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中国で蔓延する「高利貸し被害」

  日本ではまだあまり知られていませんが、最近中国国内で話題になっていることとして、高利貸しによる被害が挙げられます。またその数も増えてきています。経緯を簡単にご説明しましょう。


  まず舞台となったのが温州。浙江省の中でも多額の資産を有している人が多く、投資やビジネスの上手さに定評があることから温州の人は『中国のユダヤ人』と称されていますが、このエリアで最近増えているのが高利貸しによる被害。製造業がさかんであったこの温州、かつては世界のライター工場、衣類工場、靴工場として名を馳せ、実業にて裕福な層を生み出し、中国では初の民間空港も開かれました。その勤勉さに加え、もうひとつの強みは地元ソサエティの結束力。一旦始めた事業などは一グループとして取り組みます。よって海外市場に対する輸出力も強く、また海外拠点に進出する場合も強いという特性があります。例えばパリのシャンゼリゼ通りの裏には商店が立ち並んでいますが、かつてはユダヤ人がグループでその一帯を押さえていたものの、その後に入った温州人たちは朝から晩まで休みなく懸命に働き、仲間を呼び寄せ、とうとう『中国のユダヤ人』が数で圧倒するようになったほどです。

  このように当初は製造業や実業で隆盛を誇った温州ですが、人件費高騰などの影響により、各企業が東南アジアへと拠点を移すにつれ『世界の工場』という立場が危うくなります。そこで彼らは利益確保のため2000年頃から不動産投資に目を向けます。しばらくは右肩上がりだった不動産、投資をすれば儲かっていた時代です。ただし個人ではその利益幅は限られています。そんな時に発揮されるのが温州の結束力。集団で資金を集めてはマンション群を一式買い上げていました。その際、銀行だけでは供給が足りない多額の資金調達に、高利貸しを利用することが一般的となりました。その後も高まるエネルギー需要から鉱山を買い上げ利潤を求める方向に行きました。過去においては不動産もエネルギー関連も、投資案件全てに莫大な利益が出ていた事実もあり、たとえ高利貸しから資金を調達したとしても返金に困ることはありませんでした。しかしながら昨年4月、政府が不動産バブルを抑制する為に打ち出した新たな法律により、不動産投資に十分な利益が出なくなったことから高利貸しへの返済が滞るようになり問題が表面化、深刻な状況になってきました。

  また資金を貸し出す業態にも様々な種類があり、高利貸し専門業者だけでなく民間人が資金を出し合い一つの小さなファンドのような母体をつくり貸し出しを行うものまで存在します。中国の大手銀行から個人ベースでの借入は容易ではないので、中小企業の経営者の多くはこれらのファンドを利用します。一見仲間で助け合うこのような体系は温州人自身の気質にも合ったようで、企業・民間問わず資金の貸し借り、担保の提供には慣れていった高利貸しに資金を貸し出したり、そこから借入れをしたりと何の抵抗もなく浸透していきました。

  最近のデータでは温州エリアの一般家庭のうち89%、企業のうち59.67%が高利貸しを利用していると示されているくらい企業から民間に至るまでいかに高利貸しに頼っているかということがわかります。現在温州における銀行からの借入額は約1100億元。うち企業の生産関連借入れは35%に留まり、不動産投資に関わる借入れが20%、何と40%にあたる440億元は高利貸しの元資金用に専門業者や個人に対して貸し出されたものということ。

  温州の大企業から中小企業は上述の背景の中、本業とは別に不動産投資、エネルギー投資に手を広げているところがほとんどとなっており、不動産バブルがおさまった現在では資金的にかなりの打撃を受けました。特に中小企業は大企業に比べると体力的に弱いことから資金難に直面、2011年下半期に入ってからはより顕著になっています。温州の民間企業の収益は約30%減少したと言われており、うち4分の1程度が倒産。9月中旬からは高利貸しの返済から逃れる為に有名な企業経営者は海外、国内に夜逃げを開始しました。

  例を挙げると、浙江江南皮革、波特曼珈琲、楽清三旗集団、温州鉄道電器合金、浙江天石電子、恒茂鞋業、巨邦鞋業、錦潮電器、百楽家電、浙江信泰集団などの有名企業、またその保証人となった個人。また夜逃げ以外に自殺者も増えています。経営者が逃げてしまうと、後に残る問題も多く、労働者への賃金未払い額は7,593万元にものぼっているとのこと。またこれらの企業に対して原料の販売をしている企業、高利貸しの債権者は夜逃げが判明するとすぐに工場に押し掛け、金目のものを持ち出したり、工場を焼き討ちしたりするため、現地警察や地方自治体が乗り出し対応しています。しかし10月初旬までで夜逃げした経営者は200名以上にもなるため、その対応も不足しており徐々に社会不安が高まっていると言った状況です。メディアでも『3日毎に1名逃げ、5日毎に自殺者が出ている』と報じられたことがありました。このような状況は温州エリアだけに留まらず、同じ浙江省の他のエリア、他の省にも飛び火しています。

