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トランプ政権は貧困層や障害者に致命的な打撃を加えるのか?――日本人の知らないアメリカの「共助」を探る / 三輪佳子氏インタビュー

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トランプ政権下で低所得層と障害者の暮らしはどうなるか?

――トランプ政権下で低所得層と障害者の暮らしがどうなるか、今後2年間かけて現地で調査研究するプロジェクト(https://camp-fire.jp/projects/view/22114)を立ち上げました。

米国と日本は、太平洋に遠く隔てられていますが、国交の面では良くも悪くも緊密な関係にあります。また、米国のニュースや情報は、日本に数多く伝えられています。

私は、冒頭で述べた2011年2月のAAAS年次大会参加のとき、はじめて米国を訪れました。日本にいながら数多くの情報に接することができる国に、わざわざ実際に行く必要はないだろうと思っていたんです。

しかし、実際に行ってみると、日本で伝えられる米国情報の断片を組み合わせただけでは理解できない部分の大きさと深さに驚きました。文字や写真や動画として切り取られた現実の一部は、背景にある現実そのものではありません。

それは米国に限ったことではないのですが、どうも日本に伝えられている米国の情報は、日本人にとって「日本と同じだ」という安心を与えるものと、「日本より優れている」「日本よりダメ」と劣等感や優越感を与えるものとに偏っているように思われました。

――米国の社会保障や福祉を、まずはトータルでとらえる必要があると。

日本の社会保障・社会福祉を考えるとき、米国の事例は数多く参考にされています。また米国の障害者運動は、日本の障害者運動にも大きな影響を与えてきています。たとえば、米国で始まった障害者自立生活センター(CIL)運動は、1980年代前半、現地で研修を受けた日本人障害者たちによって、日本にも広がり、現在に至っています。

では、米国の社会保障・社会福祉、社会的弱者の生活は、日本に充分に伝えられているといえるでしょうか? 

私は、まったく足りていないと思います。公共・民間含め、数多く存在するサポートのごく一部を切り出して、「米国はこんなに弱者に厳しい」または「米国はこんなに弱者に優しい」と理解しても、日本の人々にとって役に立つ情報にはならないでしょう。もっとも重要なのは、人の生存・生活を支える仕組みは、全体としてどうなっているかだと思いますが。

――とくに「コミュニティ」に注目なさっていますね。

米国の社会保障・社会福祉を語るとき、「コミュニティ」はきわめて重要なキーワードです。日本でしばしばいわれる「自助・共助・公助」の「共助」にあたる部分といえなくもないのですが、日本人が「共助」という言葉で思い浮かべるものと、米国の「コミュニティ」は、まったく似て非なるものだと思います。

米国は、個人主義の国とはいわれますが、実際には「コミュニティ」の国だと思います。障害者や低所得層は、社会的に弱い立場にあるからこそ、コミュニティを必要としています。どのコミュニティにも属せない人の生きづらさは、もしかすると日本以上かもしれません。

そのコミュニティは、どのように形成され、維持されていくのでしょうか? 少なくとも、地域にガッチリとした地縁共同体が存在し、新入りはイジメられながら同化し……という日本のパターンとは異なっていることが多いと思われます。

外的状況が変化するときには、コミュニティも何らかの変化によって対処しなければ、生き延びられません。このとき、どのような生存戦略が取られるのでしょうか? その意思決定はどのようになされるのでしょうか? 

こういったコミュニティ運営のソフト面ともいえる情報は、ほとんど日本には伝わっていない感があります。でも、米国の「共助」、コミュニティを理解するためには、そういった部分こそ重要なのではないかと思います。

――トランプのような大統領の誕生によって、コミュニティに何が生ずるのか、大変重要なテーマですね。

今後、1月に発足したトランプ政権下で、さまざまな外的状況の変化が起こっていくでしょう。特に障害者や低所得層の属するコミュニティは、属する人々とコミュニティそのものの生存のために、さまざまな変化を求められるでしょう。

状況がどのように考えられ、どのような戦略が選択され、その結果はどうなるのか。私は、2年間かけて、変化のなかで米国の「コミュニティ」の姿を理解し、明らかにし、日本の方々にお伝えしたいと思っています。

案外、日本でも実行できる部分が数多くあるのかもしれません。逆に、日本ではとても無理な部分の方が多いのかもしれません。都合の良い部分を換骨奪胎して取り入れると、かえって有害かもしれません。そういったことも含めて、米国のコミュニティの成り立ちと姿、意思決定と変化、そしてその結果を、2年間、じっくり調べてみたいと思っています。

――具体的な調査地域は決まっていますか?

これからとくに力を入れて調べてみたいのは、いわゆる「赤い州」、今回の大統領選でトランプ候補を圧勝させた地域です。日本では、社会的弱者に冷淡であるとされていたり、人種差別をはじめとする差別が激しいとされていたりする地域です。

それは事実ではあるのですが、そのような地域でも、社会的弱者は生きて来ました。どのようにコミュニティをつくって生きてきたのか、トランプ政権下でこれからどうなるのか、非常に関心の持たれるところです。

ボストン市やニューヨーク市、マサチューセッツ州、カリフォルニア州のようなデモクラティックな地域、いわゆる「青い州」では、トランプ候補以外の候補者が、大統領選で勝利しました。このような地域では、地域としてトランプ政権の政策にすぐ従うとは限りませんが、それでも一定の影響は及ぶはずです。若干はレイシズムを語りやすくなっているというかたちで、影響はすでに現れています。

2年間の調査を通して、米国のさまざまな地域のコミュニティの変化をお伝えすることで、日本の方々が、「では、日本ではどうすればよいのか?」を考える素材を増やしたいです。日本の自分が属している日本の何らかの共同体と、米国のコミュニティは、どこがどのように違うものなのか。

「公助」が細っていく、あるいは最初から無に等しいところで、米国の人々はどのような「共助」によって生き延びてきたのか。その米国の「共助」は、日本に移入できるものなのか。どうしても移入する必要があるとすれば、何が必要なのか。こういったことを、日本の多くの方々がじっくり理解され、考えていただけるようになる手がかりをつくれれば、と考えています。

ご支援ください!

三輪佳子氏によるクラウドファンディング「トランプ政権下、米国の「コミュニティ」はどうなる? 低所得層・障害者の生存を追う」をぜひご支援ください。⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/22114

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ライター
1963年、福岡県生まれ。ICT技術者、半導体分野の企業研究者などを経験した後、2000年より著述業に転身。ノンフィクション全般を守備範囲とする。技術者・研究者としての経験を生かしたインタビュー、その分野を専門としない人に対する解説・入門記事に、特に定評がある。2013年3月、丸善より書籍「ソフト・エッジ ソフトウェア開発の科学を求めて」(中島震氏と共著)、2013年7月、日本評論社より書籍「生活保護リアル」を刊行。2015年3月、丸善出版より『おしゃべりなコンピュータ 音声合成技術の現在と未来』(山岸順一氏・徳田恵一氏・戸田智基氏との共著)を刊行、人と科学と技術と社会について、幅広く執筆活動を行っている。

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