- 2017年03月06日 16:46
フェイクニュースはなぜ蔓延するのか――加速化するネットメディアに対抗する「スローニュース」とは? / 朝日新聞IT専門記者・平和博氏インタビュー
1/2玉石混交の現代の情報社会。ソーシャルメディアを通じたデマや偽情報、いわゆる「フェイクニュース」の蔓延が問題となり、米大統領選にも影響を与えたのではないかと言われている。偽情報はなぜ蔓延するのか。拡散防止への取り組み「スローニュース」とは。朝日新聞IT専門記者の平和博氏に伺った。(聞き手・構成/増田穂)
真実よりもシェアされる偽情報
――米大統領選挙にも影響を与えたのではないかといわれる「フェイクニュース」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
オーストラリアのマッコーリー辞典という英語辞典が、2016年の言葉として「フェイクニュース」を選んでいます。それによると、「政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」と定義されています。
ご存知のように、昨年の米大統領選では、まさにこのようなフェイクニュースが氾濫し、選挙に影響を与えたのではないか、と指摘されました。
事実が軽んじられる状況を示すという点では、英国のオックスフォード辞典が2016年の言葉として選んだ「ポストトゥルース(脱真実)」も、近い意味がありますね。その定義は、「世論の形成において、客観的な事実よりも、感情や個人的信条へのアピールが影響力を持つ状況」というものです。
しかし最近では、トランプ大統領が、自身に批判的メディアに対して、「フェイクニュースだ」と連呼するようになっています。これは本来の意味を塗り替えるような使い方で、フェイクニュースの問題をよりわかりにくくしています。
――実際に、フェイクニュースは大統領選挙の結果にも影響を与えたのでしょうか。
昨年の米大統領選では、特に共和党候補のドナルド・トランプ氏を支援し、民主党の対立候補、ヒラリー・クリントン氏を攻撃する内容のものがネットに氾濫しました。有名な「ローマ法王、トランプ氏支持を表明」というフェイクニュースは、フェイスブックを中心に100万回以上拡散しました。
事実、フェイクニュースが、それを検証するファクトチェックやリアルのニュースよりも広く拡散してしまう、という傾向はあるようです。
ワシントン州立大学の研究者、マイク・コールフィールドさんが、「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官、無理心中」というフェイクニュースと、主要新聞の人気記事の拡散力の比較をしています。それによると、フェイクニュースは57万回も共有されているのに、新聞記事の方は、最も多かったワシントン・ポストでも共有数は3万8000回どまりでした。
――だいぶ違いますね。
ええ。米バズフィードも、昨年2月から11月の投票日までの期間で、フェイクニュースと主要メディアで、共有数上位20本の記事を比較しています。それによると、当初は主要メディアの共有数の方が4倍ほどの差をつけて上回っていたのですが、8月以降はフェイクニュースの共有数の方が逆転しているんです。
「ローマ法王、トランプ氏支持を表明」というフェイクニュースは、ネットに流れた当初、ファクトチェックサイトが「フェイク」の認定を公開しています。にもかかわらず、それ以降も別のサイトに転載され、さらに拡散を広げて共有数が100万回を超えるという経過をたどりました。
ただ、それが選挙結果まで左右したのかどうかについては、否定的な見方もあります。
スタンフォード大学とニューヨーク大学の研究者が今年1月に発表した論文によると、トランプ氏支持のフェイクニュースの共有数が3000万回だったのに対し、クリントン氏支持のものは800万回。
トランプ氏支持のフェイクニュースが氾濫していたことは間違いないようですが、それらを目にした人々は、かなり限定的だった、としています。そして、大統領選関連のニュースの情報源として、ソーシャルメディアをあげる人は14%にすぎず、フェイクニュースが選挙結果に影響を与えたとまでは言えない、としています。
タップ一つで共有できる気軽さが拡散を促進
――偽の情報で、しかも限定的なアクセスにも関わらず、こんなにも拡散力があるのはなぜなのでしょうか。
フェイクニュースが広がった主な舞台は、ソーシャルメディアだからです。