  高利貸しの専門業者は金利をどんどんと上げて行き、年利180%のレベルにも達し、それにつられる形で民間の資金ファンドまでもが金利を上げ、相互補助ファンドではなく専門業者化していっています。そのような状況を見て多くの民間の人たちが高利貸しの元資金を出せば高額のリターンがあると考え、徐々に『ねずみ講』化していったという背景があります。温州で高利貸しが上手くいかなくなると、エリアを移して同様の活動を継続するというわけです。

  最近は農村地帯にもそのシステムが流れて行き、一つの社会現象を起こした例もあります。江蘇省の最も貧しい県の一つといわれる泗洪県での異変がその例にあたります。ここ一年で同エリアで豪華な車が次々に購入され、同県に位置する石集郷は『BMW郷』と称されるようになりました。この何とも不可思議な現象の背景には現地で暗躍する高利貸しの影響が挙げられます。悪徳高利貸しの業者は貧しい集落で一人の元締めを決め、その人が儲かる『ねずみ講式』の高利貸しを組織、元締めは相当な利益がでる仕組みとし、他の人たちが羨むような立場にさせます。農民の受けている教育レベルが低いこと、また親戚や友人の話は信じ込むという心理を利用、加えて苦労よりも一攫千金楽の近道を好むという中国民族が元来から有する一種の『投機心理』を誘導し、瞬く間に浸透します。

  BMWの他にも最近ではベントレー、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ、キャディラックなど、これらのブランドが江蘇省泗洪県で急増。最近では百度(バイドゥ)で『高利貸し』と検索すると『石集郷』が上位に表示されるほど。ネットでこれらの現象が紹介されるや否やネットユーザーたちの間で話題となり、問題が表面化しました。

  ブームに乗って高利貸しに出資をする人も被害に直面しています。結局『ねずみ講』方式がもたらす結果として組織の上位にいる人には利益がでるものの、下位に位置する人は一様に損失が出ます。焦付きで元本が戻ってこないというものです。高利貸しに出資した多くの人は魅力的な収益だけに着目し、貯金や年金、退職金など資金を工面して高利貸しの元資金に直接出資をしたり、それだけでは飽き足らず銀行から融資を受けて更にその資金を高利貸しに投じる手法をとります。

  更に高利貸し業者を装った詐欺団体も発生し、元資金を集める名目で大金を集めそのまま逃げてしまうケースも多発。出資者の中には生活費すら手元に残っていないため、将来に絶望し自殺するケースも出るなど、大きな社会問題となりつつあります。

  中国の国慶節にあたる10月初旬には、温家宝首相自ら休日返上で温州、紹興に入り、問題解決に当たったほど。当面の問題解決方法として年末までを期限に中央銀行が主体となって浙江省政府窓口にて民間企業への再融資を実施(融資金額600億元)し、他のエリアでも同様の解決方法をとって行くということを発表しました。これらの高利貸しは一種のサブプライムローンとも言え、法的にも後手後手に回っていることからもまだまだ被害は拡大しそうです。

  海外の企業はこれらの事情に疎く、実情を知らない欧米の自動車メーカーでは車の売れ行きが急増している郊外地に販売所の設置を増やそうと動いているところもあったそうです。それでも欧米では最近中国における高利貸し問題が報道されはじめ、金融機関が自国の進出企業に対して注意を呼びかけているようですが、日本の報道はまだまだ限られています。高利貸しから資金を借りた民間企業は正式な借入としては決算書に記載しません。書類や資料のチェックばかりを重んじる日本企業は、取引をする相手の実際の資金状況に気づかず、売掛金回収が不能となったりする例も少なくないようです。

  これらの問題を抱えながらもまだまだ成長している中国市場。日本企業の中には中国企業から声をかけられると、マーケットに参入したいという思いから事前調査が甘いまま取り組みを開始してしまう例をよく見ます。日本企業および職員の皆さんに望むことは、実際の現場、現状の情報収集を正しく行い、取り組む相手として正しいかどうかを判断する『現場力』を養っていただくこと。私自身日々企業に役立つ正しい情報収集に努め、日本企業が成功するサポートが出来るよう微力ながら取り組んで行きたいと考えています。

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