去記事:ファンによる女性刺傷事件 ネット上に残された加害者の「試し行動」

 この過去記事でも書いたことだが、加害者は被害者に対し、「(贈ったプレゼントを)要らないのなら返して。それは僕の『心』だ」とツイートを送ったり、なぜ自分を未だにブロックしないのかと問いかけたりしていた。また、被害者は警察に相談した際に「使っているSNSから犯人のアカウントをブロックしてください」とアドバイスを受けたことを、代理人を通じて発表した手記で明かしている。

 Y氏は「迂闊にファンをブロックしてはダメです」と書くが、これは本来、そのまま警察に向けて言われるべき言葉だろう。ブロックは警察が指示したのだから。それとも、警察に言われたとしてもそれを無視するほどの自主判断が必要だったと言いたいのだろうか。

 プレゼントについても、被害者は加害者から「返して」と言われたから返したと見るのが妥当だろう。SNSで執拗につきまとってくる男性からそう言われて送り返すのは、「当てつけ」であり、「落ち度」なのだろうか? もし返さなかったとしても、加害者は「無視するな」と激高していたのではないかと思うのだが。

 裁判や判決を伝えた報道の中には、被害者が警察からアドバイスを受けていたことや加害者が被害者に送り付けていたツイートの詳細を省き、被害者がブロックしたり、プレゼントを返したことのみを伝えているものもあった。こういった報道については、ネット上でたやすく二次加害が行われやすい現状において、報道側が慎重にならなければいけない点だと感じる。ネットニュースの匿名コメント欄だけではなく、Y氏のような著名人ですら、被害者に対して二次加害を加えることがあるからだ。

 とはいえ前段でも述べた通り、たとえどんな理由があったとしても、被害者の落ち度を多くの人の前で言い立てるのは二次加害だ。インターネット上の文章は全世界に開かれている。被害者自身や、その家族、関係者がその文章を目にすることは充分にあり得る。

女性を「気のキツい子」と表現するY氏の理不尽

 さてこの件についてはもう一つ言いたいことがある。

 たとえ警察のアドバイスがなく、被害者から加害者をブロックしていた場合。もしくは「プレゼントを返して」と言われていないのに送り返していた場合。それは「気の強さ」と表現されるものなのだろうか。

 彼女の意見陳述を読んで筆者は全くそのように思わなかったが、Y氏はここからも「気のキツい子」と感じたという。

 執拗にSNS上で粘着され、恨み言を一方的にぶつけられる精神的苦痛。それをブロックすることが「気の強さ」だろうか?  結果的に刃物で刺されて重傷を負い、裁判でその悔しさを述べることが「気のキツい子」と言われなくてはいけないのだろうか? あまりにも理不尽ではないか。

 「気が強い」という言葉が男性に対して使われることは少ない。これは女性に対してネガティブな意味を込めて使われることが多い表現だ。ここにそもそも性差を感じるが、さらに、このような件で女性に対して「気の強さ」という表現を使うY氏の女性観、ジェンダー観に危ういものを感じる。

 Y氏は「気のキツさを責めている訳ではありません、ならばそれを貫く覚悟と、トラブルシューティングがちゃんとできていたのか?というところだけが、どうしても疑問です」と書いているのだが、要は、自分の「気のキツさ」がどういった災禍をもたらすかを考えていたのかと言いたいのだろう。

 たとえばこれが被害者と加害者の性別が逆だった場合に、Y氏は同じことを言っただろうか。刺されたのが男性で、ストーカー行為をしたのが女性だった場合だ。女性ファンをブロックする男性シンガーのことを、Y氏は「気が強い」と表現しただろうか? 刺されたことを、気のキツさを貫く覚悟とトラブルシューティングができていなかったからだと言っただろうか。

 恐らく言わないだろう。Y氏は、“男性”に連れない態度を取った(とY氏が感じた)“女性”だから、「気が強い」という言葉を使ったのだ。

自分を特権階級だと思っている人たち

 筆者がY氏の発言から感じるのは、「たとえ何をされたとしても男に反撃する女は気が強い」「その気の強さにはリスクがあって当然だ」といった意識だ。女は男に反撃すること自体にリスクがあるのだから、そうするべきではない。反撃して何かあったとしたらそれは本人の落ち度。こういった考え方が女性蔑視でなくて何なのだろう。女に生まれたなら男の機嫌を伺いながら生きていけ、さもなければ殺されると言っているのだ。

 Y氏はブログが炎上した後に投稿した「判官びいき」というエントリーでは、

「たとえば僕がネットでアンチを散々煽ったとして、それで刺されたらみんな「ざまぁみろ」って言うんでしょ? 同情はどれだけ来るの? 結局それが君らの勝手な気分、機嫌なんでしょ?」

 と書き綴る。

 この事件の被害者は加害者のことを「散々煽っ」てはいないのだから、こういうたとえ話で自分を被害者と同列のように語るのは完全に間違っている。

 ただ、Y氏の頭の中では、自分が「ネットで絡んできたアンチを散々煽る」行為と、執拗に粘着された被害者がやむにやまれず加害者を1回ブロックした行為が、同じようなものに思えているのだろう。

 ネット上ではときどき、自分から相手を攻撃しておきながら、反撃されると「人にそんなことを言って失礼だと思わないのか」と驚愕の逆ギレをするユーザーを見かける。自分がするのはいいが、相手から同じことをされるのは我慢ならないのだろう。さらに言えば、自分の言葉がどれだけ人に打撃を与えているかがわからず、相手から自分への攻撃は過剰に感じるのだろう。無自覚に自分を特権階級だと思っている人たち。あまり関わりたくない人たちである。

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