リアルな社会なら、デマの広がりは口から口へ、ある程度その範囲が限定されます。ところが、ソーシャルメディアで火がつけば、あっという間に、何万回、何十万回といった規模で拡散してしまうことがあります。ソーシャルメディアでは、誰でも情報を発信したり、共有したりすることができる。タイムラインに流れてきたフェイクニュースを、タップ一つで共有できてしまう、という手軽さも大きいと思います。
フェイスブックの月間利用者が19億人、ツイッターは3億人。それらを通じて、これまでに無かったような規模とスピードで、フェイクニュースが広がってしまいました。
拡散の理由の一つに、ソーシャルメディア上のコンテンツに対する編集責任が曖昧だった点があります。フェイスブックのザッカーバーグCEOは「我々はテクノロジー企業だ。メディア企業ではない」と編集責任を否定してきました。
ただ、フェイクニュース拡散の責任を追及され、「フェイスブックは新たな種類のプラットフォームだ。伝統的なテクノロジー企業ではなく、伝統的なメディア企業でもない」と、コンテンツに対する責任をある程度認める姿勢に転じています。
――元記事をみることなく、タイトルだけでリツイートされたりシェアされたりしますよね。
そうなんですよね。記事そのものは読まずに共有をしているケースも目につきます。
先ほど触れたワシントン州立大学の、マイク・コールフィールドさんが、「反トランプのデモ参加者が3500ドルを受け取っていた」というフェイクニュースを調べたところ、フェイスブックでの共有は42万回だったのに、ページに表示された閲覧数は7万回どまりでした。この閲覧数が正しければ、記事を読まずに共有していた人たちが8割以上にのぼることになります。
もう一つ、ソーシャルメディアは、アルゴリズムでユーザーの興味関心に近い内容を選りすぐって表示します。そうすると、それ以外の視点の考え方が排除されてタコツボ化してしまうし、同じような考え方のユーザー同士、どんどん自分たちが正しいんだ、という確信を強め、先鋭化していってしまう傾向があります。
このタコツボ化は”フィルターバブル”などと呼ばれています。
インターネットは誰とでもつながれるのがメリットと言われてきましたが、この点では、分断を促進してしまう側面を持っていることになります。
このようなソーシャルメディアの特徴も、フェイクニュースの拡散の背景にあると思います。
――根本的な問題に立ち返りますが、そもそも、フェイクニュースはなぜ問題なのでしょうか。
民主主義は、多様な立場の人々が、共通の事実に基づいた議論を通じて、意思決定を行っていくシステムです。事実かどうかは二の次、となると、このシステムの前提が崩れてしまいますよね。
英国議会は1月末、「拡大しつつあるフェイクニュースの現象は民主主義への脅威であり、メディア全般への信頼を損ねる」として実態調査に乗り出すことを明らかにしました。
事実よりも偽情報やデマがネットにあふれ、人々の感情や信条に訴える――そんな状況に多くの人たちが不安を感じていることの表れかと思います。
事実を確認し、真実を報じる
――フェイクニュースに対抗すべく、英国放送協会(BBC)は「スローニュース」というスローガンを打ち出しています。具体的にはどのような報道なのでしょうか。
スピードを競う速報ニュースばかりではなくて、検証や解説という、深掘りをしたニュースに力を入れることで、そのニュースの意味や位置づけを理解してもらおうという狙いのようです。
具体的には、昨年の英国のEU離脱国民投票で試みたファクトチェックのプロジェクト「リアリティチェック」を拡充し、そのテーマを米国のトランプ新政権など、国外にも広げて展開していくようです。BBCは、「ウソや歪曲、誇張との戦いに加わっていく」と表明しています。
スローニュースという考え方は、2009年ぐらいから、アメリカのジャーナリストでアリゾナ州立大教授のダン・ギルモアさんなどが提唱してきました。もとになっているのは画一化したファストフードに対して、地域の多様な食べ物を見直そうと提唱されたスローフード運動です。
ニュースのスピードはどんどん加速し、しかも大量にあふれ出しています。
速報ニュースの一番乗りは、多くのユーザーの注目を集める原動力だからです。速報ニュース競争だけでなく、それにいち早くコメントすることを競う〝コメントダービー〟まで起きている、とギルモアさんは言います。24時間のニュースサイクルは1440分、さらに8万6400秒のニュースサイクルになっている、と。
