- 2017年03月02日 17:07
「R-1ぐらんぷり2017」生放送で150%に進化した"アキラ100%"
【連載】松田健次の「ジダイの笑いをすべて記憶にとどめたい」
「R-1ぐらんぷり2017」、優勝はアキラ100%だった。
全裸の股間をお盆で隠す昭和な宴会芸を、平成の細マッチョでバージョンアップ。たるんだ脂肪肝など女性から敬遠されがちなオヤジ臭を極力デオドラントし、お盆高速返しを始めとするスキルに裏打ちされた技芸で、この賞レースを大外から差し切った。(なお、あの盆返しをスローでコマ送りしてみたが股間はまったく見えなかった。感服)

事前の予想で、このシモネタパフォーマンスを優勝候補に挙げた人はきっと少なかったと思う。何しろイロモノの中でも飛びきりのキワモノだからだ。そんなアキラ100%の優勝に大きなアドバンテージとなった要素が「生放送」だったのではないか。
昨年から幾たびかアキラ100%の十八番ネタ「丸腰刑事」をテレビで見てきた。そこで、あの芸から放たれる緊張感を感じてはきたが、その針が振り切れることは無かった。なぜならほとんどが収録番組であり、もしハプニングがあってもすでに編集で回避されているという「安全」の前提があったからだ。
しかし、「R-1」でのアキラは違った。生放送でしかも賞レース。もしもお盆が落ちてしまったら・・・という「危険」への心配(とヨコシマな期待)が最大限に高まる環境となった。司会の雨上がり決死隊も生放送であることを強調し、それが番組の盛り上げというMCの役割以上にスタジオと視聴者の意識を喚起。アキラ(のお盆)への感情移入が働き、その「気」のようなものが全国からあのお盆に注がれて凝縮、スリリングな股間の元気玉となった。
お盆ネタが決まるごとに吐き出されるリアルな安堵が、笑いの追い風をもたらす。アキラ100%を150%にした要因は生放送という場の効力が大きかったと振り返る。
ゆえに、これが収録番組だったら結果は変わっていたかもしれない。サンシャイン池崎が「優勝~ジャスティス!!」と高らかに吠えていたかもしれない。
そして、生放送でこそパワーがMAXとなる芸風のアキラ100%。今後、生放送を活動の軸足に置けると、よりベターな道を進めるのではと勝手なことを思う。
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さておき、今年の「R-1」で、個人的にツボだったのは石出奈々子だった。一本目に披露したコント「なんとなくジブリのヒロインっぽい女の子が大阪に行ったら」に射抜かれてしまった。ジブリヒロインの傾向を集めて煮詰めて見切り発車させた「あるあるキャラ」、彼女のピュアな目に映って語られる大阪は、紙一重で毒霧に包まれた。
<2017年2月28日放送「R-1ぐらんぷり2017」(フジテレビ)より 石出奈々子ネタ採録>
NA コント、なんとなくジブリのヒロインっぽい女の子が大阪に行ったら
BGM ♪やさしさに包まれたなら/荒井由実 (「魔女の宅急便」主題歌)
(黄色いワンピースにショルダーポーチの少女、板付き)
うわぁ~これが通天閣ね! すごい、空まで届きそう。
あ、こっちはビリケンさま! こんにちは、調子はどう?あっちにもこっちにも、ヒョウ柄のオバサマがたっくさん!
これが大阪のもののけ達なのね。あ、オジサマがた、こんにちは!
昼間からお酒を飲んでらっしゃるの? なんだか楽しそう。
やだ! 全員前歯が無いなんて、へーんなの!
ジブリっぽい少女がディープ大阪の喉元、新世界に降臨している。彼女の無邪気な言動は(アキラ100%の股間よりも)ハラハラさせる。「全員前歯が無いなんて、へーんなの!」、まっすぐで飾らないこのフレーズ、果たして彼女以外の誰が言えるだろうか。ファンタジック過ぎて不謹慎。この毒々しさから目が離せなくなった。
この先、この少女を別の何処か、あまり連れて行ってはいけない場所へ降臨させる番組があったら、絶対に見逃さないと胸に刻んだ。
あ、たこ焼き屋さん!
あたし、大阪で本場のタコ焼きを食べるのがずっとずっと夢だったの。
よぉ~し、(足を開いて踏ん張り、左右の腕をまくりあげ)ふん、ふん、ふんふんふん!
オバサマ、オジサマ、こーんなに大きなタコが入ったタコ焼き、ひとつくださいな。
(受け取って)ありがとう!うわぁ~、夢じゃな~い!(左右交互にジャンプ)
(走り回って)あはははは(転ぶ)あっ、イッターい、
やだ、落としちゃった。私ったらドジね!
うふふふ、あははは、あははは、あははは、(大の字に寝転び)ふしぎ~
ネタ中にリフレインされるキラーフレーズ「ふしぎ~」にとり憑かれ、放送後にこのネタを何度も見返した。すると頭の中で石出奈々子と「LA LA LAND」でアカデミー賞主演女優賞に輝いたエマ・ストーンが並び立ってしまった。オスカー発表の取り違えでも話題が踊った「LA LA LAND」を鑑賞したばかりだった。唐突かもしれないが石出奈々子とエマ・ストーン、なぜ二人が並び立ったのか、その符合に思いを巡らしてみた。
※(以下、映画「LA LA LAND」ネタバレあり)
1.ジブリ少女の石出奈々子は明るく黄色いワンピース。
「LA LA LAND」でのエマ・ストーンは宣伝用のメインビジュアルが、ロサンゼルスの夕景を見下ろすベンチでタップを披露したときの黄色いドレス。二人とも黄色かった。
2.石出奈々子は2008年にコンビで芸人キャリアをスタート。2010年にピンとなり「一人芸」のメジャータイトル「R-1ぐらんぷり」でチャンスをつかんだ。(2014年3回戦、2016年準決勝、2017年決勝)
。
「LA LA LAND」でエマ・ストーン演じるミアは、女優になる夢を追って受けたオーディションで何度も挫折。チャンスをつかむキッカケとなったのは自作自演の「一人芝居」だった。
3.石出奈々子のコントはジブリの名作映画「魔女の宅急便」「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」などのパロディがベース。
「LA LA LAND」はミュージカルの名作映画「雨に唄えば」「パリのアメリカ人」「シェルブールの雨傘」などへのオマージュが満載。
そして、石出奈々子とエマ・ストーン、どっちも石(ストーン)というビミョウな符号も控えめに加えつつ、この時期にこの二人を続けて見た代償として、脳内にあった「LA LA LAND」の素敵な記憶がバグることになった。エマ・ストーンの代わりに石出奈々子が「うふふふふ、あはははは」と笑いながら踊る。ダンサーの中には、ゆりやんレトリィバァとブルゾンちえみの姿も混じる。その溶けこみに違和感はさほどない。ゆりやんもブルゾンも「R-1」ではゆるやかに踊っていたからだ。
「R-1ぐらんぷり2017」と「LA LA LAND」、その混信が2017年2月末の記憶になった。これ以上は深みに嵌らぬようアキラ100%とライアン・ゴズリングの符合はさぐらないでおこう。お盆が「ムーンライト」とかも考えないようにする。
- 松田健次
- 放送作家。落語会の企画制作も手がける。
らくご@座:http://rakugo-atto-za.jp/