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「南シナ海で米中衝突」を予言!1942年イエール大白熱授業 - 奥山真司(地政学・戦略学者)

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「中国こそが一番の難問となる」

以下、『スパイクマン地政学』の記述を引きながら、その論理をみていこう。

〈「アジアの地中海」(台湾、シンガポール、オーストラリア北辺の三角形の海域)は、戦後のアメリカにとっても最も重要な戦略物資が確保できる場所になるはずだ。そしてここが単一の国家によって支配されることは、アメリカにとって非常に都合の悪いことになる〉

冷戦後の中国の海洋進出は、まさにスパイクマンの危惧した通りの展開だといえる。ここ三十年ほどで国力を充実させてきた中国は、海軍力の増強によって自国の裏庭の「内海」である南シナ海を支配しようと考えるようになり、二〇〇〇年代になってから突然「九段線」を強く主張しはじめた。

自分の周辺地域は自分でコントロールしたいと考えるのは、大国としては当然のことではある。しかし、問題は南シナ海が、世界の主要な海上交通路の一つであることだ。中国のやり方は、人通りの多い駅前通りや幹線道路に、勝手にロープを張って自分のものだと主張し始めたようなものだ。

またスパイクマンは戦後のアジア地域の発展をも予測していた。

〈極東地域はアメリカやヨーロッパのように独立したパワーの拠点となるには時間がかかるだろうが、それでもテクノロジーの発展によって経済力が軍事力に転換されることになる。そしてそれが実現すると、その相対的な重要性は、他の二つの地域(アメリカ、ヨーロッパ)に比べても高まることになる。よってこの地域のバランスを安定させることは、われわれの戦略物資だけでなく、世界政治に与える影響からも望ましいことになるのだ。

第二次大戦が終わったときにこの地域では独立した国々が乱立することになるが、これらを同じような強さの国でバランスをとることはヨーロッパの場合よりも難しくなる。そして戦後の一番の難問は、日本ではなくて、むしろ中国になるはずだ〉

そして、台頭した中国が、アメリカに対抗しうるライバルとなることも視野に収めていた。

〈パワーの潜在性ということで考えれば、中国のほうが日本よりもはるかにあるのであり、敗北したユーラシア大陸の沖合の小さな島にある日本の立場は、かなりの困難に直面することになる。(略)近代化と軍事化を果たした四億人(当時の人口)の中国は、日本にとってだけでなく、アジアの地中海に権益を持つアメリカにとっても脅威となる。中国はその「地中海」の沿岸部から内海までの広範囲を支配する大陸サイズの国家となり、カリブ海におけるアメリカの地位と同じような立場になるのだ。中国が経済的に強力になれば、その政治的影響力も同じように大きくなる。

そしてこの海域が、イギリス、アメリカ、そして日本のシーパワーではなく、中国のエアパワーによって支配されるようになる日が来ることを予測することさえ可能なのだ〉

いかがであろうか?

 繰り返すが一九四二年の時点で、日本が戦争で負けることだけでなく、長年かかって経済大国と化した中国が軍事化を果たし、それがアメリカにとって脅威になるということを、スパイクマンは驚くべき正確性によって予見できている。

もちろん彼の予測がすべて的中したわけではない。たとえば戦後の世界体制を米ソ二極による冷戦体制ではなく「多極化世界に後戻りする」と考えるなど外れた予測もあるが(むしろ冷戦崩壊後の今こそ示唆に富む分析ともいえるが)、地理的条件とパワーの争いという観点から、冷徹に国際政治の動きを見すえていたことは間違いない。

「ウォーゲーム」的思考術

近年、このスパイクマンが、どのようにその予測を組み立てていったのかをうかがわせる興味深い資料が出てきた。

それは晩年のスパイクマンが、イエール大学で行った講義を聴いた元学生の短い回想録である。この人物はネッド・コフィンといい、第二次大戦に参戦した後、ハーバードビジネススクールを卒業、ジープ社の極東部門のマネージャーまで務めたという経歴の持ち主だ。

このコフィンが一九四二年夏学期の国際関係論のコースで、すでに国際的に「地政学者」として圧倒的な知名度をもっていたスパイクマンの担当していた極東に関するゼミを取ったと報告し、当時の思い出を簡潔に綴って、ネット上で公開したのである。

それによると、スパイクマンは学生たちに「ウォーゲーム」形式での授業を行っていたという。

当時進行中だった第二次世界大戦の終わりまでのシナリオを想定しつつ、学生たちにそれぞれ担当の国を割り当てる。そして、その国の代表としてどういった外交を展開するか、シミュレートさせたのである。

もちろん関係各国の軍事力やその配備状況、それに経済力といったゲームのシナリオの前提条件は、スパイクマン自身が決める。それらをもとにして学生たちは週に二、三度集まって交渉を進めていく。最後の授業では、それぞれ講和条約の文案まで考えて、戦争を終結させるところまで行ったというのである。

あいにくスパイクマンは途中で心臓発作を起こして、すべての授業には立ち会えなかったらしいが、学生たちはそのウォーゲームでの熾烈な交渉を通じて、担当していた各国の事情だけでなく、関係諸国の政策やそれぞれの戦略を理解していったという。

そのゼミでの結論はといえば、「国際連盟のような国際的な組織を創設しつつも、例外措置として、強力な主要国には投票の面で特別な力が与えられる体制にする。(略)オランダから蘭印をとりあげて国際連盟の委任統治下に置き(略)仏印にも同じ措置を施す」といったものだった。これを聞いた「オランダとフランスを代表していた二人の学生は、怒りのあまりクラスから出て行ってしまった」。そして、戦後にアメリカが経済的に最強の立場になること、この地域に最大の軍事的プレゼンスを持つことまでが予見されたという。

スパイクマン自身も、このような各国の立場に立った「ウォーゲーム」的な思考を繰り返すことで、余計なイデオロギー的バイアスを排除しながら、純粋にパワー・ポリティクス的な観点から東アジアの将来を予見できたのではないだろうか。

「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ新大統領が選挙公約を実現するために次々と大統領令を濫発している今、自国の都合だけではなく、様々な国の立場や戦略を視野に入れた冷徹な分析の重要性は、いっそう増していくだろう。

おくやま まさし 1972年横浜生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学地理学科及び哲学科を卒業。英国レディング大学大学院戦略学科で修士号及び博士号取得。著書に『地政学 アメリカの世界戦略地図』(五月書房)など。

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