そんなニュースのスピードを落として、いったん立ち止まり、ニュースの正確さや意味をちゃんと考えよう、というものです。
――イギリス以外でもファクトチェックの取り組みは行われているのでしょうか。
「スローニュース」とは言っていませんが、CNNでもこれと似たような動きがありました。トランプ大統領就任式翌日、スパイサー大統領報道官による初めての記者会見を、あえてライブ中継せずに、ファクトチェックをした上で、配信したのです。
メディアはこの時、前日の就任式の観衆の数について、8年前のオバマ前大統領の就任式と写真を比較し、かなり少ないと報じていました。ところがトランプ政権は、これを否定。報道官も会見で「過去最高」と主張しました。
このように政権の一方的な主張をそのまま伝えるのではなく、確認の上で報じる、という取り組みは、「スローニュース」の考え方に通じると思います。
英国では6年前に、「ディレイド・グラティフィケーション」という、”スロージャーナリズム”を掲げるメディアも登場していますし、日本でも、朝日新聞が国会の論戦をファクトチェックして、紹介する取り組みを始めています。
――ファクトチェックは具体的にどのように行われているのですか。
基本は通常の取材の確認作業と変わりません。政治家の発言の内容などについて、資料などと照らし合わせて、それが事実と言えるのかどうかを判断するわけです。
特に米大統領選では、メディアは大がかりな態勢を組んでファクトチェックを行っていました。
ニューヨーク・タイムズは、トランプ、クリントン両候補者による公開討論会で、安全保障・外交、経済、医療、環境からホワイトハウス、最高裁までの11分野で、担当記者・専門記者合わせて18人のチームを編成し、それぞれの発言をリアルタイムでファクトチェックしていました。
ファクトチェックの判定は、事実かどうか、というだけでなく、「大半は誤りだが一部は事実」といったグラデーションもあります。
ファクトチェックサイトの「ポリティファクト」によると、トランプ氏の発言のうち、「事実」「ほぼ事実」と認定されたのは2割以下で、残りは「半分事実」「ほぼ間違い」「間違い」「とんでもない間違い」に分類。このうち「間違い」「とんでもない間違い」だけで5割を占めている、と言います。
フェイクニュースは、発信者が不明のケースがほとんどです。ただ、それを探る手がかりはあります。
フェイクニュースを発信しているサイトの「***.com」といったドメイン名の登録情報を調べるという方法です。「whois(フーイズ)」というデータベースで検索すると、登録者の名前や住所がわかることもあるんです。
ただ、ドメイン名の仲介業者が登録をしているケースも多く、そうなると発信者にたどり着くのは難しくなります。
――米大統領選に関するフェイクニュースの発信に関しては、米国内外の人々が関係していると聞きました。誰が、何の目的でフェイクニュースを発信していたのですか。
フェイクニュースの広がりには、様々なプレーヤーが絡んでいます。
まず、フェイクニュースの発信者たちがいます。ご指摘の通り、こういった発信者は米国内だけではなく、東欧のマケドニアやジョージアの若者たちも、参入していたようです。彼らの目的はアクセス数拡大による広告収入でした。
100万回以上共有されたフェイクニュース「ローマ法王、トランプ氏支持」には、いくつかバリエーションがありました。ネットでは「ローマ法王、クリントン氏支持」「ローマ法王、サンダース氏支持」というフェイクニュースも流れていたんです。
ところが、「クリントン氏支持」「サンダース氏支持」の方は一向に拡散せず、「トランプ氏支持」の話題だとどんどん拡散して、お金になった、ということのようですね。
――もとは政治と関係のない目的で発信されてたものも多かったのですね。
ええ。ただ、もちろんアメリカ国内では、トランプ氏の支持者たちが選挙目当てでこのようなフェイクニュースをどんどん拡散していった、という面もあります。「オルタナ右翼(オルトライト)」と呼ばれる過激な右派グループも、フェイクニュースの拡散を後押ししていたようです。
さらに、米国政府の情報機関が発表した報告書によると、ロシア政府が大統領選でトランプ氏を当選させようとしてサイバー攻撃を行った、という認定が示されています。このサイバー攻撃で流出したメールなどをもとにしたフェイクニュースも拡散しました。
フェイクニュースの広がりには、このように政治的、金銭的な理由をはじめ、様々な動機が入り乱れていたようです。



